第160話(第四章第33話) 変態どもの夢のあと3
~~~~ サクラ視点 ~~~~
「な、何これ!? 気持ちわる――んぐっ!?」
長くてぶよぶよでぬめぬめしてるものが容赦なくあたしの身体を絞めつけてきた。
き、気持ち悪い……!
あまりの気持ち悪さに悲鳴のような声が出そうになったけど、その物体が顔にまで巻き付いてきて、あたしは喋れなくなってしまった。
こ、怖い……っ!
恐怖で身体が思うように動かせなくなる。
思考も上手く働かなくなってきた時、声が聞こえてきた。
「ぐふふ。某がいてよかったでござるなぁ! 某が助けに来なかったらレイン殿、やられていたでござるよ?」
それは今までに聞いたことのない男の声。
ねちゃねちゃと耳にこびりつくような粘着質な声だった。
次々と予想だにしないことが起きて、あたしの頭の中はもうめちゃくちゃだ。
底知れない悍ましさに、あたしの目に嫌でも涙が溜まりだす。
もう泣くことしかできなくなっていたあたしの耳が捉えた。
「はいはい、助けてくれてどうも。……ちっ。マシューの野郎の力を借りることになるなんて……。ついてねぇぜ……!」
それはさっきの、粘着質な声の男の言葉に『洗脳』男が返したものだった。
これを聞いて、あたしはようやく理解した。
――この場にはもう一人、奴らの仲間がいたことを。
あたしはそいつに捕まってしまったんだ……!
「んんっ! んんー……っ!」
どうにかして抜け出せないか、ともがく。
けれど、びくともしなかった。
力が、思ったよりも強い……っ。
何なの、このうねうねした物体……!?
あたしが抵抗しようとしていることはすぐにあたしを拘束している粘着質な男にばれてしまう。
「んんっ!?」
「ぐふふ、大人しくしてないとダメでござるよぉ? 某、『触手』のスキルを取ったらモンスターになってしまったのでござる。つまり、某がプレイヤーを殺してもPK扱いされないということでござる。まあ、その分、街の施設はことごとく使用できなくさせられているのでござるが……。わかったなら無駄な抵抗はよせ、でござるよ」
「んぐ!? ……っ!」
男が持っていたスキルは『触手』。
それであたしの身体をさらに絞めつけてきた。
痛いし、怖いし、で抗う気持ちをごりごり削ってくる。
あたしは、心が折れそうになっていた。
ごめんね、みんな……。
助けられなくて、弱いお姉ちゃんでごめん……っ!
自分の頼りなさを嘆く。
もう、ダメだ……。
そんなことを感じてしまっていたあたしの耳に入ってきた声があった。
「建てるとしたらここがいいと思うんだけど、どうかな?」
「……変えて? ここ、私がやらかした場所。できれば違う場所がいい」
「同じ理由で第二層もやめてもらえると非常にありがたいんですが……」
遠くの方から聞こえてきた三つの声。
二つはよく似ている。
聞いていると頑張れる気がしてくる声で。
もう一つは、聞いていると警戒心が刺激される。
けど、何故か今はそれさえも頼もしく思えてくる声で。
この二種類の声にあたしは聞き覚えがあった。
――クロさんとライザさんのものだ……!
「んんーっ! んんんんーっ!」
あたしは気づいてもらおうとした。
声を張り上げて、あたしたちの居場所を伝えようとした。
でも、口を塞がれていて思うように声が出せなかった。
あたしの声はあの人たちには届かなかった。
それどころか……。
「こんの……! 抵抗するなと言ったでござろう!?」
「んんっ!?」
あたしのこの行為は、『触手』男の反感を買った。
もっときつく締め付けられる。
苦しさが増していく。
武器を持つ手に、力が入れない……。
刀が、手から零れ落ちた。
――キンッ
地面とぶつかって金属の甲高い音を響かせる。
「ん? 今、なんか音、しなかったっすか?」
「音? してないと思うけど?」
その音が届いた人がいた。
お願い、助けて! そう念じた。
けれど……。
「ま、まずいです! 誰か来そうですよ!?」
「仕方ないでござるねぇ! また某が助けてあげるでござるよ!
――『ハビタット・リターン』!」
「んんっ!?」
『触手』男がそう言うと、足元に展開されたこの場にいる全員が収まるほどの大きな魔法陣。
それが眩しく輝きだして目を開けていられなくなる。
瞼を閉じている間に街の音が消え、ブクブクと泡の発生する音がし始める。
白に染められていた視界は徐々に黒へと変わっていき、光が収まったことを理解して、あたしは目を開いた。
初めは薄っすらとだったけれど、すぐに目いっぱい見開かれることになる。
――さっきまで街の中にいたのに、どういうわけか今いるのは水の中だったから。
~~~~ セツ視点 ~~~~
ギルドハウスを建てよう! ということに決まった私たちは、次はそれを建てる場所について三人で話し合っていました。
現実で午後六時を過ぎてしまったのでマーチちゃんはログアウトしています。
――「お姉さんたちのセンスに任せるの」
そう言って。
……ちょっとプレッシャーを感じてしまいました。
ということで、私、ライザ、クロ姉でギルドハウスをどこに建てようか? と意見を出し合っていたのですが……。
「第一層とか? 私たちがギルドハウスを建てるなら、きっと商売もするよね? だったらお客さんが来やすいところの方がいいんじゃないかな?」
「ですが、あそこはもう結構なギルドがハウスを建ててますよ? 建てられねぇってことはねぇですが、街から近いとこはごちゃごちゃしてて逆に客の入りが悪くなると思います」
「じゃあ、第二層?」
「そこは砂漠地帯だから不人気なんですよね……。ギルドハウスが極めて少ねぇのは
「第三層は? あそこは一番外観が――」
「……やめ。話してるだけじゃ埒が明かない。実際に見に行った方が早い」
進展しない私とライザの言い合いにクロ姉がこう口を挟んだことで、私たちはギルドハウス建設の場所を実際に見て決めることになりました。
そして、「踏破者の証」で移動したのは第三層「ブクブクの街」。
「建てるとしたらここがいいと思うんだけど、どうかな?」
ここを提案したのは私です。
この場所が一番外観がよかったので。
……ですが。
「……変えて? ここ、私がやらかした場所。できれば違う場所がいい」
「同じ理由で第二層もやめてもらえると非常にありがたいんですが……」
クロ姉の心情的に、ここは無理、という答えが返ってきて……。
(ライザも便乗するように、第二層はやめてほしい、という旨を伝えてきました)
みんなが楽しめる場所を選ぶべき、と思っていた私は、どこか他にいい場所はなかったかな……、と記憶を辿りました。
よさそうな場所が思い浮かばなくて、意味もなく視線を動かしていると、そこで私の視線は止まりました。
「どうしたんですか、セツ?」
私が見ていたのは、クロ姉。
それから、彼女がちらちらと窺うようにしていたある場所。
――路地裏へと続くような、鍛冶屋さんの横の狭い道。
「あんなところに道なんてあったっけ?」
何故でしょう?
何故かそこが異様に気になりました。
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