第173話(第五章第7話) 技
マーチちゃんの「言ったこと」を否定した私でしたが……。
「プギュッ!?」
「プギャッ!?」
「プデュッ!?」
否定できないかもしれない状況になっていました。
というのも……。
まだ時間があったため、第五層ダンジョン4「スクオスの天空城」でレベルを上げることにした私とマーチちゃんとクロ姉。
道中の戦闘は回避して、モンスターフロアへ直行します。
そこで私が一体のスクオスを投げ飛ばすとおかしなことが起こりました。
私が投げたスクオスAがスクオスBの方に飛んでいったのです。
変な曲がり方をしながら。
そしてスクオスAはスクオスBにぶつかって巻き添えに。
これで終わるかと思いきやそうではなく、勢いがほとんど失われることなくスクオスAはスクオスCの方向へ、スクオスBはスクオスDの方向へ飛んでいきました。
そのあと、
スクオスAはスクオスE・スクオスIにぶつかって、
スクオスBはスクオスF・スクオスJにぶつかって、
スクオスCはスクオスG・スクオスKにぶつかって、
スクオスDはスクオスH・スクオスLにぶつかって、
スクオスEはスクオスMにぶつかって、
スクオスFはスクオスNにぶつかって、
スクオスGはスクオスOにぶつかって、
スクオスHはスクオスPにぶつかって、
それぞれ消滅しました。
一回投げただけでビリヤードのように15体を巻き込む攻撃に……。
何が起きたのかすぐには理解できなくてポカーンとしてしまいましたが、残っていたスクオスたちもポカンとしていたのでその隙をつかれることはありませんでした。
とりあえず考えることはあとにして、モンスターフロアを制圧しました。
あとになって考えて、こんなことが起きた原因がはっきりしました。
――上げすぎた器用さ
それが、モンスターを投げることも投擲の一種と判断したみたいで追尾攻撃と化していたようなのです。
私は攻撃力も上げていましたから、一体にぶつかっただけでは止まらず、勢いがなくなるまで巻き添え続けていったものと考えられます。
おおう……。
これだけでも充分すぎるほど「それ」っぽいことをしていたような気がしますが……。
このあと、私は盛大にやらかしました。
気を取り直して挑んだ隠し部屋の金プディン戦。
そこで私は、自分の状態として記されている「バステ無効」の効果を確かめようとしてしまったのです。
猛毒薬を飲む勇気は流石に出なかったため、マーチちゃんたちには後方の離れたところにいてもらって猛毒薬を私の真上に向かって撒きました。
その結果……
――私の周りに猛毒薬の雨が降ることに。
「う、うわっ!?」
「お、お姉さん!?」
「……だ、大丈夫!」
どうやら、特大フラスコを満たしていた全ての猛毒薬が容器の中から出てきてしまったようです。
幸い、「バステ無効」がちゃんと機能してくれたみたいで私のHPが減っている様子はありませんでした。
一応、使ったのはエピック品質の猛毒薬で、もしもの時の備えとして状態回復薬もポーチの中に入れてありました。
(本当はもっと性能を抑えた猛毒薬で試したかったのですが、持っていた素材が「上質」以上の品質のアイテムばかりだったためレア以下にはできなくて……)
私のことを心配するマーチちゃんの声が飛んできます。
私はそれに、平気だ、と返して彼女を安心させました。
この猛毒薬の雨ですが、私だけに降り注いでいたわけではありませんでした。
私に接近していた金プディンたちにもかかっていて……。
「プギュッ!?」
「プギャッ!?」
「プデュッ!?」
彼らは『猛毒無効』はおろか、『猛毒耐性』も持っていません。
苦しみ出した金プディンたち。
そして二十五秒後……
――パァアアアアアアアアンッ!!!
三体全て、弾け飛びました。
「……うわぁ……」
今度はマーチちゃんの引くような声が私に聞こえてきました。
私も自分でやっていて少し引いていました。
呆然としていると、脳内にこんなアナウンスが流れます。
『技「アシッドレイン」を習得しました』
「……え?」
な、何それ……?
こんなこと今までになかったような気がするんだけど……。
考えてもわからなかったため、マーチちゃんとクロ姉に聞いてみます。
「あの、えっと……。なんか、技? っていうのを覚えたみたいなんだけど……」
すると、こんな回答が。
「技、って戦闘職が覚える、あの? 生産職が覚える技なんて聞いたことないの……」
と、マーチちゃん。
一方でクロ姉は……
「……そう? 私、覚えてるけど? 『ダブルスタンプ』」
技を習得していました。
マーチちゃん曰く、技はその職業に合った特殊な敵の倒し方をすると覚えるって聞いたから、鍛冶師は武器を持てるので技を覚えられる可能性がなくはないけれど武器を持てない他の生産職が技を覚えたなんて耳にしたことがないの、だとか。
そもそも生産職に就いている人が極めて少ないのにその上モンスターを倒せるとなるとさらに輪をかけて少なくなるのだけれど、と付け加えられましたが……。
これを聞いて、私はちょっと嬉しくなりました。
すごいことができている、ということだと思ったから。
ちなみに、消費した猛毒薬は四目盛分で、辺りに撒いてしまった猛毒薬は、どういう原理かは謎ですが、回収することができました。
それから私は、「アシッドレイン」を使って隠し部屋に湧くモンスターを掃討しました。
……それがよくなかったのだと思います。
モンスターたちを死の雨で一瞬にして屠ることを繰り返していた私を見て、マーチちゃんが呟きました。
「……やっぱり魔王なの」
と。
た、確かに、この構図……。
何もできずに消えていくモンスターたち。
黒金プディンも
繰り返していくうちに、彼らは私に怯えるような素振りを見せるようになった気もして。
……これは「魔王」かもしれません。
マーチちゃんにぼそっと口にされてから、「アシッドレイン」を使うのはやめました。
……封印です。
二回目の四体の漆黒金玉プディン戦を終えたあと。
私たちのレベルは346に。
(「砂時計」も使っています)
(ただ、「運営」がテコ入れしたようで「経験値四倍」に戻されていてそれ以上の品質にすることができなくなっていました)
ちょうど現実で午後六時になったので、今日の活動はこれでお仕舞ということになりました。
「帰還の笛」と「踏破者の証」を使ってギルドハウスまで戻った時にマーチちゃんから、明日も今日の続きをするの? と聞かれて、私は大事なことを思い出しました。
「明日はどうするの?」
「明日は……あっ! ごめん! 明日は用事があってできないんだ! ナオさ……じゃなくて、現実で遊びに行く予定があって……」
私は明日、現実でナオさんと遊ぶ約束をしていたのです。
今回の期末テストでは私が勉強を見ていなかったから、あゆみちゃんがやらかしちゃって、その成績を見たナオさんがストレスでまた幼児退行しちゃったみたいなので……。
というわけで、明日はこっちに来られないことを伝えると、
「現実も大事なの。そういうことなら――」
「待って。セツちゃん、今、ナオさんって言った? ズルい! お母さんだけセツちゃんと遊んでズルい! 私も休みに入った! 私も一緒に遊ぶ!」
……クロ姉がそう言い出して。
私は明日、現実でクロ姉とナオさんと一緒に遊ぶことになりました。
その日曜日のことは、私の知らないところで話題になっていたようです。
一人の少女が双子の美人姉妹を侍らせていた、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます