第192話(第五章第26話) コエちゃんキャリー作戦

 何、これ……。

 連絡できる状態ではない……?

 こんなこと、今までになかったというのに……っ。


「セツさん……?」


 急に固まった私を心配そうに見上げているコエちゃん。

 ……弱りました。

 ライザに聞けば何かわかるかも、と思っていたのですが、何かが起きていて連絡手段を絶たれるなんて……。

 これが「不具合」、というものでしょうか?


 一旦ゲームをやめて「運営」に対応してもらおうか、とも考えました。

 ですがそうすると、この場所にコエちゃんを一人で残してしまうことになります。

 この子は村から離れた場所で独りぼっちにさせられている……。

 そのことが頭を過ると、現実に戻るという選択をすることはできませんでした。

(ゲーム中でも「運営」に要望を送ることは可能だったのですが、この時の私はそのことを知りませんでした……)


 となると、私が取れる選択肢は一つです。



――コエちゃんを連れてこっちからライザの元へ行く。



 そうするしかないでしょう。


「コエちゃん。ちょっと私の仲間に会ってくれないかな? コエちゃんのこと、何かわかるかもしれないし……」

「わ、わかりました」


 コエちゃんが了承してくれたため、私はコエちゃんを連れて第五層まで行くことにしました。



 第五層を目指すことになって、まず始めにコエちゃんに「踏破者の証」を試してもらうことにしました。

 ですが、効果は発動しませんでした。

 コエちゃんが第五層に行ったことがないからでしょうか?

 それともNPCは使えない設定にされているのでしょうか?

 星空を見渡せる草原を訪れたことがあるそうなので、もしかしたら、と思ったのですが……。


 私が「踏破者の証」を使ってライザをこっちに連れてくる、という方法も取れなくはないのでしょうが、それだとコエちゃんを一人にしてしまうことになります。

 僅かな時間だとしてもコエちゃんを不安にさせることはできるだけ避けたいので、この方法は使えません。

 万が一、離れている間にコエちゃんに何かあったら、私が困ってしまいますし……。


 この分では、「転移シート」を使ってギルドハウスに行くことも難しそうです。

 コエちゃんはギルドメンバーではありませんから……。

 「転移シート」を設置したことに誰かが気づいてくれればいいのですが、気づいてくれなかったとしたら待ちぼうけになってしまいます。

 それならコエちゃんをキャリーしていった方が確実だという判断を私はしました。

 コエちゃんはNPCなのでもしかしたらキャリーができない可能性もありましたが、私には根拠は乏しかったのですが、コエちゃんをキャリーできる気がしていたのです。

(根拠は、コエちゃんが星空を見渡せる草原に行ったことがある、と言ったこと)



 というわけで、コエちゃんキャリー作戦開始です!

 私はコエちゃんを連れて第一層ダンジョン4「スクオスの森」に向かいました。


 ……?

 その道中、何やら違和感を覚えます。

 なんというか、つけられているような……?


 私は、急いでこの場から離れた方がいい、と思ってコエちゃんの前に屈みました。


「乗って? ……ちょっと急いだほうがいい気がする」

「え、えっと、いいんですか?」

「うん、大丈夫。むしろ乗ってくれた方がありがたいかな?」

「そ、それでは、失礼します……」


 コエちゃんに促して、背中に彼女が体重を預けたのを確認して、私はコエちゃんに忠告しました。


「しっかり捕まっててね? あと、危ないから喋らない方がいいかも」

「え? それってどういう――うわっ!?」


 私はコエちゃんを背負って走り出しました。

 何か言いかけていたような気がしますが、後方からの薄気味悪さを感じていた私は早くその感覚から解放されたくてコエちゃんの言葉を聞いている余裕がありませんでした。



 不要な戦闘は全て回避して、「スクオスの森」ダンジョン3階ボス部屋へ。

 入口付近でコエちゃんを降ろし、お部屋の中央に。

 そこはここのボス、黄プディンが現れる場所で、私は黄プディンが出現する前にその場所に到着、黄プディンが出現するとと同時に投げて倒しました。


 階段を上った先にいる第一層のエリアボスも現れると同時に倒しています。

(ここの大きなスクオスは天井に現れるのですが、高くした素早さを最大限に活用した跳躍で天井まで行きボススクオスの首を掴んで強引に引っ張ったら、力が強すぎたみたいで地面に激突して消滅しました……)


 第二層もすぐ突破しようと考えていたのですが、街の門番さんに止められて出ばなをくじかれます。

 曰く、コエちゃんの格好がそれでは街の外には出させられない、とのこと。

 コエちゃんも「寒熱対策のローブ」や「防塵ゴーグル」が必須みたいです。

 私は第二層の武器屋まで戻り、コエちゃん用の装備を準備してから「リスセフ遺跡」へと、コエちゃんを背負って向かいました。


 「スクオスの森」同様、戦闘はなるべく避けて、ボス戦は相手が現れる場所で出現したら投げられるように待機してそれを実践し、勝利しました。

 エリアボス戦はボスリスセフが私に麻痺が効かないと悟ってからは一方的な展開に。

 コエちゃんを狙ってきたので容赦なく投げ飛ばしました。


 第三層も第四層もやることに大きな差はありません。

 第三層でも装備を揃えて「アホクビ海底谷」へと向かい、赤プディンの巣とボスアホクビを攻略しています。

 第四層では装備を整える必要がないためそのまま「タチシェス自然保護区」に直行して、青プディンの巣をクリア。

 苦戦を強いられたタチシェスウィザードも今では無理なく打ち破ることができました。

(幻惑魔法は「バステ無効」で効かず、凍結魔法は装備の「いいとこどり」で無効化できたので)


 大体一時間四十分ほどで第五層に辿り着けた私たち。

 コエちゃんは、私の素早さだったり、目まぐるしく変わる環境についていけなかったりで目を回していましたが……。



 兎に角、あとはライザに「視て」もらえばなんとかなるはず……!

 私はコエちゃんの手を引いてギルドハウスを目指しました。


 これで一件落着になる、そう思っていたのですが、状況は急変することになります。



――私がよく確かめもせず、エリアボスを倒す方法で第五層まで来てしまったことで。



~~~~ 約二時間ほど前 ~~~~



 第一層宿屋の受付にセツがイベント村について聞いていた時のこと。


「イベント村にはもう行けない、ってそんな……! 私たちは第五層の受付さんと話してイベント村に行ったから、そこからじゃないといけない、ってこと?」

「そういうわけではございません。そのイベントは既に終了しております。そのため、どの街の受付からであっても行くことはできません」


 セツと受付のこの会話を遠くの方で聞いていた人物がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る