第170話(第五章第4話) アップデートという名の改悪

 ステータスの低下が著しいです……。

 っていうか、攻撃、防御、素早さにかかっていたバフも消えてるじゃないですか……。

 私特製のバフポーションを使っていたというのに……。

 また上げないと……。


 百万あったステータスが二桁まで下がっているんです。

 流石にテンションは下がりました。

 ジョブスキルは『霊薬製造』というものに変わっていましたが……。


========


『霊薬製造』

――薬品系アイテムを生成することができる。

  薬品系アイテムを一度ポーチに仕舞うと、そのレシピが閃く。


========


 肩を落とす私の耳に、深い、深い溜息が聞こえてきました。

 私もつきたかったのですが、それは私のものではなく……。


「……はぁ。やっとまともに戦えるようになってたの。それなのに……」


 マーチちゃんの溜息でした。


 こちらがマーチちゃんのステータス。


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名前:マーチ     レベル:1(レベルアップまで4Exp)

職業:豪商(商人上位)

HP:16/16

MP:13/13

攻撃:14(×0.9)

防御:14

素早さ:12

器用さ:19(×1.1)


ジョブスキル:『恵比寿様の加護持ち』


========


 ……ああ。

 これは出ちゃいますよね、溜息……。

 私が見ていることに気づいたマーチちゃんが力のない笑みを向けてきます。

 私はそれに、同じような笑みで返していました。


 ちなみにマーチちゃんの新たなジョブスキル『恵比寿様の加護持ち』は、同一のアイテムを複数個買うとその四分の三のお金が天から戻ってきて、同一のアイテムを複数個売るとその三倍のお金が天から与えられる、というスキルのようです。

 流石、商人の上位職です。


 私とマーチちゃんが浮かない顔を向け合っていると、クロ姉がギルドハウスの自分の部屋から出てきました。

 クロ姉も、私たちが言われたようなことをライザに言われたようで、マーチちゃんから「パワーアップの秘玉(ジョブ)」をもらって使用……。

 私がこっちに来れなかった間にクロ姉はレベル1,111に達していたようですが、それがレベル1に。

 見事に「パワーアップの秘玉(ジョブ)」の被害者の仲間入りを果たしてしまいました……。


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名前:クロ      レベル:1(レベルアップまで4Exp)

職業:名匠(鍛冶師上位)

HP:12/12

MP:14/14

攻撃:39,651(×0.9)(×2,622.44)

防御:41,959(×2,622.44)

素早さ:35,665(×2,622.44)

器用さ:19(×1.1)


ジョブスキル:『錬成』


========

(クロ姉の攻撃、防御、素早さが上がっているのは装備による補正です)



 私たちは話し合って、「256Expドリンク」を使ってある程度戦えるようになるまでレベルを上げよう、ということになりました。

 しかし、17個目を使用しようとした時、



『使っても効果がありません』



 という脳内アナウンスが。


「え……?」


 私は固まりました。


 それは同じく17個目を使用しようとしていたマーチちゃんの脳内にも流れていたようで、それを聞いて、マーチちゃんは思い出したように言います。


「そ、そうだったの……! お姉さんがテスト勉強で来られなくなって一週間くらいして、アプデが入ったの!



――『Expドリンク』で得られる経験値の上限を『4,000』までとした、って!」



「ええっ!?」


 なんと、敵を倒さずに得られる経験値に制限を設けられていたようなのです……!

 ……あっ。

 ライザが言っていた、仕様の変更があった、ってもしかしてこれのこと……?

 っていうか、これ、実質的にイベントランキング一位の報酬のはずなのですが……。

(景品であるお宝の地図がないとゲットできない宝箱に入っていたため)

 改悪ですよね、これ?


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名前:セツ      レベル:32(レベルアップまで90Exp)

職業:製霊薬師(薬師上位)

HP:150/150

MP:227/227

攻撃:89(×0.9)

防御:125

素早さ:202

器用さ:254(×1.1)


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 兎に角、私のステータスは一旦ここで止まりました。

(マーチちゃんとクロ姉も私と同じだけ「Expドリンク」を使用していたため、レベルは「32」で、次のレベルまで必要な経験値も「90Exp」と同じみたいです)


 ちなみに。

 『Expドリンク』で得られる経験値の上限を「4,000」まで、と設定したアップデートが行われた際に、



――一体のモンスターを倒して得られる経験値も「4,000」まで、と定められてしまったのだとか……。



 漆黒金玉しっこくきんぎょくプディンや紺碧錫玉こんぺきしゃくぎょくプディンから得られる経験値がそもそも「4,000」なので、クロ姉が私たちの装備に付けてくれた『経験値四倍』の恩恵を得られないことになります。

 これ、本当に改悪では……っ。


 あと、アイテムなどを増やせるスキルなのですが、



――一日に増やせる同一のアイテムは九つまで



 にされてしまったそうです。

 ……これは大打撃です。

 なんか、私たちを狙い撃ちにしていませんか、「運営」?

 そんな気がしてならないんですけど……。


「「「……はぁ」」」


 私、マーチちゃん、クロ姉の溜息が重なりました。



 いつまでも嘆いていても仕方がありません。

 数分の間、私たちの周りの空気はどんよりと沈んだものになっていましたが、私は思い直しました。

 ジョブスキルは強くなっているのです。

 それを活かす方向で考えよう! と。


 ということで、私たちは第五層「フワフワの街」の道具屋さんへ向かいました。

 デバフ耐性ポーション各種とバステ耐性ポーション各種を購入します。

 私が買おうと思っていたのですが、マーチちゃんが買ってくれました。

 二個ずつ。

 デバフ耐性ポーションは四種類あってどれも700G、バステ耐性ポーションも同じく四種類でどれも400Gします。

 合計で4,400G(二個ずつだと8,800G)。

 マーチちゃんは、私がこれらの耐性ポーションをつくれるようになってつくったとしても恐らく受け取らないので、買ってもらうのは悪い気がしたのですが……。



――マーチちゃんが実質支払った金額は2,200G。



 そ、そうでした!

 マーチちゃんには『恵比寿様の加護持ち』があったんでした……!

 二個ずつ買ったのはそのスキルを発動させるためだったんですね。

 マーチちゃん、もう新しいジョブスキルを使いこなしているなんて……。

 流石です……!


 マーチちゃんから耐性ポーションを受け取って、私は無事、新しい薬のレシピをゲットしました!

 さあ、どんどんつくりましょう!



 ちなみに、一度私のポーチに仕舞った耐性ポーションですが、すぐにマーチちゃんに返して、マーチちゃんが二個ずつ全て売却しています。

 売値は買値の半額なので4,400Gになるはずなのですが、『恵比寿様の加護持ち』が発動して13,200G余分に獲得していたマーチちゃん。

 ……新たな錬金術の方法を見つけてしまいました……っ。

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