第188話(第五章第22話) イベント後の恒例行事

「どうしてそんなに浮かない顔をしてるのかしら? 優勝賞品はこの通り手に入れられたっていうのに……」


 私たちの気分が晴れていないことに気づいたサクラさんが聞いてきました。

 私は答えようとしましたが、マーチちゃんと話すタイミングが被ってしまって、サクラさんには伝えられませんでした。


「……えっと、それは――」

「今にわかるの。たぶん、聞くよりも見た方が早いと思うの」


 要領を得ないといった様子で首を傾げているサクラさん。

 ということで、サクラさんたちにも優勝賞品がどういったのもなのか、ということを体験してもらうことになりました。



 「踏破者の証」を使って全員で第三層「ブクブクの街」へ。

 マーチちゃんが「モンスター除けのお香」を準備しに行って、お宝探しが開始となりました。


 「タチシェス海浜公園」ダンジョン9階西側。

 そこには数えられないほどの小さな島が点在していて、どこの島がお宝と関連がある島なのか見分けるのが一苦労でした。

(ライザに聞けば一発だったのですが、それだと少し達成感が薄くなりますから)


 一時間半ほどかけて、マーチちゃんが「お香」が置けそうな台座がある島を発見します。

 みんなで集まってそこにアイテムをセットすると、海の中から水でできたタチシェス・ミズノタチシェスというモンスターが現れて、戦闘になります。

 ライザが注意喚起をしてくれたので、不意打ちをされるということはありませんでした。


 ただ、このミズノタチシェス、「アホクビ砂丘」にいたスナノアホクビとほぼ同じ性質を持っていて、切り込みに行ったサクラさんの攻撃をいなしてしまったのです。

 正確には、切ったそばから水同士がくっついて元の形に戻っていてダメージを与えられていなかった、と言った方が正しいかもしれません。

 こんなのどうすればいいの!? と狼狽えるサクラさんに代わってススキさんが槍で刺突を繰り出しましたが、結果はサクラさんの時と同じで……。

 ミズノタチシェスが鼻で笑うような表情をこちらに向けてきました。


 ……あれ? なんか悪寒が……っ。


 私がそう思った時、サクラさんとパインくんが慌て始めます。


「ま、まずいわ……っ!」

「みなさん! ボクの後ろにっ!」


 二人が、特にパインくんがあまりにも必死だったから、私たち「ファーマー」勢も彼の言葉に従って急いで彼の後ろに。

 パインくんが透明なハニカム構造の壁を展開した直後、壁の反対側にいるススキさんが怪しく光り始めて――



――チュドォオオオオオオオオンッ!



 すさまじい爆風と爆音を轟かせたのです。

 爆破の勢いもきっとすごかったのだと思います。

 私たちはパインくんの障壁で守られていましたが、ミズノタチシェスはその形を保てずに爆散させられていましたから。


 勝ち誇っていたススキさん。

 ……ただ。

 それでもミズノタチシェスは再生を行おうとしていて。

 完全には倒しきれていませんでした。


 結局、元に戻ってしまったミズノタチシェスにススキさんが狙われそうになったところをマーチちゃんが黄色系の魔石の弾を射て、それで怯んだミズノタチシェスにクロ姉が向かって行って地属性を纏わせたハンマーを叩きつけて倒しました。


 「物理無効」を持っていたミズノタチシェス……。

 その特殊効果を持っている相手に対抗できる手段が私には一つしかない、というのは問題点ですよね……。

 「猛毒無効無視」の猛毒薬をもっとつくっておくべきでしょうか?

 その猛毒薬なら確実に倒せるはずなので。

 ……うーん、でも、あれ、劇物だからなぁ……。

 ……もうちょっと考えましょう。


 ミズノタチシェスを倒すと宝箱が出現しました。

 ちなみにライザによると、「地図」を持っていなくても同じ手順を踏むことでミズノタチシェスと戦うことはできますが、宝箱は出ないそうです。

 中には『パワーアップの秘玉(種族)』が入っていました。

(「種族」が進化して、上がりやすいステータスが1.25倍、上がりにくいステータスが0.75倍になるそうです)


 このダンジョンでのお宝捜索を経て、サクラさんが


「どうしてあんな浮かない顔をしていたのか、わかった気がするわ……」


 と呟いていましたが、それが聞こえていたマーチちゃんは


「これはまだ優しい方なの。ねぇ、お姉さん?」


 と私にだけ聞こえるように小声で確認してきました。

 私は苦笑することしかできませんでした。



 「スクオスの住まうラグーン」ダンジョン10階。

 ここのお宝探しは割と簡単なものでした。

 とはいえ、一時間ほどかかりましたが……。

 カギとなる宝石サンゴがあったのは、まさかの隠し部屋の中。

 同じフロアにあるというヒントだけはライザからもらっていたので、10階を探し回ったのですが見つけられず、一応隠し部屋も見てみようと思って行ってみたら発見した形です。


 フロアの北側にはちょうど宝石サンゴが嵌りそうな岩があって、そこにサンゴをセットしてみるとその岩が動き出しました。

 ちなみに、ここも「地図」を持っていなくてもサンゴは嵌められるけれど、岩が動かないそうです。

 岩の下には僅かな空間があって、そこに宝箱が。

 中身は『呼び出しベル』。

 ダンジョンで使用でき、使ったフロアにいるモンスターを集めることができるアイテムらしいです。

 ……お宝、でしょうか?



 「リスセフの沈没船」ダンジョン11階東側。

 「地図」を持ってそのダンジョンに入ると、異変が生じていました。

 なんと、「地図」を持っていなかったらモンスターしか出てこなかったダンジョンに、人(NPC)がいたのです!

 それも一人ではなく、数十人もの人が!

 その人たちは半透明で生気のない顔をしていましたが……。


「いやああああああああ!」

「きゃああああああああ!」


 その人たちを見るたびに、サクラさんとパインくんが悲鳴を上げて私に抱きついてきました。

 二人はホラーが苦手なようです。

 ですが……あの、なんで私に抱きつくんですか?

 サクラさんはお姉さんだから怖い時にススキさんやキリさんに抱きつきたくない、っていうのはなんとなく理解できなくもないのですが、パインくんはススキさんやキリさんの方がよくありません?

 それにしても、本当に柔らかいですね、パインくん……。


「いやー(棒読み)」

「……どさくさに紛れて抱きつかないでください、クロ姉」

「敬語!?」


 とりあえず、これは使える! と思ったであろうクロ姉には牽制をしておきました。

 私、クロ姉がホラー、大丈夫なのを知っていますから。


 ここで行ったのは幽霊さんたちのお使いでした。


 この手紙をあの人(幽霊)に届けてほしい、とか。

 なくした指輪を探してほしい、とか。

 部屋にモンスターが溢れて困っているからどうにかしてほしい、とか。

 復活薬を持ってきてくれ、とか。


 これら四つのリレー形式の依頼を達成すると、宝箱があるお部屋の鍵をもらえる仕組みです。

 それで宝箱からゲットできたのは『反射の盾』(盾職専用)。

 お宝……。



 今のところ三つ中二つが微妙な感じでしたが、まあ、それはそれとして。

 いよいよラスト。

 問題の「アホクビ海底谷」のお宝探しです。

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