第189話(第五章第23話) それほど警戒していたようなことにはならなかった
やってきました、「アホクビ海底谷」ダンジョンB12階。
エリアボス前の安全地帯とエリアボスの間のみという、他のフロアに比べたら狭い空間です。
そこにあるのは「レメディ」だけで、案の定、このフロアに魔法陣はありませんでした。
一応、隠し部屋の方も行ってみたのですが、そこでも発見することはできず……。
私たちは頭を悩ませていました。
「なんで!? 『地図』のヒントには『B12階にある』って書いてあるのに……!」
「『レメディ』しかなかったねー……。エリアボスがいたとこには何もなかったし……」
「『ここ』に書かれていることが間違っているのでしょうか?」
「ふぇえ!? で、でも、それだと探しようがないんじゃ……!」
サクラさんたちはこの結果にひどく混乱してしまっていました。
対して私たちはというと……。
「……またやってきたの。これがこの『運営』のやり口なの!」
「『リスセフ遺跡』でも似たようなことあったもんね……。6階に隠されている聖水の祠を見つけなくちゃお宝が隠されている部屋には行けない、って……」
「……確認。壁、壊す?」
「……それはまだ、で」
またか……、みたいな感じに。
それからマーチちゃんがサクラさんに、どうしてボクたちの顔が曇ってたかわかった? と聞いて、サクラさんが、ええ……、と返して。
そのままマーチちゃんが「運営」にやられた数々の仕打ちをサクラさんに話し始めました。
スキルの制限を掛けられた、とか、生産職は参加するなと言わんばかりのイベントを開催された、という愚痴を。
サクラさんはマーチちゃんの言葉を受けて、何それ!? あり得ない! と「運営」が私たちにしたことに対して怒ってくれていました。
私はそんな二人をただ眺めていましたが肩を叩かれて、振り向くとパインくんに確認されました。
「えっと、あの時……『リスセフ遺跡』の5階でボクと会った時って、隠し部屋から出てきたところだったの?」
と。
「大体はそうだけど、ちょっと違うかな? 5階にあったのはお宝がある部屋で、『リスセフ遺跡』の隠し部屋は――」
パインくんからの問いに答えている最中、私は自分で発していた「リスセフ遺跡の隠し部屋」という言葉で、閃きました。
考えが頭に浮かんできます。
「そ、そうだ、ライザさん! 隠し部屋って一つのダンジョンに一つしかないのかな!?」
即座にライザに確かめます。
一つのダンジョンにある隠し部屋の数を。
私が気になったのは、「リスセフ遺跡」の隠し部屋の位置。
――通常は各フロアに上り階段は一つしか存在しないのですが、「リスセフ遺跡」の7階には上り階段が二つ存在していました。
もし、一つのダンジョンにある隠し部屋が一つではなく複数あったとしたら……。
このダンジョンも「リスセフ遺跡」のようにB11階に二つ目の下り階段が隠されているかもしれない! そう思いついたのです。
ライザからの答えは……、
「セツ、段々鋭くなってきましたね。そうです、ダンジョンにある隠し部屋が一つとは限りません」
でした。
このことを把握した私はみんなに伝えました。
「探すのはここじゃない! みんな! B11階を探そう!」
と。
私の言葉をみんなは聞いてくれて、私たちはみんなで階段を上ってB11階を調べることに。
そうして、一番可能性が高そうな場所を見つけました。
モンスターハウスです。
そこに出現した60体のアホクビを一瞬にして殲滅して、私たちはモンスターハウスの中を捜索しました。
みんなで手分けして壁や天井、地面におかしなところがないか確かめていたので、それを見つけたのはすぐでした。
仕切りに見せかけている幻です。
見つけたのは地面を見ていたキリさん。
隠し通路、今回は普通に
前回は下を目指していたのに、そこへ繋がる隠し通路は
……ただ、このダンジョンは水の中で浮力がありますから、「地図」のヒントがなければ幻の地面の下には行けなさそうだな……、と思いました。
角の方でしたし……。
幻の地面をすり抜けて進んでいくと、そこに下り階段があって。
それを降りると、魔法陣だけがある狭い空間に辿り着きました。
「地図」を持ってその中に入ると魔法陣が作動して、私たちを白い光が包み込みます。
光が消えると、目の前には念願の宝箱。
無事、最終目的地に到着できたようです。
「……これはひどいわ」
「報酬って感じじゃなくない? めっちゃ手間なんだけど……」
「『宝の地図』を入手できたとしても、その宝を手に入れられない可能性だってありますよね、これ……」
「ヒントがヒントじゃないよ……」
やっと終わったお宝探しに、サクラさんたちはそんな感想を述べていました。
彼女たちも本当の意味で、優勝賞品を手に入れることの大変さ、を理解できてしまったようです。
イベントで1位になればいいという話ではない、という……。
それにしても、今回のはまだマシでした。
一時間ほどでお宝を見つけることができましたから。
「リスセフ遺跡」のものはもっとかかっていたので警戒していたのですが、それほどではなくてホッとしました。
第三層最後のお宝は『簡易転移シート(ギルド専用)』。
二枚一組のシートで、異なる場所に設置し、片方から片方へ転移することができるアイテムなのだそう。
一度使うと壊れてしまうという欠点があるそうですが、ちょっと悪いことを思いつきました。
「これ、マーチちゃんが増やしてクロ姉が強化したら……?」
「……ほんと、鋭くなりましたね、セツ。できますよ、それ」
どうやら、品質を高めたら使い捨てではなくなる、とのこと。
ライザに、鋭くなった、と言われましたが、そんなに前の私は鈍そうだったのでしょうか?
……いえ。
褒められている、と捉えることにしましょう!
ということで、私たちは宝箱があった9階南側の小部屋で「簡易転移シート」を「転移シート」にしていました。
~~~~ コエ視点 ~~~~
「ここは……!?」
満天の星空が輝く場所で私は佇んでいた。
これまでに訪れたことのない場所だ。
不安が押し寄せてくる。
『ようこそ。ギフテッド・オンラインの世界へ』
「ひっ!?」
突如として頭に直接響くように聞こえてきた声に、私は悲鳴を漏らした。
そんな私に構うことなく、その「声」は続けた。
『ここでは「あなた」の設定を行うことが――ピピー、ザザー……――
あなたはその姿以外でこのゲームをプレイすることはできません』
な、何を言っているんだ……?
姿の設定?
ゲーム?
わけがわからなかった。
しかし、私が戸惑っている部分の説明はなく、進んでしまう。
『あなたの職業は「農家」に固定されています。変更できません。
あなたの種族は「人」に固定されています。変更できません。
あなたは属性を保有できません。
続いてスキル設定を行ってください』
え?
す、スキル設定……?
またわけのわからないことを……。
スキルって設定できるものではないだろう?
『スキル設定を行ってください』
「お、行え、って言われても意味がわか――」
『スキル設定を行ってください』
「ちょっ――」
『スキル設定を行ってください』
「待って!」
『……応答がありませんでした。スキル設定をこちらでランダムで行わせていただきます。スキルを設定しました。それでは「ギフテッド・オンライン」の世界をお楽しみください』
こうして私はどこかの街に放り出された。
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