第178話(第五章第12話) カラメル

「……返してきなさい!」



 あれから私は、よくわからない体験をすることになりました。

 虹色プディンが私にすり寄ってきたのです。

 初めは警戒しましたが、どうも敵意はないらしく……。

 私もこんな状態の彼を倒してしまうのは忍びなく感じてきて、その場をあとにしようとしました。

 すると、何故だかついてきた虹色プディン。

 私は戸惑いました。

 

「……一緒に行きたいの?」

「りゅ~!」


 私がそう聞くと、行きたい! と言わんばかりに、ぽむぽむ、と跳ねて表現してきて……。

 その姿がなんだかちょっと可愛く見えてしまったので、とりあえず、これから行く予定だったオートマの巣に向かうのはやめて一旦帰ることにしました。


 「帰還の笛」を使おうとすると、虹色プディンに止められます。

 理由はわかりませんでしたが、使ってほしくなさそうだったので歩いて帰ることにしました。

 歩き始めたその時、彼に何かを知らされます。

 横から見ると台形みたいだった身体を平行四辺形みたいに変えて、私たちが戦っていた部屋の奥の方を示すようにした虹色プディン。

 見てみるとそこには、虹色の宝箱がいつの間にか現れていました!

 いつもならゴトッという音がするのに……!

 それがなかったから、気づかずに行っちゃうところでしたよ……!

 ……この子、悪い子ではないのかもしれません。

(中身は選択できなくて、『神の金属』という私では扱えない素材アイテムでしたが)


 というわけで、私たちはダンジョンの一階まで戻り、出入口から出てギルドハウスまで帰ってきてライザに連絡をして……。



 帰ってきたライザが、私の隣にいる虹色プディンを見て放った第一声が先ほどの言葉になります。


「いやー……、なんか、懐かれちゃったみたいで、そのまま置いてくるのも悪いかな、って……」

「そんな捨て犬とか捨て猫を拾ってくるみてぇに……。っていうか、それ、ふざけた性能の虹色プディンでしょ!? なんてモン連れてきて……って、攻撃から器用さまでが『1』になってる!? 『完全ステータスデバフポーション』の影響!? ……はぁ、二人称なーは、まったくもう……っ!」


 ライザが頭を抱えてしまいました。

 やっぱり無断で連れて帰ってきてしまったのがいけなかったのでしょうか……。


 私がそんな心配をしていると、ライザと一緒に帰ってきていたマーチちゃんやクロ姉、サクラさんたちがひそひそと話しているのが聞こえてきます。


「……えっと、モンスターって連れて帰ってこれるものだったかしら?」

「……確か、召喚士タイプの魔術師じゃないと無理だったはずなの」


 まずはサクラさんとマーチちゃんの会話。

(マーチちゃんは呆れた目をこちらに向けてきています)

 ……えっ?

 モンスターって連れて帰ってこられないんですか?

 じゃあ、この子はいったい……?


 そう思いながら虹色プディンの方を見ると、首を傾げるようにその身体を傾けていました。

 ちょっと可愛い……。

 虹色プディンの仕草を見て抱いていた疑問を忘れて和んでいると、今度はキリさんとススキさんの会話が聞こえてきます。


「……え? セツちゃんって、召喚士じゃなくて薬師じゃん。なのに、なんで連れて帰ってこれてるワケ?」

「セツちゃんだから!」

「……召喚士が契約を交わしたモンスターでなければダンジョンを出た瞬間に消滅するはずですから、恐らくイレギュラー、というよりバグだと思います」

「セツちゃんだからっ!」


 ダンジョンに住んでいるモンスターはそのダンジョンから出られない(召喚士との契約という例外アリ)ということを初めて知りました。

 それを聞いた時は、この子は特別ってこと? と思ったのですが、どうやら違うみたいです。



 バグ――



 その可能性を指摘されて、私はすぐに考えが及んでしまいました。



――この子はいずれ消えてしまう存在なのだ、と。



 バグは修正されるものですから……。

 そう思うと目の前にいるこの子が悲しい存在のように思えてなりませんでした。


 私は言っていました。


「この子と一緒にいちゃダメかな?」


 と。

 ライザは、


「何言ってんですか!? こんなのすぐに修正されますよ!? ここに置いとく、ってなっても、情が湧いたら消えるってなった時につらくなるだけじゃねぇですか!」


 そう言って私を止めてきました。

 それでも……。


「それでも、悲しすぎるよ……。ちゃんといるのに消えちゃうなんて……。この子は生きようとしてたんだ。だから、いつか消えちゃうとしても、この子が寂しくないようにしたいな、って」

「セツ……」


 私がこの虹色プディンのことを憐れんで撫でながらそう言うと、ライザは私を止めることを諦めたようで。

 ……そして。


「ああっ、もうっ! わかりましたよ! なんとかしてやります!」


 彼女は倉庫へ行って、何かを手にして帰ってきました。

 彼女の手に持たれていたものは、



――「スキル変更の巻物」



 私が前回のイベントでもらって、ライザと交換していたイベント景品。

 それでライザは『光の記憶』を手放して、『総てはこの手の中にある』のスキルを獲得しました。

(一応、使う前にマーチちゃんが増やしています)

 そのスキルの効果は、


========


『総てはこの手の中にある』

――ギミックやモンスターなどを所持アイテムとして収納し、

  持ち歩くことができる。

  収納ができるだけで、モンスターを使役できるようになるわけではない。


========


「っ! ライザさん……!」

「今の段階じゃ一人称わーの収納バッグにしか入れられませんが、わーがログアウトするまではこのままにしておいて、ログアウトする時にわーのバッグの中に入れる形を取れば消えることはねぇです」

「ライザさん、ありがとう!」


 このプディンが消えなくて済むためのスキルを取ってくれたライザ。

 本当はこのパーティでやっていくなかで一番適しているものを探して取るつもりだったんですが……、と言っている最中だったライザに、私は抱きついていました。


「ちょっと、セツ……!?」


 彼女の慌てる声が耳に入ってきましたが、しばらくは離せそうにありませんでした。



 しばらくして、私はライザを解放しました。

 解放させられたといった方が正しいかもしれません。

 引き離したのは虹色プディンです。

 動物が毛を逆立てるみたいにその身体を波打たせて、ライザのことを警戒しているようでした。

 私が注意するとその威嚇みたいな行動をやめてくれます。

 私に怒られたと思ったのか、しゅんとしてしまった虹色プディンを私は抱えました。

(虹色プディンは四十センチほどの大きさです)

 そうするとちょっと元気を取り戻したみたいです。

 この一連の流れを見たパインくんが感想を零しました。


「……せ、セツさんに懐いてる。すごい……」



 それからマーチちゃんに、お姉さんがテイムみたいなことをしたのには驚いたけれど一緒にいるなら名前を決めた方がいいと思うの、と言われて。

 それまで気がつきませんでしたが、確かに! と思いました。

 考えて、考えて……。


「あっ、カラメルなんてどうかな?」

「りゅ~!」


 気に入ってくれたみたいなので、この子の名前は『カラメル』に決まりました。

(ちなみに、この子に性別はないとのこと)

(それでもこれまで通り、三人称で表す時は「彼」を使おうと思います)

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