第163話(第四章第36話) 変態どもの夢のあと6

 『洗脳』というスキルを取っていて、それをプレイヤーの方たちに使っている時点でこの人がまともな人でないことは明白です。

 問答は意味がありません。

 むしろ、相手にスキルを使わせる猶予を与えてしまうことになりかねませんから、ここは先んじて動くべきです。

 そう判断した私は駆け出しました。


 『洗脳』している人を、『洗脳』されている方たちが守ろうとしたようですが、間に合っていません。

 私は『洗脳』のスキルを持っている人に使いました。



――全バステ付与のULTウルトポーションを。



 すると、その男の人の動きは止まり、何かに怯え始めました。


「うわっ!? なんだ!? なんで、俺が操った女たちがボディビルダーみたいなマッチョのおっさんに!? う、動けねぇ……!? や、やめろ、抱きつくなぁああああ!」


 ……あっ。

 これ、幻惑の効果が表れているんですね。

(初めはそのことを忘れていて、何かが起きたわけでもないのになんで急に怖がりだしたの? って思っちゃいました)

 あと、動けないということは、麻痺の効果もちゃんと発揮されているようです。

 HPとMPのゲージも少しずつ削られていっていました。


 男の人が全ての状態異常に苛まれた直後、その人の周りにいた女の子たちの表情に変化がありました。

 それまではどこか生気を感じさせない人形のようだった彼女たちが、ハッとした顔になり、自分の置かれている状況を確認するや否や、次々に慌てて男の人から離れていったのです。

 男の人のスキルが解除されたのでしょう。


「ひっ!? いやああああっ! ……せ、セツさん!? こ、これは……っ!?」

「ふええええ!?」


 どうしてここにいるのか? どうして男の人に抱きついていたのか? それらがまったくわからないといった様子で表情を強張らせて震えていたススキさんとパインくんが私を発見して、私の元まで急いでやってきます。

 よほど悍ましかったのだと推察できます……。

 私は二人に抱きつかれました。


「……怖かったんですね。もう大丈夫ですから。……というかパインくん、相変わらず柔らかい……?」


 ススキさんとパインくんを落ち着かせようと努めていたのですが、パインくんの身体にちょっと違和感を覚えます。

 なんというか、相変わらずではないような……?

 この違和感の正体を突き止めたかったのですが、ライザから注意が飛んできました。


「セツ! あのままだと『洗脳』男、やっちまいます! そんなのでもやったらPKにカウントされてペナルティ食らっちまうんです! どうにかしてください!」

「え、ええ!? どうにか、って……!」


 そんなこと急に言われても……!


 他のプレイヤーの方たちに迷惑をかけていた『洗脳』の人ですが、そんな人でも倒してしまってはいけないそうです。

 放っておいたら、また新たな被害者が出てしまう気がするのですが……。

 私は、この人をやってしまわないようにする方法を考ることになりました。


 その人の方を見るとHPが少しずつ減っていっているのが確認できます。

 これは猛毒状態によるもの……。

 ということは、状態回復薬を使えば治せるのでは?

 その方法を決行しようとして、思いとどまります。

 別の案が浮かんできたから。



――『有効期限撤廃(自作ポーション限定)+』で体内に入った自作の掛け合わせているULTポーションのうち、その一つの効果にだけ有効期限を設定することはできないか?



 と。


 『有効期限撤廃(自作ポーション限定)+』は、私がつくったポーションに有効期限を設定できるようになった『有効期限撤廃(自作ポーション限定)』の強化スキルです。

 私作成のポーションは体内に入っても効果を発揮し続け、その有効期限は無制限。

 これも『有効期限撤廃(自作ポーション限定)』のスキルの効果なので、体内に入ってしまったあとでも有効期限を設定することはできる可能性があります。


 問題なのは、四つの薬品を掛け合わせているULTポーションのうち、そのうちの一つである猛毒薬にだけ有効期限を設定できるか? ということ。

 ULTポーションは一つのアイテムですから、有効期限を設定するとそのULTポーションの全ての効果がその設定した時間で失われることになるかもしれません。

 ……あっ。

 『洗脳』の人のHPが黄色になってる……。

 時間もなかったので、とりあえずやってみることにしました。

 ダメだった時は違う方法を試そう、そんな気持ちで。


 あの人に使用したULTポーションの猛毒薬の部分にだけ有効期限を設定する、と念じると、目の前に小さな画面が現れました。

 「あと00日00時間00分00秒――設定」と書かれていたので、とりあえず「1秒」にして「設定」をタップします。

 すると、『洗脳』の人のHPが減るのが止まりました。

 他の状態異常も解けてしまったかな? と、その人を注意深く見ていましたが、



――何かに怯えているのと、表情以外微動だにしないのはそのままで。



 どうやら、掛け合わせているポーションの一つの効果だけを消すこともできるみたいです。

 これでススキさんたちの心を守れますね!

 よかったです。



 私が『洗脳』の人の対処に追われている間に、ライザはライザで決着をつけていました。

 その決着の仕方は呆気ないもので……。


 彼女が対峙していたのはキリさん――ではなく、キリさんの身体に『憑依』していた人。

(私はてっきり、キリさんも『洗脳』されているものとばかり思っていたのですが)

 『憑依』する人が、キリさんからライザに乗り換えようとしたそうです。

 ですが、その『憑依』スキルには欠点がありました。



――『憑依』している身体のMPが尽きるとスキルが解除される



 という仕様が。

 当然、ライザはこのことを知っていました。

 そして、彼女のMPは尽きているどころかマイナス。

 結果、『憑依』する人はライザに『憑依』すると同時にその身体から追い出され、本来の自分の身体に戻されたのです。

 その身体(眼鏡の青年)がキリさんのアイテム袋から出てきたのは謎でしたが。


「にひっ。一人称わーにあんたのスキルは通用しませんよ? それでもやる、ってんなら相手になってやります。ただし、



――どうなってもいいっつーんならな」



「う、うわああああ!」


 ライザに威圧されて、それでも、女の子に負けるのは認められなかったのでしょうか?

 ライザに向かってきた『憑依』する人。

 まあ、ライザの素早さに敵うはずもなく。

 その人は彼女にショッキングピンクの液体を掛けられていました。

 あの色は悪心薬ですね。

(イベントダンジョン攻略用にみんなにもつくっていた悪心薬L・Lv:8です)

 『憑依』するにもMPが必要とのこと(ライザ情報)なので、これでもう、誰かの身体を乗っ取ることはできないでしょう。


 勝てないことを悟った『憑依』する人は一目散に逃げだしました。

 それを見て、女性が一人、『憑依』する人のあとを追い駆けていきましたが、あの人の仲間だったのでしょうか?

 ……ここにいる女の子がみんながみんな、操られていたわけではないようです。

 もっと注意しないと、ですね……。

 思い込みで行動すると思わぬ落とし穴に引っ掛かってしまうかもしれないので。

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