第184話(第五章第18話) イベント村を守り抜け6(セツ視点)
イベントも最終日。
私はいつも通り北の門から出た位置でリスセフの群れがやってくるまで待機していました。
今日は4,096体を倒さなければなりません。
村に被害を出さないでその数を対処できるか、少し不安です。
ステータスは高くしてあるのですが、数が数なだけに……。
「今日で最後だもんね。頑張ろっか、カラメル!」
「りゅっりゅりゅ~!」
頭の上にいるカラメルを撫でて、私は気持ちを落ち着かせていました。
時間は流れて、村の警報が鳴り始めました。
リスセフの群れが攻めてくる合図です。
すると、すぐに森の方からすごい数のリスセフがこちらに向けて走ってきているのが確認できました。
距離にして四、五十メートルほど。
目の前の敵に集中しようとした時、その目の前の敵がいきなり見えなくなります。
――展開された「urgent」の文字が書かれた画面によって。
アージェント……?
緊急!?
慌てて画面に触れると通話画面に切り替わります。
発信者はライザ。
『セツ! やべーです! あの「運営」やりやがりました!
――カラメル同様の「デバフ無効」、「バステ無効」に加えて「物理無効」に「魔法反射」とかいう、どうすりゃダメージを与えられんだっつーアホみてぇな性能をしたバケモンです!』
「はいぃ!?」
彼女が知らせてきました。
空からカプル……ピクルス? とかいう、なんだかヤバいモンスターが迫ってきているという情報を……!
「運営」……っ!
そんなのが来るなんて聞いていません!
問題なのはその性能……!
「デバフ無効」と「バステ無効」なら私も持っていますが、「物理無効」や「魔法反射」なんて聞くだけでおかしい性能なのが想像できます……っ!
「物理攻撃も魔法攻撃も効かないってこと!? そ、そんなの、どうしたら……!」
私の攻撃力は高いですが、無効にされてしまうのでは意味がありません。
なんとかする方法はないか? と私はライザに聞いていました。
彼女からの答えは――
『カラメルを手懐けた
というもので。
私はそう言われてハッとしました。
確かにやれるかもしれません。
――カラメルを倒そうとしたものを使えば。
「わ、わかった! 試してみるよ!」
『お願いします!』
倒す方法を思いついた私がライザに上空から来るモンスターの対応をすることを伝えると、通話はすぐに切られました。
画面が消えると目の前には十メートルといったところまで迫ってきているリスセフの大群が……!
(ライザもこれで慌てて切ったんだ……!)
「そ、そうだった! こっちはどうしよう……!」
こっちもどうにかしないといけないし、上空のもどうにかしないといけない……!
ああ、もう! どうすればいいの!?
テンパります。
動けなくなります。
考えが纏まりません!
ほ、本当にどうしたら……!
私が何もできないでいると、頭の上の重みがなくなります。
カラメルが私の前方の地面にぽむっと着地しました。
そして――
「りゅりゅー!」
その身体を巨大化させたカラメル。
彼は壁になってリスセフの侵攻を防いでくれたのです!
「か、カラメル、いいの!?」
「りゅっ!」
確認すると、任せろ! と言っているかのような返事があって。
私は彼を頼ることに決めました。
「カラメル、お願い! あとでなんでも聞いてあげるから!」
「りゅ~!」
リスセフの群れはカラメルにお願いして。
私は上空から来るというモンスターの対応に向かいました。
ライザからメッセージが送られてきていて、それには村の地図が載っていました。
村のちょうど中央に赤い点が打ってあります。
やばいモンスターが現れるのはそこでしょう。
私は急ぎました。
ライザが教えてくれた地点の近くまで来ると、そこには尻もちを搗いた状態で怯えきっているコエちゃんの姿が……!
「大丈夫、コエちゃ……っ!」
私は心配して駆け寄ろうとしましたが、とどまります。
彼女を覆う影が視界に入ったから。
それは、彼女の上で光を遮っているものがある、ということ――。
見上げてみるとそこには、身体はウサギで、顔はヤギ、尻尾はサソリの生物が宙に浮いていました。
……大きいです。
四メートルはあるでしょうか。
それが十メートルほど高い位置からコエちゃんのことを見下げていました。
コエちゃんが怖がっているので、悪者確定です。
私は早速、有効打となり得そうなあるものが入った特大フラスコを振りかぶりました。
正直なところ、効くかどうかはわかりません。
ただ、あのカラメルが使われることを嫌がったものです。
効いてくれると信じましょう!
私は容器ごとその薬をモンスター目がけて投げました。
「そーれっ!」
あの中に入っているのは完全猛毒薬。
――耐性・無効を無視する毒薬です。
それでいて、どんなにHPがあったとしても掛かれば一秒後にはHPが「0」になる劇薬中の劇薬。
あとは当たってくれるかどうか。
器用さが高いですから、よほどのことがない限り当たってくれるはずですが……。
完全猛毒薬が入った容器は、まっすぐヤバいモンスターに向かって飛んで行っていました。
しかし、あともう少しといったところで……、
『我にそのような攻撃が通用すると思うのか? 小娘よ』
「えっ!?」
僅かに身体を逸らしただけで避けられてしまいました。
それよりも驚きだったのは、このモンスターが喋ることができたことなのですが……。
『小癪な真似をしてくれる。その小童からいただくつもりだったが、貴様から食ってやろうか?』
……人の言葉を話すことができるようですが、会話は通じなさそうです。
このモンスターを仕留められる可能性が一番高かった完全猛毒薬が躱されてしまったため、早く次の手段を考えないと……! と頭を働かせ始めた時でした。
それは目に映りました。
私が投げた完全猛毒薬が入った容器が。
――あれ? なんかおかしくない?
あの容器は蓋ができるようになっているのですが、よく目を凝らしてみると、その蓋が外れそう……あっ、今、外れました。
中から完全猛毒薬が漏れ出します。
その完全猛毒薬は私の器用さの影響を受けたようで、あのヤバいモンスターに降り注ぎました。
『なんだ、ただの猛毒薬ではないか。こんなもの、避けるまでも――ギャアアアアアアアアッ!?』
余裕を見せていたヤバいモンスターですが、完全猛毒薬の雫が身体に掛かった瞬間、悲痛な叫び声を上げて一瞬にして黒い粒子へと変わりました。
……。
よし、戻りましょう!
カラメルが心配です!
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