第165話(第四章第38話) ギルドハウスといろいろ(セツ視点)

「ボクがいない間にそんなことが……」


 これは翌日の土曜日の朝。

 マーチちゃんに金曜日のことを話した時の彼女の言葉です。

 マーチちゃんは、そんな大事な時にこっちの世界にいられなかったことを残念がっていました。

 一人だけ仲間外れみたいな感じになってしまったことが悔しかったということもあると思いますが、それよりも自分を責めていたような印象です。

 なんでご飯を食べてから戻ろうとしなかったのか、と。

 けれど、こればかりは仕方のないことだと思います。

 マーチちゃんは大体午後六時にゲームをやめないといけません。

 問題が起きた時、いつもみんなで解決できるとは限らない……。

 今回の出来事に、そのことを教えられたような気がします。


「気にしないで。私だってこれからテスト週間に入るから何かあっても協力できないかもしれないし……」


 そう言って、私はマーチちゃんを慰めました。



 ギルドのメンバーになることになったサクラさん、ススキさん、キリさん、パインくんと改めて挨拶を交わして。

 話は「ギルドの名前」と「ギルドハウスを建てる場所」について、に。


「ギルドをつくるには名前が必要なの。何かいい案はない?」


「はい! 『セツちゃんと愉快な仲間たち』!」

「却下で」

「セツちゃん!?」

「恥ずかしいからやめて、クロ姉」

「うぅ……。セツちゃんが嫌なら仕方ない……」


「サクラたちは何かないの?」

「うええ!? そ、そんな、あたしたちが提案するなんて……!」

「セツちゃんたちは『ファーマー』なんだっけ? なんで『農家』なの?」

「えっと、最初は私とマーチちゃんだけだったから、薬師ファーマシスト商人マーチャントの頭文字を取って……」

「あーね……。それで『ファーマー』なんだ。でも今は、鑑定士アプライザ鍛冶師ブラックスミスもいるじゃん? なんで変えなかったの?」

「クロと一人称わーは大分やらかしてるんで、お情けで入れてもらってるようなもんなんです……。それに、うちらのジョブの何かしらを入れて崩すより『ファーマー』のままの方がよくないですか? 一目で『生産職のパーティ』って感じがして」

「……同感」

「なるほどー。……じゃあ、『プロダクション』とか『マニュファクチュア』とか?」

「パーティ名が『ファーマー』なら、ギルド名は『ファクトリー』にするという手段もアリですね」

「ちょ、ちょっと、キリちゃん、ススキちゃん……!」

「ふえええ……。ボク、何も思いつかない……。えっと、えっと……! 『ファーマシー』じゃ、ダメ……?」

「パインちゃんまで何言ってるの!? あたしたちが決めるのってなんか違くない!? そう思ってるのあたしだけなの!?」

「サクラさん、落ち着いて。聞いてるのは私たちなので気にしないでください。……えっと、パインくんの案なんだけど、それだと薬師成分が強すぎてちょっと……」

「そ、そっか……」


 なかなか、これ! というのが出なかったのですが、ライザが思いつきました。


「……あっ。『ラッキーファインド』っていうのはどうです? 『掘り出し物』って意味なんですが……」


 ライザがそう言った瞬間、ビビッときました。

 私たちのギルドは商売をすることも視野に入れています。

 ですから、その名前は最適であるように思えたのです。

 奇しくも、マーチちゃんもクロ姉も私と同じ感覚になっていたようで。

 サクラさんたちに確認すると、彼女たちも、それがいいのではないか、とのこと。

 こうして私たちのギルド名は『ラッキーファインド』に決まりました。


 ちなみに、ギルドハウスを建てる場所については、


 第一層は、もう既に多くのギルドハウスが建てられていて商売をするには目立たないので候補から外れ、

 第二層、第三層はライザとクロ姉が、避けたい、と言ったため除外、

 第六層は、あゆみちゃんがいるかもしれないので私が遠慮したく……。


 第四層か第五層の二択に。

 そのどちらかなら第五層の方が景観がいい、とマーチちゃんが言ったことであっさり決まりました。



 問題は、現段階ではサクラさんたちが第三層までしか行けないこと、ですが……。


「そんなもん、問題のうちに入りませんよ。わーたちがフルでサポートすりゃ第五層なんてすぐです」


 ということで、サクラさんたちのライザ式エリア攻略が始まりました。


 サクラさんたちのレベルは「44」だったのですが、

(ライザによると、第三層を攻略するのに四人パーティでの推奨レベルは「48」、第四層に至っては「64」ないと厳しいのだとか)


 マーチちゃんによる武器・防具のスキルスロット全開放。

 クロ姉による初期装備への『全地形ダメージ無効及び全地形による悪影響無視』と『専用装備』の付与。

 ライザによるヒントの提供。

 私の薬品アイテム(MP回復ポーション、状態回復薬、復活薬、有効期限を設定したバフポーション)による補助。


 それらを受けることによって、サクラさんたちはその日のうちに第四層を突破しました。

 一日で二つのエリアをクリアできてしまったことに、サクラさんたちはみんな唖然としていました。

 それほど驚くことでもないと思うのですが……。

 だって、


 今や状態異常にかからない(クロ姉が装備に特殊効果を付与していたことで)サクラさんがいて。

 相手の攻撃を無効化できて回復もできるパインくんがいて。

 相手の虚をつけるキリさんに。

 相手からのデバフや、相手がバフで強くなることを妨げられるススキさんがいるんです。


 今回は私の都合で早く第五層に来てもらいたかったため、ちょっとテコ入れしちゃいましたが、サクラさんたちならレベルが上がれば第三層や第四層のエリアボスは自分たちの力だけで倒せる気が私はしました。



 サクラさんたちも無事に第五層に来ることができたので。

 クロ姉がサクラさんたちの靴装備に『いいとこどり』の特殊効果を付け、私たちはみんなで第五層の街の外を見て回りました。

 第五層に辿り着けている方たちがあまり多くないということでギルドハウスは数えるほどしか建ってなく、いいところに建てられそうです。


 一番いい場所を探していると、パインくんが声を上げました。


「っ! こ、ここは……!?」


 彼が発見したのは南にある「アホクビの宝船」ダンジョンの裏にあった、空に浮かぶ小さな島。

 そこはこのエリアの端に位置しているようで、雲の下の世界を一望できる場所でした。

 眼下に広がるのは一面きれいに咲き誇る桜の木。

 やってきたのがちょうどゲーム内で夜の時間だったため、それが月明かりに照らされてとても神秘的なものになっていました。

 この場所にギルドハウスを建てることで全員一致!

 これからもっと楽しくなりそうです!



          ―――― 第四章・おわり ――――

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