第157話(第四章第30話) 遭遇(セツ視点から)

 誰かが光のゲートを通って第六層最難関ダンジョンの最上階にやってきました。

 逆光の所為で顔を確認することはできませんでしたが、シルエットは華奢で女性のようです。

 マーチちゃんやライザ、クロ姉もその人の存在に気がついて彼女(?)の方へ視線を向けていました。


 やがて、包んでいた光から脱け出して。

 その人の姿がよく見えるようになってきます。


 顔全体のバランスが整っていて、目鼻立ちがはっきりとしている、特に目に力がある感じ。

 肌がきれいで、鼻筋が通っていて、唇は薄め。

 シュッとしている印象。

 髪はそれほど長くはなく(女性だとしたら)、顔の左の方だけを多くのヘアピンでとめていました。


「なんかすごくカッコイイ人が出てきたんですが……」

「……ん。オーラがもうカッコイイ。……顔、わかんないけど」


 その人を見て、ライザとクロ姉がそんな感想を零します。

 マーチちゃんは黙ってじっとその人のことを見つめていました。

 ……あの人の感じがカッコイイという容姿なのでしょうか?

 あの人の身長が今の私とほとんど変わらなかったため、きれいな人だな、という感じは受けていたのですが……。

(私の中での「カッコイイ」ってこの世界で会った「弥生」なんですよね……、性格はアレでしたけど……)


 そんなことを思っていると、その人が言ってきました。

 私たちを見て。


「……鍛冶師に薬師、商人、……うわっ、ネタまでいるじゃん。そんな集まりでよくここまで来れたものだね」


 バカにするような薄ら笑いを向けてきたのです。

 そんな顔でも画になりそうなきれいさは失われていなくて、ちょっとズルいな、って思いました。

 性格はアレっぽいのに……。

 そのきれいさを少しでいいので私にも分けてほしいです。


 私が自分の頬をさするなか、ライザがその人の言葉に返していました。


「別にどんな集まりでもいいじゃねぇですか。二人称なーには関係ねぇんですから。次のエリアに行きてぇんで、そこ、退いてもらっていいですか?」


 相手のあざけりを意に介さず、ライザが注文を口にします。

 しかし、その人は光のゲートの前に陣取り、腕を組んで仁王立ちをしたのです。


「嫌だね」

「え……っ」


 私たちの前に立ち塞がったその人。

 わけがわかりませんでした。

 どうしてこんなことを……?


 私がそう思っていることを読んだのでしょうか?

 その人は語りだしました。


「ここを通しちゃったら第六層をクリアした人が増えちゃうじゃないか。僕は特別でありたいんだよ。もう既に三組も通過させちゃってる。汚点だよ。何さ、時間を止める能力って。スキルを無効化する能力って。最後の一組に至ってはやたら復活薬を持ってたし。それでも止められなかったのが情けない。だから僕は決めたんだ。



――次のエリアが実装されるまでもう誰もここを通さない、ってね」



「っ! まだ、第七層は実装されてねぇですが、そのゲートをくぐらなきゃ第六層をクリアした扱いにはならねぇ……! あんた、一人称わーたちにもっかいここのエリアボスと戦えっつーんですか!?」

「そ、そんな……っ!」


 愕然とさせられます。

 エリアボスを倒したというのに次のエリアに行けないなんて……っ。

 特別でありたい、という、そんな理由で……。


 私は立ち尽くすことしかできなくなっていました。

 ライザも顔をしかめて悔しそうな表情を浮かべています。

 そんな私たちとは違って、マーチちゃんは彼女(?)に物言いをしました。


「そこを退くの。退かない、っていうなら無理やり押し通るから。どうなっても知らないの」


 マーチちゃんの言葉にハッとします。

 確かに今の私たちのステータスなら、その素早さを活かせば通過することは可能かもしれません。

 ですが、マーチちゃんがそう言った瞬間――



――彼女(?)は口角を釣り上げたのです。



「あーあ、やっぱこうなっちゃうかぁ。ここまで来れる人たちだからね、そりゃ好戦的か。死ぬことになっても恨まないでね?」


 彼女(?)は黒く禍々しい形をした鎌を取り出して、その切っ先を私たちに向けてきました。



~~~~ サクラ視点 ~~~~



「なんでよ……、なんで来てくれないのよぅ……!」


 宿屋であたしはすすり泣いていた。

 あれから数分が経っても、あの子たちはあたしの元に来てはくれなかった。

 時間にルーズな子たちじゃない。

 だからこれは、あたしが見限られたことを意味しているわけで……。


 ……理由はわかってる。

 あたしの方があの子たちから離れようとしてしまったから――そうに違いない。

 でもそれは、あたしだけ意見を対立させててあの子たちの進行を妨げちゃってたから、それがすごく申し訳なくて……。

 あたしがいない方が、あの子たちはこのゲームを楽しめる、あの子たちが気兼ねしないで済む、って考えちゃったからで……!

 ……でも。

 その結果がこれ。

 何をやってるんだろう、あたし……。


 つまらないプライドを持っていた所為で、あの子たちがあたしから離れるように自らしてしまった……。

 自業自得……。

 そうとしか言いようがないのに、あたしはまだ、この期に及んでこの状況をつくりだしたつまらないプライドを手放せないでいた。


「……大丈夫、あの子たちのことだ。きっと事情があるはず……。そうに決まってる……!」


 あたしは自分にそう言い聞かせていた。


 まだあの子たちとのパーティは解消されていない。

 だから、メニュー画面を開いて仲間の位置を確認してそこに向かえば済むこと……なのだけど、それだけのことなのに、それだけのことがあたしにはできなかった。

 あの子たちにさらす情けない姿を増やしたくない自分がいたんだ……。

 あたしからあの子たちのところまで行って、今までのことを謝って、まだ仲間でいてほしいとお願いするなんて、そんなの、お姉ちゃんの威厳とか誇りとか、そういうものが全て砕け散ってしまいそうな気がして。

 あの子たちのあたしに対するイメージが、強くて頼もしい、じゃなくなってしまう……!

 それが嫌で、あたしはメニュー画面を見ることを拒んでいた。

 結局のところ、あたしは自分が一番大事だったんだ。



 けれど。


「……おかしい。三十分も連絡がないなんて……っ」


 宿屋であの子たちを待って、約束した時間から三十分が過ぎて。

 流石に違和感を覚えた。

 あの子たちは、行けなかったり行く気がないのなら、ちゃんと連絡をする子たちだ。

 この状況は明らかに異常だった。


「まさか、あの子たちに何かあったの……!?」


 そう思った私の行動は早かった。

 今まで開くことができなかったメニュー画面を開いていた。

 あの子たちの位置を確認すると、彼女たちは意外にも近い位置にいて……。

 ただ、その場所は



――誰も寄り付かなさそうな、鍛冶屋の裏側――



 急いでその場所に向かってみると、そこには異常な光景が広がっていた。



――多くの女の子たちが、一人の男性に引っ付いているという異常な光景が。

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