第154話(第四章第27話) サクラの決意
【少し戻って、クロがサクラの装備を強化した時の話】
~~~~ サクラ視点 ~~~~
うぅ、情けない……。
泣きじゃくって、鍛冶師の子に恵んでもらうなんて……。
これじゃ、カッコイイお姉ちゃん失格じゃない……。
……でも。
とんでもない失態を曝け出しちゃったけど、それであのクロさんっていう子から装備に特殊効果を付けるのを破格の値段でやってもらえることになったのよね……。
クロさんの特殊効果の付与って、本来なら一回401,408,000Gする、って……。
それを二回やってもらっちゃったから802,816,000Gするところを50,176,000Gでいいって言ってくれた。
それでも高いことには変わりなくて、なんでそんなに高いの!? って驚愕してる間にクロさんは特殊効果の付与を終わらせていた。
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寒熱対策のローブ――『全地形ダメージ無効及び全地形による悪影響無視』
防塵ゴーグル――『全バステ+α無効』
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……え?
全部の状態異常無効?
これ、本当なの……?
俄かには信じられなかった。
だって、道具屋にも置いてないのよ?
「全バステ無効」どころか「一つの状態異常無効」の装備でさえ……。
あと、あたしは何回か街の鍛冶師(NPC)に依頼して、装備に特殊効果を付けてもらったことがあった。
けど、それで付いたのは「HP+4」だとか「攻撃+4%」だとか、そんなものだった。
金額は4,000Gでそんなに高くはなかったけど、それなら道具屋で買えばいい、って感じだった。
だって、二つのステータスが上がることはなかったし、元々付いていた効果が下げられることだってあったのだもの。
たまに道具屋で売られてない特殊効果が付くことがあるけど、「猛毒耐性4%」とか「攻撃デバフ耐性4%」とかだった。
そんな結果だったから、微妙だと思ってやらなくなったのよね……。
改めてクロさんが付けてくれた特殊効果の文字を見てみる。
寒熱対策のローブと防塵ゴーグルに元から付いていた特殊効果を一つに纏めて、意味がなくなった片方の特殊効果を「状態異常にならないもの」に変えてくれてる。
第二層のエリアボスは麻痺にしてくるのが厄介だから、これはあのエリアボス封じの装備って言っても過言じゃないかもしれない。
あまりにもよすぎる性能の所為でここに書いてあることが本当かどうかってどうしても疑いたくなっちゃうんだけど……。
本当だったらすごいわ……。
……これは、うん。
4億Gするわね、本当だったら……。
もう付けてもらっちゃってたから、今さら取り消すことなんてできなくて……。
あたしは特殊効果を付けてもらった代金を支払った。
そのおかげで素寒貧になっちゃった……。
あの子たちともっと一緒にいたかったから、密かにギルドハウスを建てようと計画しててちょっとずつお金をためてたんだけど、なくなっちゃった……。
ど、どうしよう……!
性能が本当かどうかもわからない特殊効果の付与に大金をはたいちゃって……!
……ああ、またお金貯めないと……。
(今の状況で、あたしがギルドハウスを建てられたとしても、あの子たちが来てくれるかはわからないけど……)
装備を強化? してもらったあと、あたしはクロさんと連絡先(ゲーム内)を交換して、それから、クロさんに諭された。
――「あの子たちとちゃんと話した方がいい。このままだと拗れる」って。
……それは、本当にその通りよね。
それでも、まだ、あの子たちに正直に打ち明ける決意が持てなくて……。
あたしは、第二層のエリアボスに挑むことにした。
今まで散々ボコボコにされてきたこのボスに勝てたら言おう――そんなふうにあたしは考えていた。
あたしは、打ち明けなくてもいい理由を探していたんだ。
かれこれ何度目かもわからない第二層のエリアボス・空を舞うリスセフ戦。
正直、不安でしかなかった。
この特殊効果の性能を一回も試していなかったし……。
あんなに戦術を考えて、考えて、それでも勝てなかった相手だったから、完全に負けるイメージが染みついちゃっていた。
勝てるイメージがまったく湧いていなかった。
ボスリスセフはあたしの方を向いて、早速仕掛けてきた。
ああ、いつものヤツ……っ。
予兆があるわけじゃないけど、何十回も何百回も経験してるからわかる。
これは、麻痺の魔法だ!
これで動きを封じられて、一方的になぶられる……!
今回はクロさんが付けてくれた特殊効果があるけど……。
ちゃんと効果を発揮してくれるかしら……?
せめて、麻痺状態を多少なりとも緩和してくれれば御の字よね、くらいに捉えていた。
けれど――
「……え?」
あたしは戸惑った。
だって……、
――身体が全然痺れていなかったのだもの。
……動く。
普通に動く。
あたしの動きを止められてるって思い込んで攻めてこようとしていたボスリスセフも途中で止まって困惑していた。
あっ!
逃しちゃいけない……!
あたしはそんなリスセフの元に駆け寄って、一閃。
ちょっと感動しちゃった……!
このボスに初めてダメージを与えられたから!
ただ、帯刀していた時間が短かった……っ。
あたしのスキル『能ある鷹は爪を隠す』は、刀を鞘に納めている間、ずっと攻撃力と素早さが上昇し続けるんだけど、中途半端なタイミングで抜いちゃったみたい……!
(上がった攻撃力と素早さは抜刀した四秒後に元の数値に戻る仕組み)
相手のHPゲージが示しているのは赤色。
もう少し収めていたら……!
なんて後悔していたら、ボスリスセフはその身体に緑のオーラを纏わせていた。
「や、やば……! ススキちゃ――って、いないんだった……!」
慌ててススキちゃんに対処を求めようとしたけれど、今ここにあの子はいないんだった……っ。
あの子のスキルはバフ・デバフをどうにかできるから、頼りきっちゃってた……!
バフを重ね掛けしたボスリスセフの素早さに、あたしは手も足も出なくなってしまって……!
「うぐっ!? あがっ!? ……す、素早さのバフが、こんなに厄介だったなんて……っ!」
あたしって、なんてバカなんだろう……。
くだらないプライドで、あの子たちの提案を拒んで、一人で闘いに来て……。
気づけば、あたしのHPゲージも真っ赤に染まってて……。
あたしは諦めそうになっていた。
……けれど。
協力してくれたクロさんの顔が。
ススキちゃん、キリちゃん、パインちゃんの笑顔が脳裏を過って――。
ここで負けたら、顔向けできない!
そう感じてあたしの手は
速すぎて目ではタイミングを合わせられないから感覚で鞘から抜いて、あたしは刀を突き出した。
「やああああっ!」
……運がよかった。
ううん、気持ちで勝ったのかもしれない。
あたしの放った一撃はリスセフの脳天に突き刺さっていた。
ボスリスセフ黒い粒子へと変わっていく。
「……勝った? うそ、本当に……!?」
勝てた。
あの何度挑んでも歯さえ立たなかった相手に。
嬉しくて涙が溜まってくる。
「勝ったああああ!」
あたしは叫んでいた。
この時、あたしは決意した。
あの子たちとちゃんと話そう、って。
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