第149話(第四章第22話) 花鳥風月1

「ご、ごめん、パインくん! 大丈夫!?」


 びっくりして尻もちを搗いてしまっていたパインくんに手を差し出すと、彼は掴んでくれたので引っ張って起こしました。

 握られた手の感触が柔らかくて、それにとても軽い……。

 この子、本当に男の子なのでしょうか?

 私よりも可愛らしいので、ちょっと落ち込んでしまいます。


 私が静かにショックを受けていると、パインくんが聞いてきました。


「せ、セツさんたち、ど、どうしてここに……!?」


 私たちがどうして第二層の「リスセフ遺跡」にいるのかがわからずに困惑した様子のパインくん。

 私は彼の質問に答えようとしました。

 ですが……。


「私たちは、ライザさんがイベントで優勝したからその景品の地図でお宝を――」

「あっ! ご、ごめんなさい! おしゃべりしている場合じゃなかったんです……! ぼ、ボク、行かないと……! し、失礼します!」


 私の言葉は掻き消されてしまいました。

 ほかならぬ質問をしてきたパインくん自身の言葉によって。

 何やらただならぬことが起きている、そんなふうに受け取れます。


「待って! 何があったの!? 私たちでよかったら力になるよ!?」


 私はパインくんを呼び止めていました。

 マーチちゃんたちになんの相談もせずに。

 同意を得ずに決めてしまったことには少し後ろめたさを感じましたが、猶予は一刻を争うような、そんな雰囲気がパインくんからは醸し出されていたのです。

 ですから私は、そちらを優先させました。

 マーチちゃんたちにはあとでちゃんと話そう……!

 彼女たちならきっとわかってくれるはず――そう思っていたのですが、その必要はありませんでした。

 マーチちゃんやライザ、クロ姉も私と同じ気持ちだったから。

 私と同じで、パインくんの力になろうとしていたからです。



 私たちはパインくんに何があったのかを聞きました。


「じ、実は、サクラちゃんが突然、パーティを抜ける! なんて言い出して一人でどこかに行っちゃったんです……!」


 パインくんが焦っていた理由、それは、



――彼らのリーダーであるサクラさんが突然の独立宣言をして、どこかへ消えてしまったからでした。



 パインくんによると、このゲームはパーティのメンバーが不正行為を働いていない限り勝手にパーティから抜けたり追放したりすることはできないそうなので、サクラさんはまだ彼らのパーティ「花鳥風月」の一員ではあるとのこと。

 しかし、パーティなら他のメンバーの位置を知ることができるシステムをオフにされているようで、サクラさんの位置がわからなくなってしまっているらしいのです。

 私がライザの方を見ると、彼女は私が何が言いたいのかを察して私の思い浮かべた疑問に答えてくれました。


「他のパーティメンバーに位置を知られないようにすることは可能です」


 ライザが言うのですから、できるのでしょう。


 サクラさんが行きそうな場所や居場所を知られたくない人を探し出す方法を考え始めた時、パインくんが不安混じりに口にしました。


「い、今、ススキちゃんとキリと手分けして探しているんですけど、連絡はなくて……!」


 ススキさんとキリさんもサクラさんを探している、それなのに見つけられない、と。

 パインくんがサクラさんのことを気に掛けているのはすごく伝わってきます。

 どうしてサクラさんが独立しようとしているのかその理由に心当たりはないか、を尋ねてみると、パインくんは、たぶん、と前置きして考えを述べてくれました。


「でも、どうしてこんなことに?」

「たぶん、ですけど、サクラちゃんにもサポートを受けることを勧めたのがよくなかったんじゃないか、と……。ボクたちはセツさんのサポートを受けて第二層を突破したじゃないですか? だから提案したんですけど、そうしたら、あんな奴らの力を借りるなんてどうかしている、自分は絶対に受けない! って言い出して、しばらくしたらどこにいるのかわからなくなって、連絡も取れなくなっちゃって……!」


 ……パインくんのその推測は当たっていると思います。

 サクラさんはライザや、ライザと一緒にいた私とマーチちゃんのことをよく思っていませんでした。

 ですから、パインくんたちが私たちと仲良くすることを快く思っていなかったのだと考えられます。

 そんな状態の彼女に、私たちのサポートを受けた方がいい、という提案をしても受け容れられるものではないことは想像に難くありません。

 もしかしたら、一人で第二層のエリアボスを倒そうとしているのではないか? そんな気がしてきます。


「もしかしてだけど、サクラさん、エリアボスと戦いに行ってるんじゃ……?」


 このことをパインくんたちに伝えました。

 ですが、そんなことくらいパインくんたちも思い至っていて。


「ボクたちもそう思って、8階のエリアボス前の空間にキリが向かったんですが、見つけたっていう連絡がないんです……!」


 その場所にサクラさんはいなかった、と返ってきたのです。

 一番いそうな場所だったのに……。


 私は考えて閃きました。

 ライザならこの問題を素早く解決できるはずだ、と。

 ライザに頼もうとした矢先、彼女が声を上げました。


「見つけました! サクラがいるのは7階南側です!」


 頼む前から探してくれていたライザ。

 ……流石です。


 私たちとパインくんは現在地の5階東側から、ライザの言った7階南側を目指しました。

 私がマーチちゃんを背負っての移動です。

 すると、私たちの素早さについて来られなかったパインくんの姿がすぐに見えなくなってしまったため、ライザが戻って彼をおんぶして連れてきてくれました。

 パインくんの手はライザの肩に置かれていて極力密着しようとはしていなかったので、かなり揺れ動いていて危ない感じがしましたが……。


「きゃああああっ!? な、なんでそんなに早いんですかぁああああ!?」

「しっかりしがみついてねぇと落っこちますよ!?」

「む、むむむむ、無理ですぅ! だだだだ、だって、その、触れちゃうかもしれないじゃないですかっ!」

「緊急事態なんで不可抗力は責めたりしねぇですよ! それにどうせ偽物です! 役得だと思えばいいじゃねぇですか!」

「む、無茶言わないでください……! ボク、男なんですからぁ……っ!」

「……え?」


 ライザとパインくんが話している内容を聞いて、クロ姉が硬直します。

 ……あっ、これ。

 クロ姉もパインくんのことを男の子だとは思っていなかった感じですね……。

 衝撃を受けて足を止めてしまったクロ姉に、ライザが声を張り上げて言いました。


「何止まってんですか、クロ! 足動かしてください!」

「……ん!」


 ライザが叱咤したことでクロ姉はハッとして私たちのあとについてきました。


 それにしても、7階南側って……。

 サクラさん、なんでそんなところに?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る