第五章:ギルドイベントとやられ役
第166話(第五章第0話) ???
~~~~ ???視点 ~~~~
……わからない。
なんのために私は生きているのか?
そもそも、私は生きていると言えるのか?
わからない……。
私は小さな村で生まれる。
子どもの少ない村だ。
周りには多くの高齢の人たち。
だから、とてもよく可愛がられる。
その村で私は七歳まで成長する。
活発な女の子として。
そして、ある時。
私は村の外で遊ぶことになる。
花飾りなんかをつくったりして。
その時、恐ろしい見た目の生き物の集団を見つけるのだ。
その集団は人の言葉を使う。
その集団は私の村を攻めると言う。
私はそれを聞いて、村の人たちに知らせなければ! と帰ろうとする。
けれど、動いた時に音を立ててしまう。
その集団に気づかれる。
私は必死になって逃げようとする。
けれど、少女の足が恐ろしい見た目の生き物の足に敵うわけもない。
私は恐ろしい見た目の生き物たちに襲われて
――殺される。
村の人たちに危機を知らせられないまま。
それで終われば、こんなことは思わなかっただろう。
しかし、これで終わりではなかった。
私はまた生まれるのだ。
その村に、同じ女の子として。
記憶はなくなっていて、同じことを繰り返す。
繰り返して、繰り返して、外に遊びに行く。
そして、恐ろしい集団を発見して、音を立てて、見つかって。
殺される。
その瞬間、私は前にもこんなことがあったような感覚を受けた。
私はまた、その村の、同じ女の子として生まれた。
記憶はまたなくなっていた。
同じことを繰り返した。
活発な女の子になって、外に遊びに行った。
恐ろしい生き物の集団を発見して、その会話を聞いて、みんなに知らせようとして、音を立てて、その集団に見つかった。
追われている時に思い出す。
これ、今回が初めてじゃない! と。
けれど、恐ろしい生き物の集団から逃れることはできなくて。
私はまた殺された。
また生まれた。
記憶はない。
だから、繰り返す。
外に遊びに行く。
恐ろしい生き物の集団を見つける。
会話を盗み聞く。
みんなに知らせないと! と動いた瞬間に落ちていた木の枝を踏んで音を出す。
それと同時に、私の記憶は戻った。
このあと殺される記憶が。
逃げても無駄だと悟った私は動くことができなくなってその場で殺された。
せめて、音を立てる前に気づけたなら……、そう思った。
また繰り返す。
記憶がないから外に遊びに行って、恐ろしい生き物の集団を見つけて。
今回はこの時に私の記憶が戻った。
どうやら思い出すタイミングは少しずつ早くなっているらしい。
私は迷った。
動くと音を鳴らして奴らに気づかれてしまう。
そうなれば、私は終わりだ。
どうする?
……考えている間に、奴らの会話は終わってしまっていて。
こっちに来ていた。
ああ……、ダメだ。
動かなくても結局こうなるのか……。
私はこっちに来た恐ろしい生き物の集団に見つかって殺された。
六度目。
記憶が戻ったのは村の外の花畑に来てからだった。
これはついている。
ここから北の森の方へ向かわなければあの集団と出くわすこともないはずだ。
……いや、奴らは村を攻めるという話をしていたな。
早く村のみんなに知らせに行かないと。
そう思って、私は村へと戻った。
しかし、間に合わなかった。
あと少しで村に入れる、といったところであの集団がやってきてしまったのだ。
私は走った。
村は外壁で囲われてる。
だから、村に入れば助かるんじゃないか? って気がして。
けれど、村に入って門を閉める前にあいつらはやってきて。
私は殺されてしまった。
七度目。
花畑に行く前に気づく。
あいつらが攻めてくることをみんなに知らせたけど、村を出ていないのにどうしてそんなことを知っているんだ? と、信じてもらえなかった。
必死に説得を試みるも、成果はなく時間だけが過ぎていき……。
奴らがやってきてしまった。
奴らは小さな村の外壁なんて意に介さず……。
壁を破壊して村に侵入。
村人たちを虐殺していった。
あたしは隠れていたけど見つかって。
……殺された。
八度目。
一日前に記憶が戻る。
この日のうちに村の外に出て、あいつらを見つけた、ということにすれば、みんなに信じてもらえるかもしれない。
そう思って行動しようとしたけど、ダメだった。
その日、私は花畑とは真逆の川の方に行っていた。
でも何故か、奴らがそこにいて。
鉢合わせしてしまった私は殺された。
九度目。
記憶が戻ったのは二日前だった。
この翌日に川の方へ行くと殺される。
翌々日にはあいつらが村に攻めてくる。
けれど、この日はあいにくの雨で子どもが村の外に出ることはできなかった。
翌日、川とは違う山がある方向に行ったけど、そこに何故か奴らがいて。
私は殺された。
十度目。
三日前。
村から出ようとしたら上から何かが降ってきて、それが私の頭に直撃。
私はそれで息を絶えた。
十一度目、十二度目、十三度目、十四度目……。
繰り返すたびに記憶が戻るのが早くなっていったけど、最初と違う行動を取るたびに不可解なことが起きて私を死へと誘う。
みんなを無理やりにでも違う場所に移そうとしたこともあった。
村の壁を強固なものにしようとしたこともある。
身体を鍛えてあの生き物たちを退治できるほど強くなろうとしたことだって。
しかし。
結果はどれも同じだった。
私の死をもって完結とする物語のように世界は動いていた。
それなら繰り返すなよ、と嘆いたけど、それでもピリオドは打たれなかった。
やがて私は生まれた時から死ぬ時のことを憶えているようになる。
けれど。
いつからか私は、抗うことをやめていた。
世界が命令することに、私は従うように動いていた。
花畑に花飾りをつくりに行って、近くの森の方で恐ろしい生き物たちが集まっているのを目撃して、そいつらが私たちの村を襲う計画を立てているのを盗み聞いて、みんなに知らせようと動いた時に落ちていた木の枝を踏んで音を立ててしまって、奴らに見つかって、追われて、そしてまた今回も
――殺される。
ああ……、誰かこのループから私を助けてくれないかな……。
……無理か。
乾いた笑みを浮かべながら、私は何度目かもわからない死を迎えた。
もう何も望まない。
期待しても空しいだけだ。
私は完全に諦めていた。
私を救える人はいない、そう決めつけた。
このあと私は、珍妙な生き物を連れた青髪の少女に救われることになるのだが、この時の私は知る由もない。
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