第152話(第四章第25話) 花鳥風月4

~~~~ クロ視点 ~~~~



「ライザという人間はモンスターをバケモノにするスキルを持っている。それでパインを狙った。自分の大事な大事な弟を、だ。しかも、奴によればそれは、人違いでやってしまった、のだという。そんなことをされて許せるわけがないだろう……!」

「……殺そうとした? パインって子を? 勘違いで?」


 私は聞いた。

 ライザがパインって子を、モンスターを使って殺そうとしたことを。


 ……何してるの、あいつ?

 思いっきり迷惑、掛けてる……。

 思わず溜息が出た。

 弟を殺されかけたなら、嫌われても仕方がないかもしれない。

 私にも弟がいるけど、同じ立場だったらそう思う……いや、思わないな。

 あんなこと、されてるし。

 少なくてもゲーム内じゃ思わない。

 この人は姉弟愛がある人なんだろう。


 こんな問題が起きたのは全部ライザの所為だったのか、ってあいつを恨めしく思ってた時だった。


 サクラの次の言葉が、私の不興を買った。


セツとマーチあの二人もあの二人だ! あいつの性悪さを知りながらパーティに加えるとか、どうかしているとしか言いようがない!」


 ……は?

 セツちゃんとマーチちゃんの頭がおかしい、とか言った?

 聞き捨てならない。


「……ライザを悪く言うのはいい。けど、セツちゃんたちをバカにするのはお門違い。セツちゃんは優しい子。だから、あいつをパーティに入れたのは他に迷惑をかけないため。または、あいつを改心させるため。この二つのどっちか。きっと、マーチちゃんもそう。二人のこと、これ以上貶すなら、私はお前を許さない」

「な……っ!?」


 セツちゃんたちのこと、よく知りもしないくせにとやかく言ってきたこいつのことを睨みつける。


 セツちゃんに確認はしてないけど、わかる。

 セツちゃんがライザを仲間に入れたのは、あいつによる被害が拡大しないようにするためか、もしくはあいつ自身を救おうとしてのことだ、って。

 セツちゃんはそういう子だから。


 こいつは威勢がよかったわりには今の、『刹那』ちゃんの姿の私の一睨みでたじろいでいた。

 ただ、口は減らなかった。

 そのまま臆していればいいのに……。


「じ、自分は間違ったことなど言っていないだろう!? 自分たちは既に被害を受けている! 今さら監視しようが改心させようが、もう遅いのだ! あいつにゲームを続けさせようとしている意味がわからない! こっちはあいつを見るだけで不安が過るのだぞ!? 大事な弟がまた狙われるんじゃないか、って……!」


 こいつは言った。

 それって要するに、ライザなんてどうでもいいから自分たちの気持ちを考えろ、ってこと?

 ……ライザは別にいい。

 けど、あいつをなんとかしようとしてるセツちゃんたちの思いは無視?

 それが癇に障った。


「……セツちゃんたちが努力してる。ライザをまともにしよう、って。あの子たちの頑張りを無碍にするようなことをなんで言うの? その考えは自分本位。自己中心的。わがまま。エゴイズム。……でも、それでいい。それがまかり通るなら、私も私のエゴを通す。今からお前を追放する。それがいい」


 私が「破壊者の鉄槌」を目の前の人物に向けると、そいつは目をひん剥いた。


「き、貴様、正気か!? ここはPK禁止エリアだぞ!? それに鍛冶師が何故自分に勝てると――」

「お前、セツちゃんをバカにした。それ、私には充分な動機」


 驚いた様子で、なんとか私を止めようとしてくるサクラ。

 私は、鉄槌をかざして近くにあった壁に向けて勢いよく振り下ろした。



――バコォオオオオンッ!



 いつも通りの快音。

 壁に穴が開いたのを見て、サクラは、


「ひぃっ!? なななな、なんだ、その力は!? どうして壁が……っ!?」


 腰を抜かしていた。

 私が「ブレイクスルー」を使って壁を壊していたから。

 どんなに攻撃力を上げてもダンジョンの壁は壊せない。

 こいつには私が異質な存在に見えたんだと思う。


 ……はぁ。

 目の前で尻もちを搗いてがくがくと震えているこいつを見て、相手をしているのも馬鹿馬鹿しくなってきた。


「……それでエリアボスに挑む気? 四人でもダメだったって聞いてる。お前一人で勝てるとは思えない。パインって子を守る、だったっけ? その子より進めてないのに、寝言は寝て言って」


 もう会話もしたくなくて、私は怯えてるサクラから視線を切った。



 ……。

 …………。

 ……………………。


 やっちゃったぁ……!

 まずい、まずい、まずい、まずい……っ!


 むしゃくしゃしてやった……!

 後悔しかしていない……っ!


 だって、セツちゃんのこと悪く言ったから……っ。

 セツちゃんの良さ、説いても理解してくれなかったから……っ!

 もっと大人にならなくちゃいけなかったのに!

 どどどど、どうしよう!?


 私は一人、苦悩していた。

 セツちゃんたちの張り込みを無駄にしてしまったことに、押し寄せてくるどうしようもない罪悪感。

 どうやって謝ろう……、と考えていた時、サクラに異変が生じていた。



「ひぐっ、うぅ……! ひどいよ……あんまりだよぅ……!」



 ……なんか口調、変わってない?

 見てみると、地面にべた座りしながら軽く握った手で目元を拭っているサクラの姿があった。


「あたし、お姉ちゃんだから、あの子たちを守らなきゃって思っただけなのにぃ……っ! ライザさんから離した方が安全だって思っただけなのぉ……! それなのにあの子たち、ライザさんを頼る、って……! あたしの気も知らないでぇ……! 四人で頑張ろ? って言ったのに誰も賛成してくれないしぃ……!」


 ……ちょっとついて行けない。

 これ、ほんとにサクラ……?


「あたしは反対したのに、あの子たち、ライザさんに連絡入れちゃうし……! ライザさんが豹変しても守れるようにしよう! って備えてたんだけど、来たのはライザさんじゃなくて薬師の子で……! その子なら闇討ちとかしないかな? ってちょっと気を抜いてたら、あの子たち、なんか第二層をクリアしちゃって……!」


 ……止まらない。

 どんどん言葉が溢れてきてる……。

 私は引いていた。


「お姉ちゃんも頼ったら? ってパインちゃんに言われたけど、そこで、じゃああたしも……、なんて言えるわけないじゃない……! あたし、あの子たちの前ではあの固い感じで通してるんだからぁ……! 強くて頼りになる理想のお姉ちゃんでいたいのに、頼れるわけないでしょぉ!? うええええんっ!」

「……装備、強化してあげよっか? パインって子たちには内緒で……」


 見ていられなかった。

 だから、気づいたらこんな提案をしていた。


「あ、あの子たちに内緒で助けてくれるって言うの!? あなた、いい人だったのね!」


 ……私はこれを聞いて思った。

 この人、めんどくさい人だった、って。


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