第193話(第五章第27話) 乗っ取られたギルド1(セツ視点)

 ギルドハウスに戻ってきて、家のドアを開けると……。



――ぺちゃっ



 何かが顔に張り付いてきました。


「りゅりゅっ!」


 って、カラメル!?


「カラメ……どうし……!? ちょっ、苦し……!」


 勢いよく飛んできたため、私は押し倒されてしまっていました。

 苦しいことを伝えましたが、なかなか退いてくれません。

 まさか、モンスターとしての本能が暴走して!? なんてことを考えてしまいましたが、そうではなく……。


「……あー、お帰りです、セツ。宝探しの時にずっと一人称わーのバッグの中にいさせられたことで拗ねてるみてぇなんですよ、カラメル……。さっきまで、わーたちに飛びかかろうとしてて必死に逃げ回ってたんですよね……」

「……」


 私が帰ってきたことに気づいたライザが説明してくれました。

 どうやら、自分だけが仲間外れにされていたことが気に入らなくてこのような行動に出てしまったようです。

 私はカラメルを顔から引き剥がして、胸の位置まで降ろして抱きかかえました。


「そっか。ごめんね、カラメル。みんなと一緒がよかったんだね?」

「りゅ~……!」


 カラメルがどう思っているか、は目や口といった顔がないためわかりにくいのですが、今の彼は私にがみつくようにして微かに震えていて、悲しくて泣いているように私には見受けられました。


 よしよし、とカラメルを撫でているとライザが言ってきます。


「いいえ、テイマーもいねぇのにギルドハウス以外で出してたら問題になるじゃねぇですか……ん? 誰かと一緒だったんですか……って、は? なんで……!?」


 その途中、コエちゃんの存在に気づいて、ライザは驚きの表情をします。

 私はお願いしました。


「ライザさん、コエちゃんのこと『視て』もらえないかな?」



……………………



 場所を移動してギルドハウスの中へ。

 そこにはマーチちゃんやクロ姉、サクラさんたちも集まっていました。


========


名前:コエ(NPC )  レベル:2(レベルアップまで16Exp)

種族:人       属性:なし

職業:農家

HP:13/13

MP:11/11

攻撃:11

防御:14(×1.1)

素早さ:10(×0.9)

器用さ:13


========


 ライザにコエちゃんを「視て」もらうと、ステータスが表示されました。

 これについては、他のNPCにも設定されていることなので驚くことではないそうなのですが……。

 問題はこのあと。


========


スキル:『怖いもの知らず』

    ――異なる世界の知識を得られる。

    『禁○×△実』

    ――ゲーム内◇摂□◇た●事が▲実×身■×栄◆になる。

    『――――――――』

    ――…………………………………………。


ジョブスキル:『栽培』


========


 ……これです。


「文字化けしてる……。どうしてこんなことに?」


 最初、私はそこに引っ掛かってしまいました。

 ですが、注目すべきポイントはそこではなく。


「どこ見てんですか、セツ! そこじゃねぇでしょう!?



――NPCのコエがスキルを持ってるっつー時点でおかしいんです!」



 NPCはスキルを持っていない――。

 ライザははっきりとそう言いきりました。


 このあとのことはライザに一から教えてもらったことなのですが、よく考えたらわかることでした。



――このゲームでは同じスキルをつくれない。



 そのため、NPCがスキルを持っていたとしたら、プレイヤーがつくれるスキルに制限がかけられることになります。

 流石の「運営」もそんなことはしていないようで、ライザがこれまでに「視て」きたNPCにはスキルが備わっていませんでした。

 そればかりか、改めて『アナライズ+』で検索してくれて、コエちゃん以外のNPCは誰一人としてスキルを持っていないことが判明したのです。

 初めて会った時のコエちゃんもスキルは所有していなかったそうです。

 それなのに今は持っている……。

 この状況はいったい……?

 私たちは、ライザも含めて、何が起きているのだろう? と情報の整理に追われて、その場は静まり返ってしまいました。


 ちなみにコエちゃんの「農家」という職業はNPCが多く就いている職業で、NPCしか就けないのだとか(ライザ情報)。

(今回のアップデートの際に「運営」はプレイヤーも就けるようにしようとしていたようですが、見送られたそうです)

 そのジョブスキル『栽培』は、植物系のアイテムをダンジョン外(主に街)で育てることができるスキルとのこと。



 しばらくの間、誰も何も発さなかったので、コエちゃんはさらに落ち込んでしまって……。

 これではいけない! と判断した私はみんなに言いました。


「みんな! コエちゃんはもう、元の場所には戻れないみたいで……! だから、その、ここにいさせてあげられないかな!?」


 コエちゃんの不安を少しでも取り払いたくてした提案。

 それをみんなは、


「居場所がないのはつらいと思うの。……ライザ、NPCでもギルドに入れることは可能なの?」

「え? あっ、いえ、普通はできねぇんですが、コエの場合は可能みてぇです」

「なら、入ってもらいましょうよ! あたしはそれがいいと思うわ!」

「ますます謎の現象という感じがしてきましたが、私も異論はありません」

「よ、よろしくね、コエさん……!」

「大歓迎。んふふ……」

「……クロはコエの半径四メートル以内に入るの禁止ねー?」

「なんで!?」


 快く受け容れてくれて。

 コエちゃんは私たちのギルドの一員になりました。


 ただ、



――ライザの顔が僅かにしかめられていたことが引っ掛かりました。




 私たちの仲間になったコエちゃんにマーチちゃんが、レベルを上げてもらおう! と言ったことで、コエちゃんに「256Expドリンク」を使ってもらうことに。

 結果。


========


名前:コエ(NPC )  レベル:19(レベルアップまで528Exp)

職業:農家

HP:38/38

MP:23/23

攻撃:27

防御:46(×1.1)

素早さ:27(×0.9)

器用さ:46


ジョブスキル:『栽培』

       『畜産』


========


 コエちゃんのジョブスキルに『畜産』が追加されました!

 極低確率でモンスターをテイムして使役することができるスキル(テイマーの下位互換)なのだそうです!

 これでカラメルを連れて歩けるのでは……?



 この時の私は知りませんでした。

 魔の手が、着実に私たちに忍び寄っていることを。

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