第175話(第五章第9話) ライザからギルドイベントの説明を2

「……一番話しておかねぇといけねぇ奴が来てませんが、二十日から始まるギルドイベントでいい結果を残せるように作戦を立てておきましょう」


 ギルドハウス内のライザの部屋に集まって、ギルドイベントの作戦会議が行われることになりました。


 ギルドハウスには16のお部屋があって、ギルドメンバーの一人一人に一部屋ずつ割り当てられます。

 私たち「ラッキーファインド」は八人のギルドなので、八つのお部屋が空き部屋になるのですが、その空き部屋を会議室として使用しようとしたら、この部屋の持ち主の許可がないため入ることはできません、というメッセージが表示されて……。

 空き部屋には入れない、という仕様のようでした。

 ……謎です。

 というわけで、ライザの部屋を使うことになったのです。


 大きめのテーブル、人数分の椅子、文字が書けるボードがあるのはどこのお部屋も一緒みたいです。

 ただ、それ以外のものは置いていなくて。

 私の部屋は、テーブルの上がつくった薬品の置き場と化してしまっているのですけれど……。

 ライザは、きれいにしている……というよりも、ここでは何もしていないような、そんな印象を受けました。

 会議をするには向いているかもしれませんが……。

(ちなみに、マーチちゃんがライザの部屋を見た時、き、きれいないの……! と驚いていたので、もしかすると彼女のお部屋は私の部屋とあまり変わらない状態になっているのかもしれません)



 それはそれとして、会議です。


「『運営』からのメッセージによると、



『・内容は、モンスターのスタンピードから村を守る「イベント村救出イベント」

 ・期間は、二十日の木曜日から二十六日の水曜日までの一週間

 ・プレイヤー側が指定した時間帯に一週間連続でモンスターが攻めてくる

 ・アイテム、装備の持ち込みは可

 ・ただし、イベントに参加すると一週間はこっちに戻ってこれないため、アイテムや装備の補充はイベント村の店か、近くの森、山、川、洞窟で行う必要がある

 ・村やそこの住人への被害をどれだけ抑えることができたか、で競う

 ・被害を数値化して、その数値が同じだった場合、どれだけ早くスタンピードを鎮圧できたか、で順位が決まる(スタンピードが起きている間のみ計測)

 ・それぞれ別のイベント村に転移させられるため、他のギルドと会うことはない

 ・今回の優勝賞品も「宝の地図(第三層版)」』



 要点を纏めるとこんな感じですね」


 ライザが「運営」から送られてきたイベント告知のメッセージの内容を要約して言ってくれました。

 私、そのメッセージを読んでいなかったので助かります。

 それにしてもライザ、説明上手ですね。

(「運営」は結構長い文章を送ってくる印象がありますが、ライザがボードに書くと十一行で収めることができています)


 ライザのわかりやすい説明を聞いて、今度のイベントはアイテムを持ち込むことができると知り、私は一安心しました。


「『アイテム持ち込み可』! よ、よかったぁ……。次のイベントはマーチちゃんも安心して戦えそうだね!」


 隣に座っていたマーチちゃんにそう話し掛けると、


「確かにボクは前回のイベントで魔石を没収されて愕然とさせられたけど心配するのはそっちじゃなくて、折角お姉さんがつくったポーションを使えなくさせられてたことの方だと思うのだけど……。まあ、お姉さんらしいの」

「……?」


 ちょっと呆れ気味にそう返されました。

 ……あれ? 私、間違ってないよね?

 マーチちゃんは回復手段や万が一の時のお守りだけでなく攻撃手段も制限されて厳しい状態にさせられていたわけですから、私よりもマーチちゃんのことを考えるのは当たり前のことだと思うのですが……。


 私がちょっとだけ腑に落ちないでいると、ライザがボードに文字を書き足しながら説明を続けました。


「あの『運営』、前回のイベントではダンジョンに入ってから詳細を明かしてきやがりましたからね。『アイテム持ち込み不可』とか『レベル1スタート』とか。『挑むEダンジョンの構造がプレイヤーごとに異なる』っつーのと『パーティメンバーへの連絡不可』っつーのも、これからスタートっつー時に初めて知らせてきて……。あれ、反感があったんじゃねぇですか? だから今回は、結構な情報をこの段階で開示したんじゃねぇかな、って思います」


 そう言い終えると同時にライザはペンを置いて、ボードが見やすいように位置を移動しました。

 ボードに書かれたのは、



『スタンピードを起こすモンスター:リスセフ

 スタンピードが起こる場所:イベント限定で行けるE村

 敵の攻め方:村の四方から

 敵の数:一日目・各方角1体ずつ(計4体)

     二日目・各方角4体ずつ(計16体)

     三日目・各方角16体ずつ(計64体)

     四日目・各方角64体ずつ(計256体)

     五日目・各方角256体ずつ(計1,024体)

     六日目・各方角1,024体ずつ(計4,096体)

     最終日・各方角4,096体ずつ(計16,384体)』



 何が、どこに、どれだけ、どのような形でやってくるのか、ということが纏められていました。

 これが今回のイベント告知には書かれていたのだと言います。

 ……今回はいやに親切ですね。

 どうしたんでしょう、「運営」……。


 「運営」が優しいことにうすら寒さを覚えたのは私だけではなかったようで。

 両方の腕を抱えるようにしてさすっているサクラさん。

 難しい表情で考え込んでいるススキさん。

 苦笑いをして、なんか裏でもありそー……、とこぼしたキリさん。

 不気味なものを見るような目をしてすごく不安がっているパインくん。

 みんな、「運営」に思うところがあるようです。


 イベントのことではなく「運営」について考えるようになってしまっていた私たちにライザが言います。


「ここの『運営』は信用ならねぇんで警戒しておくことに越したことはねぇでしょう。それを踏まえたうえで、イベントで誰がどの方角を守るかを決めたいと思います。『運営』の言っていることが事実なら、北から攻めてくるリスセフが一番強い集団で、次が西、その次が南、一番簡単なのが東から来る集団みてぇです」


 ……そんなことまで教えてくれていたみたいです。

 本当にどうしちゃったんでしょうか、「運営」は……。


 私たちは話し合って、それぞれに役割を分担することになりました。

 ですが……。



『東:ライザ、サクラ

 南:クロ、キリ

 西:マーチ、ススキ、パイン



 北:セツ』



「ええ!? 一番強いところに私一人!?」


 なんとも偏った配分に……。

 異議を申し立てようとしたのですが、先んじて言われました。


「バランスを考えたら適切な分け方です」


 ライザに。


「ボクもそう思うの。ボクたちの中ではお姉さんが一番強いからお姉さんが北を守るのが適任なの」


 マーチちゃんに。


「あたしたちじゃあ、一人で4,000体を相手にするのはきついと思うし……」


 サクラさんに。


「『ファーマー』のどなたかにお力を添えていただく必要があるのですよね……」


 ススキさんに。


「ってなると、スーちゃんとパインはスキル的にセットだから誰かが一人になるわけで」


 キリさんに。


「ひ、一人でも大丈夫そうな人がセツさん、っていうことに……。す、すみません、ボクのスキルがススキちゃんのサポートみたいなスキルだった所為で……っ」


 パインくんに。


 ……ということで、私一人で一番強い集団が攻めてくる北を守ることになってしまいました。

 ……ええー……っ。

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