第181話(第五章第15話) イベント村を守り抜け3(セツ視点)
私は女の子、コエちゃんに手を貸して彼女が立ち上がるのに協力し、そのまま手を繋いで村まで帰りました。
木でつくられた村の外壁の細かな部分が見えるようになってくると、村の出入口付近にマーチちゃんたちが集まっているのが確認できました。
村の入口に誰かがいるのを見た瞬間、私の背後に隠れてしまったコエちゃん。
どうしたの? と聞いても答えてくれません。
何も言ってくれないのは彼女の頭上にずっと表示されているテロップが理由なのでしょうか?
それにしても、この子はなんであんなところに……?
違和感を覚えましたが、私だけではすぐに答えが見つかりそうになかったため、それは一旦置いておくことにします。
私はみんなの元まで歩いていき、尋ねました。
「……どうしたの、みんな?」
「どうしたの? じゃねぇですよ! なんで何回も連絡したのに出ねぇんですか!」
全員が担当の場所から離れてこっちにやってきていることが気になって聞くと、ライザに逆に問い質されることになって……。
……え?
連絡って、ありましたっけ?
確認してみると十件くらいライザからメッセージが送られてきていました。
お知らせ……、なかったような気がするんですけど……。
どうやら、ライザからメッセージが送られてきていたのは戦闘中であったため、メッセージが届いたというお知らせを受けられなかったようです。
(このことは、第四層ダンジョン4「タチシェスの自然保護区」でマーチちゃんと初めて一緒にログアウト・アンド・ログインをしている時にライザからの連絡のお知らせがなかったという経験をしていたため、知っていました【※第103話】)
マーチちゃんたちの方を見ていると、呆れた顔を向けてきていて。
……あっ。
みんながここに集まっているのってもしかして、私が勝手な行動を取ったから……?
……もしかしなくても、そうかもしれません。
私が原因であることが推察できたため、私は先ほどまでのことを話そうとしました。
その直前でライザが気づきます。
私がどうして任されていた持ち場を離れていたのか、ということを。
「……そういうことでしたか。その子を守るため、だったんですね?」
言わなくてもわかるのは流石です。
「……うん。えっと、カラメルが突然あそこにある森に向かって行こうとしたから気になって……。カラメルが行こうとしてた方向に行ってみたら、この子がいて……」
そう言って私は、私の背後にいるコエちゃんの方に視線を移します。
それでマーチちゃんたちもコエちゃんの存在に気づきました。
「……その子は?」
マーチちゃんが確認してきたので、私は答えました。
「森の中でリスセフの群れに襲われそうになってたの。それにカラメルが気づいて、私に教えてくれて」
「……そんなことが……」
マーチちゃんは私が担当の場所を離れた理由を理解してくれました。
マーチちゃんはコエちゃんを少しの間だけ視界に収めたあとに、私の頭の上にいるカラメルを撫でに来ます。
「カラメル、いい子なの」
「りゅりゅ!」
「か、カラメル、嬉しいのはわかったから頭の上で跳ねないで……っ」
マーチちゃんに褒められて上機嫌のカラメル。
感情表現を身体で行うカラメルは私の頭の上でぽむぽむし始めます。
し、振動が頭に……。
(痛くはないのですが、感覚的に少しつらい……)
ちょっとやめてほしい、と私はカラメルにお願いしました。
サクラさんたちも私の説明に納得してくれたようで。
パインくんが、私の頭の上にいたカラメルを撫でながら、それまでモンスターだからと敬遠していたことを謝ると、カラメルはパインくんの胸に飛び込みました。
それから、サクラさん、ススキさん、キリさんに、
「結構距離があるけどどうしてわかったの?」
とか、
「あなたのおかげで女の子の命が救われたのですね」
とか、
「お手柄じゃん!」
と称賛されて、カラメルはまんざらでもなさそうにしていました。
サクラさんたちとカラメルの隔たりがなくなってよかった、と思っていると、ライザが頭を悩ませていました。
「……セツの行動の理由はわかりましたが、どうなってやがるんですかね? 村が襲われるのを救うイベントのはずなのに、
――その村人の一人が村の外に出てて、しかもモンスターに襲われそうになってたなんて」
「……」
ライザが口にした疑問。
それは私が抱いていた違和感と近いものがありました。
私は見ました。
――コエちゃんの頭上にある「NPC」というテロップを。
ライザが言うには、この子はここの村の子……。
私たちが今行っているイベントは、モンスターたちのスタンピードから村を守る、というもので、その中には村人を救出する、という内容も含まれています。
護衛の対象となる子がどうして、あんな村から離れた見つけにくい場所にいたのでしょうか?
私も悩み始めます。
ライザは続けました。
「……これ、森にその子を配置しやがったのって、『運営』っつーことになりますよね? しかも隠すように。連絡が取れなかったっつーことは、急いでたっつーことでしょうし、そうなると素早さも必要だったと考えられます。気づかなかったり素早さが遅かったら、その子はやられてて知らず知らずのうちに『減点』されてたわけですか……。マジで性格悪ぃですね、ここの『運営』っ」
彼女の言ったことこそが、私が抱いた違和感の正体でした。
NPCのこの子を、あの場所にいるようにしたのは「運営」――。
それは、この子は死ぬことを義務付けられていた、ということ……。
「運営」は本当に嫌なことをするな……、と気分が悪くなります。
「……カラメルが見つけてくれてほんとによかった」
ただ、カラメルのおかげで大事にはなっていません。
この子に最悪の結末が訪れるのを回避することができたこと、それだけは本当に救いでした。
私は、コエちゃんの頭を優しく撫でました。
ライザが『アナライズ』での「サーチ」を行ったところ、もう村の外に出ているNPCはいない、とのこと。
それどころか、村の外には人の反応も敵の反応ももうない、と調べたライザに言われました。
私は数十から百体ほどの群れを見ていたというのに……。
何十体かに逃げられていたのですが、あのリスセフたちはどこに行ってしまったというのでしょうか?
私はこのイベントに一抹の不安を覚えました。
ちなみに。
私は一体のリスセフを轢くようにして黒い粒子に変えてしまったことを隠そうとしたのですが、即刻ばれました。
みんなが見たという「1st stage clear」の画面を私だけ見ていなかったため、いつ表示されたのか聞くと、どうも私が一体のリスセフを撥ねてしまった時みたいだったので、あの時か……、と口にしてしまったら、詳細を求められて……。
(私は撥ねてしまった敵のことを追い越したあとに振り返って僅かな間見ていますが、カラメルに急かされて振り返るのをやめたちょうどその時に画面が出たようです)
(出た瞬間にタイミングよく「画面を消す」部分に手が触れてしまったものと考えられます……)
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