第164話(第四章第37話) ギルド結成

~~~~ サクラ視点 ~~~~



「……す、すごい……っ」


 ……すごすぎる。

 あたしは手も足も出なかったっていうのに……。

 ライザさんとセツさんはいとも簡単に脅威を退けてしまった。

 二人とも生産職にもかかわらず……。


 ……い、いけない!

 感心してる場合じゃなかった!


「だ、大丈夫、みんな!? 特にキリちゃん……!」


 あたしはみんながいる方に急いで向かって行った。

 ススキちゃんとパインちゃんの身体に異常がないか確かめてから、まだ倒れたままのキリちゃんの元へ。


「二人とも、大丈夫!? 何もされてない!?」

「サクラも来ていたのですね。……恐らく、抱きつかされていた以外は何もなかったと思います。卑猥なことはできない仕様のはずですので……」

「ぼ、ボクもたぶん、大丈夫、だと、思う……?」

「と、とりあえず二人は無事……! 問題は……っ!」


 あたしがキリちゃんの元についた時、ライザさんがキリちゃんの上半身を抱えていて……。


「安心してください。MPが減ってますが問題はありません。じきに目を覚まします」

「っ! よ、よかった……!」


 ライザさんが大丈夫と言ってくれたことで、あたしはホッとして脚の力が抜けてその場に座り込んだ。

 手を伸ばしてもぎりぎりキリちゃんには届かない位置にいたから、あたしは這うようにしてそのちょっとの距離を詰めて、彼女を抱える役目をライザさんから代わってもらった。



「……う、ううん……」

「キリちゃん!?」


 ライザさんが言った通り、数分でキリちゃんは気が付いた。


「……あれ? サクラ? なんでここにー? ってか、うち、なんで寝て――」

「ふええええん! よかったよおおおお! みんな無事で本当によかったああああ!」

「ちょっ、サクラ!? なんで抱きつくし!?」


 あたしはみんなが生きていてくれたことに感極まって、キリちゃんを抱きしめながら号泣してしまった。

 状況を呑み込めてないキリちゃんを困惑させちゃったけど、許してほしい。


 あたしはこんな状態だったから聞けなかったけど、ライザさんが聞いてくれた。

 キリちゃんたちに、どこまで覚えているのか? って。


「ススキとパインは『洗脳』、キリに至っては身体を乗っ取られていました。その時のことは……憶えてねぇんでしょうね。そういうスキルみてぇでしたし。どこまで記憶がありますか?」

「『洗脳』……っ。なるほど。それで記憶は途切れて、知らない場所にいるわけなのですね……。私が憶えているのは、今日の午後五時ごろ(現実)キリとパインとゲームを始めて、どうやってサクラを引き戻すかについて話し合おうとしていたところまで、です。宿屋に入る前に、誰かに声を掛けられたと思ったら、意識が薄らいでいって……」

「ぼ、ボクも、そんな感じ。きゅ、急にススキちゃんがお人形さんみたいになっちゃって、そ、それで慌ててたら、意識が……」

「……うちも似たようなもんかなー? スーちゃんとパインを正気に戻そうとしてたら意識が遠くなっちゃったんだよねー……。で、完全に途切れる前に、何かがうちの中に入ってきた感覚があって……」

「……っ」


 何、それ……っ。

 あいつら、街の中でスキルを悪いことに堂々と使ってたってこと!?


「あ、あたしが、あたしがそこにいれば、こんなことには……っ!」


 ……あたしの所為だ。

 あたしはお姉ちゃんなのに、この子たちのピンチに傍にいなかったなんて……!

 あたしが離れていなければ、この子たちを逃がすくらいはできてたはず……!

 ……って自分を責めていたら、クロさんに言葉のナイフでグサッと刺された。


「……余計、面倒なことになってたと思う。サクラが状態異常にならないの、私のおかげ。そのゴーグル、なかったらすぐに操られてる。サクラがその子たちと一緒にいたら、私はその特殊効果を付けれてない。それ、あいつを守る人が増えるだけ」

「そ、そうかもしれないけど……! この子たちを思う気持ちがあれば……!」

「それでどうにかできるなら、スキルなんて要らない」

「うぐ……っ!」


 クロさんの言ったことは痛かった。

 けど、ごもっともなことで……。


 今回のことであたしが痛感したのは、自分の非力さだった。


「うぅ……! 強くなりたいよぅ……! この子たちを絶対に守れるくらい強くなりたい……!」


 思いが、口から溢れ出る。

 それに近くにいたキリちゃんが反応した。


「サクラー、自分だけ強くなろうとすんなし。うちだって、守られてばっかは嫌なんだからね? うちだってサクラを守りたい。一緒に強くなって、一緒に戦いたい。それはスーちゃんだって、パインだっておんなじ気もちなんじゃないかな?」

「で、でも! あたしはお姉ちゃんなんだから……!」

「それ、関係なくない? 妹がお姉ちゃん守っちゃいけないって決まりはないっしょ? うちらにもサクラを守らせろって」


 ……ああ。

 とことんバカだな、あたし……。

 お姉ちゃんだからこの子たちを守らなくちゃいけない、って一人で突っ走って、この子たちの気持ちを考えていなかったなんて……。

 ススキちゃんとパインちゃんの方を見ると、彼女たちも少し呆れの混じった笑顔でキリちゃんと同じことを言いたそうな顔をしていた。

 ……改めよう。


「ぐす……っ。そうだね。強くなろう、みんな一緒に」


 この日、あたしの考えは変わったんだ。



 あたしがみんなと話し合ってこれからの方針を決めようとした時だった。

 ライザさんが口を挟んできた。


「強くなりてぇですか? だったら協力しますよ?」

「え……」


 突然の協力の申し出にあたしは固まった。

 キリちゃんたちを助けてくれたから、もう前のことは水に流そうと思ってる。

 だから、そこまでしてもらうのは少し気が引けた。


「わ、悪いよ! そこまでしてもらっても、あたしたち何も返せないんだけど!?」


 この人たちは強いから、鍛えてもらったら強くなれるのは確かでしょう。

 それは疑ってないのだけど、だからこそ無償でやってもらうのは違うと思った。

 みんなも同じ気持ちだったみたいで、あたしはこう言って断ろうとした。

 ただ、ライザさんにも思惑はあったようで……。


「いいえ。返せるものならありますよ?



――わーたちのギルドに入ってください。



 今度のイベントがギルド対抗みてぇなんで」

「え……。ええっ!?」


 そんなことを言ってきたライザさん。

 ギルドに加われ、って……!

 この人たち、めちゃくちゃ強いパーティでしょ!?

 その人たちがつくったギルドに入るなんて、それ全然お返しになってないような……!?

 あたしたちが得してるようにしか思えないんだけど!?


「え? もう次のイベント決まってるの?」

「セツ、見てねぇんですか? 前回のイベントの最終結果のメッセージが送られてきた時に予告だけされてましたよ?」

「セツちゃん、トップ10に入れてなかったから……」


 そんな会話もされてたけど……。

 あたしたちが呆然としている間に、あたしたちをギルドに加えるという話で進んでいっていました。

(この場にいた他の女の子たちのパーティも誘ってたみたいだけど、断られていた)



 ちなみに。

 あたしが強いお姉ちゃんムーブをしていたけど、それをやめたことについて。


――「えっ? 知ってたけど?」


 あたしの妹たちはみんな、あたしがひた隠していたはずのあたしの素を知っていた。



 ……………………。



 恥ずかしいっ!

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