第155話(第四章第28話) 第五層のエリアボス

 六月二十三日、金曜日。

 学校が終わってからログインして、マーチちゃんに朝の出来事を伝えたあとのこと。

 私たちは第五層「スクオスの天空城」へと向かっていました。

(この行動を決める前に、ライザがパインくんたちからの連絡が来ていないことを確認しています)

 発端は私が発した一言です。



――「来週の月曜日から期末テスト期間に入るから、また三週間くらいこっちに来れなくなっちゃうんだよね……」



 私の都合で攻略をストップさせたり、パインくんたちのことを全てマーチちゃんたちに任せてしまうことになる、そのことに心苦しさを感じていた私。

 すると、マーチちゃんに提案されたのです。



――「お姉さんが来れなくなる前にできるだけ進んでおくの!」



 と。


 というわけで、第五層攻略に取り掛かることになった、ということになります。

 マーチちゃんが道具屋で、もしもの時のために、といろいろと買って出発しています。

(薬品系のアイテムなら私がつくるよ? と言ったのですが、お姉さんがつくった薬は性能がよすぎるからそれで勝ててもあまり喜べない、と返答されました……)


 ちなみに、「パワーアップの秘玉(ジョブ)」はまだ使っていません。

 エリアボスを攻略するのにレベルが下がってしまっては最悪勝てなくなることも考えられたため、そう判断しました。

 これは、みんなで話し合って決めています。



 私たちは雲でできたお城を進んでいきました。

 レベルが上がって素早さも上がっているため、前回よりも格段に早くダンジョンを上ることができています。

 雲のリフトや、雷、風、雨、霧を発生させてくる雲のギミックを素早さにものを言わせて突破して。

 モンスターフロアを制圧して。

 素早く階段を目指していって……。


 19階での金オートマ三体とのバトル。

 ライザがその俊足で金オートマAを牽制し、私は速攻で金オートマBを投げ飛ばして撃破、ライザが足止めしてくれていた個体の対処に向かいます。

 私が金オートマAを倒している間に、マーチちゃんが遠距離攻撃で怯ませていた金オートマCをクロ姉で二つのハンマーで叩いて黒い粒子に変えていました。

 金オートマ戦、ものの数秒で勝利です。



 そうして私たちはこのダンジョンの最上階に辿り着きました。


 「レメディ」に触れて、作戦会議です。

 ライザによると、『アナライズ』で調べるにはボスの名前が必要なので詳しいことはわかっていないとのこと。

 ですが、ダンジョンの名前と登場したモンスターから推察すると、ここのボスはスクオス系統のモンスターであると見ていいそうです。

 スクオスは強くなると、


 器用さバフ

 防御デバフ

 猛毒無効

 猛毒付与

 器用さデバフ無効

 防御バフキャンセル

 復活魔法

 防御バフ、攻撃デバフ、幻惑無効、幻惑付与、防御デバフ無効、攻撃バフキャンセル、状態異常回復魔法

 自動追尾

 防御貫通

 忘却無効

 忘却付与

 必中

 デバフの上書き(防御)

 オートリバイバル

 攻撃バフ、悪心無効、悪心付与、攻撃デバフ無効、MP回復

 障壁展開、威力反射、魅了無効、魅了付与、物理無効化魔法、魔法無効化魔法、デバフの上書き(攻撃)、オートリカバリー


 これらの特殊効果を取得していくようです。

 こういうことができるかもしれない、と念頭に置いて私たちはエリアボスに挑みに行きました。



 エリアボスの間にいたのは、炎のクモの糸を張り巡らせる真っ赤な身体をしたスクオス。

 それと、雲のようなクモの糸を出して宙に浮かんでいる、このダンジョンに生息していたスクオスが数えきれないほど。


 普通のスクオスがボススクオスを守るような陣形が組まれています。

 これではボスを攻められないため、普通のスクオスを減らした方がいい、と考えて、私はそれを行動に移そうとしました。

 ですが、それをライザに止められます。


「セツ、待ってください! ここのボス、『復活魔法』を使ってきやがります! 雑魚をやってもきりがありません!」

「ええ!? それじゃ、どうすれば……っ!? 何、この魔法陣――痛っ!」


 ただ、私の素早さは高すぎたため、ライザの制する声は間に合いませんでした。

 私が一体のスクオスを倒してライザの方へ顔を向けた直後、ボススクオスが私の近くに魔法陣を発動させました。

 正確には私が倒したスクオスの足元に。

 それで復活したスクオスに、私は一撃をもらってしまいました。

 見事に毒まで盛られるおまけつきです。


 私はたまらず、みんなの元に戻ります。

 退く私とは反対に、前に出ていく人物が……。

 それはクロ姉でした。


「風で吹っ飛ばす」


 クロ姉が片方のハンマーをかざして振り下ろすと、ここでは地面という扱いになっている雲にハンマーの口が当たった瞬間、爆発するような風が発生しました。

 その爆風によって多方面に散っていくスクオスたち。

 クロ姉の「魔法の槌」は属性を付与すると、攻撃の射程が広くなるようです。


 「魔法の槌」の一撃で多くのスクオスを退かせることに成功しました。

 しかし、倒した敵もいたのですが、そのほとんどをボスが復活させていて……。


「ああ! また……!」


 これ、いったいいつになったらボスを倒せるのでしょうか……?


 長期戦を覚悟した時でした。

 クロ姉の身体を何かがすり抜けていきます。

 私は唖然としてしまいましたが、すぐに発破をかけられます。


「急いで!」


 マーチちゃんの声でした。

 クロ姉をすり抜けていったものはボスに命中して動かなくなって。

 マーチちゃんが何かをしたことだけはすぐに悟って、私は駆け出しました。

 ボスの周りに集まっていたスクオスの一体を掴んで振り回します。

(この大量のスクオスに当たらなかったマーチちゃんの狙撃の腕がすごい……)

 別の方向からはクロ姉がハンマーで攻め入って。

 私たちはスクオスたちを次々に黒い粒子へと変えていきました。


 マーチちゃんが使ったのは恐らく市販の麻痺薬。

 ボスが再び動き出す前に仕留めたかったのですが、敵の数が多かったために再び動かしてしまいました。

 残っていたのはボス一体と数体の普通のスクオス。

 ボススクオスはすかさず復活魔法を展開し始めます。


「っ! 折角ここまで減らしたのに……!」

「面倒……!」


 雲の上に現れた大量の魔法陣に、私とクロ姉は嫌気がさしていました。

 そんな私の横をライザがものすごい勢いで通り過ぎていきます。


「二人とも! 相手が何かすんのを律儀に待ってやる必要はねぇですよ!」


 跳躍し、ボスの顔を両足で踏みつけたライザ。

 すると、ボススクオスは体勢を崩しました。

 ライザがした攻撃は「致命的な一撃」を引き当てたようで……!

 明確な隙ができます。

 私はそれを、逃してはいけない、と感じました。


 頭の上からライザが退いたのを見て、ボススクオスの首を掴んで、


「せいやああああっ!」


 投げ飛ばします。


 ……なんか懐かしいですね、これ。


 クロ姉も構えていましたが追撃をする必要はなく、ボススクオスは黒い粒子となって消えていきました。


 長期戦になるかと思われた第五層のエリアボス戦ですが、マーチちゃんの形勢を引っ繰り返す一手によって決着にはそれほど時間がかかりませんでした。

 あの時は参戦することができなかったマーチちゃん。

 彼女の方を見ると、すごくいい笑顔でVサインを送ってきました。

 それに私もVサインで返しました。

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