第168話(第五章第2話) Raiza's boot camp

 ライザによって次のイベントの作戦会議が開かれる流れになった時、サクラさんが慌てた様子で口を挟んできました。


「ちょ、ちょっと、セツさん! この人、止めて! 鬼なのよ、この人っ!」

「え……って!? ど、どうしたんですか、その身体!?」


 サクラさんの声で彼女の方へ視線が向かいます。

 よく見てみると、彼女たちの身体はボロボロでした。

 あちこちに傷をつくっています。

 私が心配して聞くと、ススキさんが答えてくれました。


「レベルアップをさせられていました……。第五層ダンジョン4の10階で……」

「……ああー……」


 なんとかなくですが、察しました。

 ライザがサクラさんたちを鍛えていたその場所が「第五層ダンジョン4・スクオスの天空城」10階……。

 ……ということは、あの隠し部屋に行っていた、ということなのでしょう。


 私が駆け寄ってサクラさんたちの傷を見ていると、ライザが残念そうにして言いました。


「セツが戻ってくるまでにサクラたちのレベルを『1,111』に到達させたかったんですが、『888』で止まっちまいました。漆黒金玉しっこくきんぎょくプディンを倒せなかったのが思うようにレベルアップできなかった要因です。サクラたちも期末試験があったんで一週間くらいしか時間がなかったっつーのも理由ではありますね」


 ……随分無茶なことをさせていたように聞こえます。

 ライザが言うには、「スクオスの天空城」のプディンのレベルは「64」。

(金プディンでさえ総合ステータスは戦闘職の二倍以上)

(黒金プディンならもっと高い)

 サクラさんたちのレベルは「44」だったと記憶しています。

 言ってしまえば格上を相手にしていたわけで……。

 サクラさんたちは私たちみたいに薬や装備によるステータス強化はできないはず(クロ姉が協力していたらわかりませんが)です。

 それにレジェンドレベル3以上の猛毒薬も持っていない可能性が高いのです。

 そんなサクラさんたちにとって、レベル64の金プディン複数体を同時に相手にしなければいけなかったというのは厳しかったのでは?

 ……ライザ、それは鬼って呼ばれちゃいますよ?

 私たちとのレベル差をどうにかしたかった、という気持ちはわからないこともないですが……。


 私はサクラさんたちのことを思って意見しました。

 今からこれを言っても遅いですが、言っておく必要はある、と思ったので。


「ライザさん。最初のうちは『256Expドリンク』を使えばよかったんじゃないかな? プディンを安全に倒せるレベルまでそれで上げておいた方が効率的だったと思うんだけど?」


 『256Expドリンク』は「リスセフ遺跡」にあった宝箱から入手した『4Expドリンク』をマーチちゃんが増やして、クロ姉が品質を高めたものです。

(もっと高めようとしたのですが、「256」以上にはできませんでした)

(ですので、私たちのギルドハウスの倉庫には『256Expドリンク』が大量に保管してある状態になっています)

 それを飲めば「256」の経験値を獲得できるというアイテムなのでリスクを抑えることができたはず、とライザに自分のやったことの間違いを認めてもらおうとしたのですが、そこはライザ。

 私は簡単に言い負かされてしまいます。


「……あれはダメです。仕様変更の所為で使い勝手が悪くなりやがりました」

「仕様変更?」

「それに、それだとジョブスキルをレジェンド級にするのが遅れることになります。レベルとジョブスキル、この二つを上げることがジョブのランクアップには必要不可欠なので」

「あ……っ」

「ちゃんともしもの時のためにHPが0になっても生きて帰れる『生還の円環』を持たせてましたし、『帰還の笛』もありましたので危ないと思ったら逃げることも可能でしたよ? ちなみに、これは関係ねぇんですが、『踏破者の証』も渡しています」

「……」


 何が変わったのか、はまだ他にもあった理由の説明にすぐに移ってしまったため教えてもらえなかったのですが……。

 全て考えたうえでの判断だった、ということはわかりました。

 情報を武器とする彼女に、私が思いつくことが思いついていない、なんてことはそう何度もあるわけがなく。

 私は押し黙ることを余儀なくされます。

 私に助けを求めていたサクラさんたちが希望を失ったみたいな表情になっていて、心苦しさを覚えました。



 そのあと、ライザがそうするように頼んだため、サクラさんたちのステータスを見せてもらえることになりました。


========


名前:サクラ     レベル:888

種族:人       属性:火

職業:侍(剣士派生)

HP:242/1,208

MP:300/1,475

攻撃:2,540

防御:2,501(×1.1)

素早さ:1,567(×0.9)

器用さ:2,807


装備:「名刀:鯨幕くじらまく


   「侍の袴」

   「心眼の眼帯」

   「鯨幕の鞘」

   「侍の足袋」


スキル:『能ある鷹は爪を隠す』☆☆☆☆

    『初期装備:侍』

    『勝利を我らに』☆☆☆☆


ジョブスキル:『達人の目』(ジョブクラス:L)



名前:ススキ     レベル:888

種族:人       属性:なし

職業:槍使い

HP:348/1,741

MP:146/1,475

攻撃:2,274

防御:1,329(×1.1)

素早さ:2,526(×0.9)

器用さ:2,540


装備:「戦槍:逆月さかづき


   「拳法着」

   「兵士の暖帽」

   「戦闘職の腕輪」

   「最初の靴」


スキル:『パラダイムシフト』☆☆☆☆

    『雲蒸竜変』☆☆☆☆

    『大爆発』


スキル:『槍術』(ジョブクラス:L)



名前:キリ      レベル:888

種族:人       属性:地

職業:忍(斥候派生)

HP:435/1,741

MP:227/2,274

攻撃:1,475

防御:1,329(×1.1)

素早さ:2,526(×0.9)

器用さ:2,540


装備:「忍者刀:鳳仙ほうせん


   「忍の服」

   「忍の頭巾」

   「忍者の帯」

   「忍の足袋」


スキル:『私が通ったところに道はできる』☆☆☆☆

    『初期装備:忍』

    『忍耐の者』☆☆☆☆


ジョブスキル:『隠形術』(ジョブクラス:L)



名前:パイン     レベル:888

種族:人       属性:地

職業:聖女(神官上位)

HP:4,792/11,198

MP:293/5,870

攻撃:9,067(回復魔法に影響/攻撃時は1/16)

防御:5,285(×1.1)

素早さ:6,242(×0.9)

器用さ:10,133


装備:「聖女の錫杖」


   「聖女のローブ」

   「聖女のミトラ」

   「聖女のクロス」

   「聖女のブーツ」


スキル:『堅牢優美の障壁』☆☆☆☆

    『我が身を盾に』☆☆☆☆

    『痛いの痛いの飛んで行けっ!』☆☆☆☆


ジョブスキル:『聖女の慈愛』(ジョブクラス:L)


========


 ……これがライザによるブートキャンプの成果なのでしょうか?

 すごいです……。

 スキルのお星さまを量産していました。

(サクラさんが持ってる『初期装備:侍』とキリさんが持ってる『初期装備:忍』は初期装備を変更でき、ジョブを派生のものに変えられるスキルなので使用回数を増やせないとのこと)

(それと、ススキさんの『大爆発』ですが、自分が一からのやり直しになる代わりに周りにいる全てのものに、その防御を無視して自分の攻撃力の256%分のダメージを与えるという、とんでもないスキルでした=使用回数を増やすなんてとんでもありません)


 マーチちゃんも私と一緒に彼女たちのステータスを見ていたため、マーチちゃんが提案します。


「そうなの! 上げられるスキルはパワーアップするの!」


 と。

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