第195話(第五章第29話) 乗っ取られたギルド3

 大変なことになってしまいました……。

 私が、私が……っ。

 この二人に目をつけられさえしなければこんなことには……!



 勝手に『ラッキーファインド』のギルドマスターに就任した男の人・ペオール。

 ギルドに入るのもギルドマスターに就くのも、ギルドメンバーの同意が必要なのに……。

 それを必要としないということは、まず間違いなくスキルです。

 許可がなくてもギルドに入れて、ギルドマスターになれるスキル……。

 そういう感じのものを持っていると思われます。


 エントランスの床に横向きに寝転がり、お尻をぽりぽりと掻き始めた男の人。

 なんだか、私たちのギルドを貶されているような感じがして気分が悪くなります。

 サクラさんたちも似たような感覚になったのでしょう。

 ライザに、この人たちを追い出すいい方法は何かないか!? と聞いていました。


 しかし、ライザは暗い表情を見せるだけで何も言ってはくれません。

 私は前回みたいに、この人たちのMPを0にすればいいのではないか? と考えてライザに確認してみましたが、それはやめておいた方がいい、と忠告されました。

 ライザではなくフェミーという女の人に。


「ふへへ、やりたきゃあやれよー。ただし、後悔しても知らねーからなー? この家に入ってきた時、あたしはこの家に『コントラクト』を使ってんのー。



――あたしらどっちか片方でもHPかMPが0になった時、このギルドハウスが壊れてなくなるように設定したったからー」



「「「「「「「っ!?」」」」」」」


 な、何を言っているの……!?

 私たちは固まってしまいました。


 男の人と女の人、どちらか片方でもHPまたはMPが尽きたら、このギルドハウスがなくなる――!?


 そんなことができるって言うの!?


 それは、笑えない冗談、などではなく、脅しでした。

 ライザが悔しそうに黙っているということはできる、ということなのでしょう。

 この二人がスキルを使えないようにしたら、恐らくこのギルドハウスは壊れてしまう……。

 ……どんなスキルなのでしょう?

 自分たちに不利益を生じさせた場合に代償を支払わせる、みたいなスキルなのでしょうか?

 このゲーム、スキルをつくることに関しては本当になんでもありですね……。

 少し……いえ。

 割と本気で、制限を掛けてくれないかな!? って思いました。


 兎に角。

 私たちは、何もできない状況に追い込まれてしまいました。



――私たちが建てた最高級のギルドハウスを人質に取られてしまったことで……。




 押し黙った私たちを見て気をよくしたのでしょうか?

 女の人が語り始めました。

 この人たちが行ったことを。


 私とコエちゃんが『かしずき』状態になっていたのはこの人たちの仕業だった、と明かしたのです。


 二人は私が第一層の宿屋の受付さんと話していた内容を聞いていて、私が第五層まで行けることを知ったのだそう。

 私たちにもたれ掛かれば、楽して強くなれる、と判断した二人は、『イニシアティブ』というスキルを使って私たちを『かしずき』という状態にした、と言いました。



『かしずき』

――スキル『イニシアティブ』によって発生した状態。

  この状態になっている者がモンスターを倒した場合、それで得られる経験値が

  この状態にした者にも分け与えられる。

  この状態になっている者がエリアをクリアした場合、

  この状態にした者もクリアした判定になる。

  この状態になっている者からの他者への連絡は

  この状態にした者の許可がないとできない。

  この他、この状態にした者はこの状態になっている者に対して

  様々な制限をかけられる。



 『かしずき』の説明もされて……。

 ……連絡が取れなくなっていたのもこの人たちが仕掛けたことでした。


 そして、この二人が私とそれほど変わらないタイミングで私たちのギルドハウスまで来ることができた理由ですが、それは、『穀潰し』というスキルを使ったから。


 『穀潰し』――ギルドの倉庫内にあるアイテム、パーティメンバーや『かしずき』状態にしているプレイヤーの所持しているアイテムを取り寄せて使用することができるスキルのようです……。


 それで、私が持っていた「転移シート」を勝手に取り寄せて、勝手に設置して、勝手に使って……!

 ……「転移シート」は二つで一組のアイテム。

 私が持っていたものの片割れは、既にギルドハウスの近くに設置されていました。

 ですから二人は、ここまでそんなに時間を掛けずにくることができてしまっていたのです……っ。


 「転移シート」でエリアをまたぐ時、行ったことのないエリアには行けないのだとか……。

 だから二人は、私が第四層のエリアボスを倒すタイミングを見計らっていた、と言ってきました。


 ……あの時、私が違和感を覚えたあの時、もっと慎重に行動していれば……! と私はひどく後悔させられました。



 ライザが、ギルドハウスを手放すのがあの二人から離れられる最も簡単で確実な方法だ、と提案してくれたのですが、彼女以外は、このギルドハウスを手放すのは惜しい、という気持ちを抱いてしまっていました。

(コエちゃんだけは状況を把握しきれていなくて困惑してしまっていましたが)

 また同じようなギルドハウスを建てるとなると、マーチちゃんだけに負担を強いてしまうことになりますし、ここよりいい場所があるようには思えなくて……。

 それに、このギルドハウスを失うことは、このギルドハウスの倉庫に保管してある貴重なアイテムたちも失うことになることを意味していましたから。


 愛着が湧いているギルドハウス、この景観のいい立地、貴重なアイテム、これらを捨てる覚悟が持てなかったライザ以外の私たちは最悪の選択をしてしまうことになります。


 タイミングを見計らってギルドハウスを取り返し、あの二人を追い出せないか? と。


 この選択が、地獄の選択であることを、私たちは知りませんでした。



 ギルドハウスを守りたかった私たちはみんな、あの二人に『かしずき』状態にさせられてしまって……。

 あの二人のレベルアップをさせられる羽目になってしまったのです。

 それだけではなく、スキル『コントラクト』を使われてスキルを公開させられて(そうしないとギルドハウスを壊す、と脅されて)、私とクロ姉がステータスや装備を強化できると知った二人は、自分たちのステータスと装備も強化するように命令してきました。

 強化しないとギルドハウスを壊す、とまたしても脅してきて……!


 この日は、私とクロ姉がポーションと装備をつくってあの二人のステータスが強化されたところで、もう現実に戻って帰っていいということになりましたが(勝手に帰ればギルドハウスを壊す、と言われていたため許可が必要になっていました……)、初めてゲームを続けたくないという気持ちに私はなっていました。

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