第185話(第五章第19話) イベント村を守り抜け7

 ヤバそうなモンスターは倒したので、私は持ち場に戻ろうとしたのですが、コエちゃんに呼び止められました。


「ま、待ってください! 今、いったい何を……!?」


 コエちゃんは怖がっていたので、もしかしたらあのモンスターの強さを理解していたのかもしれません。

 そんなモンスターが一撃で黒い粒子になり果てたとしたら……うん、気になるでしょうね……。

 ただ、私にはまだやらなければいけないことが残っているので……。


「ごめんね!? ちょっと今、忙しくて! あとで話すよ!」


 そう言って、私はコエちゃんとの会話を切り上げさせてもらって、カラメルがひとり頑張っている北へと急ぎました。



「りゅりゅ~……っ!」


 私が元いた場所に帰った時、目にしました。

 寄って集ってカラメルを殴りつけているリスセフの集団を。

 それを必死に耐えているカラメル。

 彼の攻撃力を私は奪ってしまっていましたから、あの数には反撃することができないようで……!

 私はいてもたってもいられなくなりました。


「カラメルに何をしてるのっ!」


 巨大化しているカラメルを飛び越えて、リスセフたちの後方に着地した私。

 リスセフたちが振り返るよりも早く、私は「技」を使いました。

 何度も使っていたために「技レベル」というものが上がっていた『アシッドレイン』を。


========


『アシッドレインLv:3』――使用者の半径1.6メートルに毒の雨を降らせる技。

             消費する猛毒薬の量は四秒につき一目盛分。


========


 猛毒薬ULTウルトランク5を私の真上に向かって撒くようにすると、超特大フラスコは空になり、私の上にだけ紫黒色の雲が形成されます。

 そこから降り始める紫黒色の雨。

 その状態で私は走りだしました。

 大きくなっているカラメルに止められているリスセフの集団のすぐ傍を。


 紫黒色の雲は私の素早さについてきますから、雨は私がその傍を通ったリスセフにかかります。

 使用した猛毒薬はULTランク5のものなので、耐性を256%の確率で無視しつつ、一秒間に最大HPの64%分のダメージを与えます。

 紫黒色の雨がかかったリスセフは二秒で消滅。

 大体十秒から二十秒ほど全力で駆け抜けると、カラメルの周りにいたリスセフはいなくなっていました。


 技を解除してカラメルに駆け寄ります。


「カラメル、大丈夫!?」

「りゅ~っ!」


 小さくなって私に飛びついてくるカラメル。

 私はカラメルを抱きとめて彼のことをよく見てみると、HPが三分の一くらいにまで減っていました。

 カラメルのHPは28,000以上、防御は7万以上あるというのに……。


 ……そうでした。

 敵がいくら弱かったとしても受けるダメージを「0」にすることはできないんでした……。

 しかも、相手は一体ではなかった……。

 4千体以上ともなれば、受けるダメージは相応に大きくなってしまう……。

 それでもカラメルが耐えられたのは、彼が一秒間に最大HPの4%を回復する『HP継続回復』を持っていたことと、デバフであの集団の素早さを下げて攻撃速度を遅くしていたからでしょう。

 カラメルに無理をさせてしまった、と申し訳ない気持ちでいっぱいになります。


「ごめんね……、大変なことを押しつけてごめんね、カラメル……!」

「りゅっ、りゅっ」


 私はカラメルをぎゅっと抱きしめようとしました。

 ですが、カラメルはぴょんっと私の腕の中から脱け出します。

 抱き締しめられるのは嫌だった!?

 ガーン! となってしまった私でしたが、カラメルがそうした理由はすぐにわかりました。

 その形を平行四辺形みたいに変えて東、南、西と順番に示したことで。

 それが意味しているのは、ライザ、サクラさん、クロ姉、キリさん、マーチちゃん、ススキさん、パインくんのところにまだ敵が残っている可能性がある、ということ。



――イベントは終わっていない。



 それをカラメルは教えてくれたのです。


「まだ『clear』って出てきてない……! そうだね! 応援に向かわなくちゃ!」


 私はハッとして(カラメルにハッとさせられて)、カラメルを抱き上げて走り出しました。



 東、南、西のどこに行こうか? と悩みましたが、カラメルが示してくれます。

 東を差すようにしてくれたので、私はまず東に向かいました。


 そこには苦戦を強いられているライザとサクラさんの姿が。

 ライザが連続で相手をノックバックさせたり怯ませたりしていましたが、相手の数の多さにギリギリなんとか踏ん張っている状態でした。

 私はライザとサクラさんの前に出て、一体のリスセフを投げ飛ばしてから言いました。


「援護するよ!」

「セツさん!?」

「っ! 助かります!」


 それからはそれほどかからずに東門防衛完了となりました。

 カラメルが最終防衛ラインを務めてくれましたし、さらにライザとサクラさんのステータスの底上げをしてくれたので。

 ライザが一撃でリスセフを倒せるようになると、あの素早さなので一気です。

 すぐに片付きました。


 ……あれ?

 私作成のバフポーション(制限付き)をみんなに渡していたはずなのですが、ライザとサクラさんは使った形跡がありませんでした。

 何故なのか、を聞くと、私のステータスを思い出したら本当に元に戻るのか心配になった、とのこと。

 ……聞かなければよかったです……。



 そのことはもう忘れることにしましょう!

 次もカラメルの判断で、私たちは南に向かいました。


 クロ姉とキリさんも苦戦していて……。

 クロ姉が風を纏わせたハンマーでリスセフたちを吹き飛ばし、討ち漏らしたものをキリさんが仕留めるという形を取っていましたが、やはり敵の数が多い所為でキリさんがてんてこまいの状態に……。

 ちょうど、と言ってはいけないと思いますが、キリさんも討ち漏らしてしまったタイミングに私たちは南側に到着します。

 私がそれを投げ飛ばして、村への被害はゼロにすることができました。

 間に合ってよかったです。


 私、ライザ、サクラさん、カラメルが加勢したことで形勢は逆転。

 南門防衛完了です。



 残るは西ですが……。



――チュドォオオオオオオオオンッ!

――チュドォオオオオオオオオンッ!

――チュドォオオオオオオオオンッ!



「あははははっ! どうしたんですかぁ!? 前回みたくドヤってみてくださいよぉっ! あははははっ!」


 逃げ惑うリスセフたちを高笑いしながら追い駆けて『大爆発』を食らわせているススキさんの姿が……。

 マーチちゃんがドン引きしていて、そんなマーチちゃんにパインくんが平謝りしている光景はなんとも言えないものがありました。


『Event complete』


 あっ。

 イベント、終わったみたいです……。

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