第186話(第五章第20話) イベント村からの帰還と崩壊
「ふぅ、すっきりしました」
「……いい笑顔するな、なの。怖いの」
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」
リスセフの大群を『大爆発』で蹴散らしたススキさんが満面の笑みでこちらに向かってきます。
それに対してマーチちゃんがすかさずツッコミを入れていて、パインくんが謝り倒します。
……。
私は何も言えなくなっていて、ライザに至っては、『アナライズ』じゃ人の性質は「視え」ねぇんですよね……、とぼやくようにして物思いに耽っていました。
「あーあ、やっちゃったね……。スーちゃん、案外沸点低いから……」
「執念深くもあるし……。よほど嘲り笑われたのが気に食わなかったみたいね……」
ススキさんにこんな一面があることを知らなかった私たちは驚きを通り越して引いてしまっていましたが、ススキさんのことをよく知っているサクラさんたちは、いつものこと、といったような感じで受け止めていました。
……それでも少し引いていましたが。
この場でススキさんに対して引いていなかったのはクロ姉だけでした。
(クロ姉はそもそも、「小さい子」に関わらなければ、その他の人がどんな性格でも自分には関係ない、というスタンスみたいですので……)
村の西側は大変なことになっていましたが、パインくんが障壁を張っていてくれたおかげで村自体に被害はなく。
ギルドイベント『イベント村救出イベント』、無事終了です。
私たちの前に画面が開いて、そこに結果が表示されました。
『ギルド「ラッキーファインド」――
――0ポイント』
「0」と書かれていたので、この結果がいいものなのか悪いものなのかわからなくてその場は一瞬静まり返ってしまったのですが、ライザが調べて教えてくれます。
「このイベントは、村の外壁が攻撃されたら『-1』、村の中を攻撃されたら『-5』、村人が攻撃されたら『-10』、村人がやられたら『-50』っつー減点方式みてぇで、『0』は最高得点らしいです!」
「っ! そっか! それなら……!」
「同率はいたとしても、1位は確定なの!」
「1位……!? あたしたちが1位……っ!?」
「まあ、今までのイベント、二つとも1位取ってるセツちゃんたちが建ててるギルドだしねー。不思議じゃないんじゃない、サクラ?」
「それに、今回のイベントはほとんどセツさんが対応していたようなものだと思います。私がスキルを使えたのもセツさんから頂いたアイテムのおかげでしたし……」
「ほ、ほんと、すごかった……」
「セツちゃんは神! 敬って!」
「クロ姉、それやめて?」
「なんで!?」
「0ポイント」はこのイベントにおいては最高得点らしく。
私たち『ラッキーファインド』の1位が確定した瞬間でした。
私たちは大いに喜び合いました。
そのあと、村の人たちから感謝の言葉とイベント参加景品(ライザ曰く)だという『何かの種』をもらって。
私たちはイベント村から帰ることになりました。
========
イベント村救出成功、おめでとうございます。
『ラッキーファインド』の皆様の記録は0ポイントです。
これより、イベント限定エリアからの帰還を行います。
========
という画面が目の前に現れて。
村の人たちとお別れする、ってなった時、コエちゃんが私たちの前に出てきました。
「ま、待ってください! まだ一緒にいたいです! 私を守ってっ!」
彼女の村が襲われることはもうないと思うのですが、それでも彼女からは切羽詰まっているような雰囲気が感じ取れます。
これはどういう展開なんだ? というような様子で顔を合わせたあとに首を傾げていたマーチちゃんやサクラさんたち。
ライザですら、この展開には困惑を覚えていたみたいで。
(クロ姉だけは、私とコエちゃんの絡みを見て和んでいましたが)
誰もが戸惑うなか、私はこのようなことになっている理由を思いつきました。
あんなことがあったので、きっと不安でたまらなくなってしまっているのだ、と。
だから私は、
「ごめんね? もう行かないといけないみたいだから。だから、これ、あげるね?」
ポーチから一つの薬品を取り出してコエちゃんに渡しました。
それを受け取ったコエちゃんは、
「……また、会えますか!?」
そう縋るように聞いてきて。
彼女を安心させたくて、なんの根拠もなかったけれど、私は転移をする際の白い光に包まれながら(まだ淡い光の時に)笑顔で答えました。
「うん! きっと……!」
私がそう言うと同時に光は強さを増して。
目を再び開けられるようになった時、私たちの目の前に村はなく、宿屋の受付に戻ってきていました。
~~~~ コエ視点 ~~~~
……セツ。
それにその仲間たち……。
……本当に不思議な人たちだった。
途中、「村を脅かす怪物」が現れた時は本当にダメかと思った。
けれど、またしてもセツが助けてくれた。
本当にすごい人だ。
村に攻めてきていたリセなんとかという集団も退治してくれたというのに、その上、怪物という脅威まで取り払ってしまったのだから。
……だが。
彼女は、彼女たちは帰らなければいけなくなった、と言う。
いきなり、だ……。
すごい安心感を覚えていたのに、急激に不安が襲い掛かってきた。
私は嫌がった。
だだをこねた。
別れたくなくて。
それでも、どうにもならなくて……。
……けれど。
セツは私に何かの液体が入った容器を手渡してきた。
それは澄んだ空のような青い色をした液体で。
セツからもらったものだ、大事にしなければいけない、そう思って、私はそれを抱きしめるようにして持った。
もう別れることは避けられないらしい。
ならば、と私は確認した。
――また会えるか? と
すると、
――きっと会える。
という言葉が返ってきて。
それでセツは、セツたちは白い光に包まれて消えていった。
彼女たちを見送った私は誓った。
――強くなろう。
「決められた運命」を退けられるくらいに。
そしてまた会うのだ。
彼女たちと、セツと! ――
……………………
ただ、「運命」というものは残酷だった。
あれから三日後。
この世界を黒いもやのようなものが襲った。
もやはどんどん広がっていき、建物や生き物を呑み込んだ。
もやの中に入ってしまった者は二度とそこから出ては来なかった。
それが見えていたのは私だけだった。
両親にも村の人たちにも見えていなくて、彼らはいつも通りの生活を送っていた。
もやに呑み込まれて消えていく人たち。
私は両親の手を引っ張ってもやから離れようとした。
しかし、見えていないから動いてくれなくて。
二人も黒いもやの中に入ってしまって、そこから出てこなかった。
声を掛けても返事はなく。
私は一人、もやから逃げ惑うことになった。
ほどなくして。
私は一人だけとなった。
全方位をもやで囲まれてどうすることもできなくなった。
セツがくれた容器を抱えて祈る。
しかし……。
私も黒いもやの餌食になって、そしてあの世界には誰も、何もなくなった。
もう人生を繰り返したくない――早く終わることを望んでいたが、まさかこんなことになるとは……!
何も見えないし、何も聞こえない。
何もない……っ!
それは間違いなく、終焉だった。
嫌だ――そんな感情が私の中に芽生えた。
これで終わりたくなんてない!
私は久しぶりに願っていた。
――生きたい! と。
そう望んだ時、温かさが私を包んだ。
それは容器を持つ手から広がっていて。
そして、聞こえてくる。
――『ようこそ、ギフテッド・オンラインの世界へ』
そんな言葉が――
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