第140話(第四章第15話) 久しぶりの経験値稼ぎ2

「先ほど上ってきた階段の後ろの部分の壁が通れるようになってて、その奥にちょっとした空間があるんです。つっても、そこにあるのは神聖水の祠と敵が数体いるだけなんですが。一人称わーは『アナライズ』で見た情報を伝えるのを禁止されてましたから黙ってたんですが、今のセツがどうも不完全燃焼みてぇなんで……」


 ライザが隠し部屋の存在を教えてきました。

 そこにはモンスターも数体いるとのことです。

 私はどうしても戦いたいというわけではなかったのですが……。

 ……ただ、高めた気持ちをどこにも向けることができなくて持て余していただけなんです。


 私はマーチちゃんの様子を確認しました。

 マーチちゃんはライザにばらされた隠し部屋に行くことに若干抵抗がある顔をしているように私には受け取れました。

 そのため、ここの隠し部屋には行かない方がいいかもしれない、と考えてそう答えようとしたのですが、


「ちなみに、敵は金プディンみてぇで――」

「行こう!」


 ライザに、どんなモンスターが出てくるのか、を聞かされた瞬間、私の意思は隠し部屋に行く方に振りきれました。

 黄金プディンは私にとって初めてのダンジョンで戦っていたため、魔石や粘質水が他の銀色や銅色といったものと比べて手に入れられていた量はそれほど多くありませんでした。

 今ではマーチちゃんが数を増やせて、クロ姉が品質を上げられますが、彼女たちばかりに負担を掛けさせていいものか……、という思いが私の中にはあったのです。

 少しでもいいものを手に入れられるなら、二人の負担を減らせられるはず……!

 私は少しでも役に立ちたくて、意気込んでしまっていました。


「……そんなにお姉さんが行きたいなら行くの」


 そわそわした感じになっていた私のことを見ていたマーチちゃんにこう言われます。

 ……あっ。

 マーチちゃんに配慮をさせてしまいました……。


 マーチちゃんは私を責めている感じではありませんでした。

 それでも、今度からは私が配慮できるように気をつけよう、と思います。

 そう肝に銘じながら、私は雲でできた白い壁を擦り抜けました。



 ライザが教えてくれた階段後ろの壁に見える部分をくぐると少し通路があって、その先に開けた空間がありました。

(これまでに訪れたことがあるプディンの巣より一回り小さいくらいの場所です)

 正面奥にはきれいな水が湧き出てくる祠があります。

 ライザによると、あれはただの聖水ではなく神聖水だそうです。

 その神聖水の祠の前に汲みに行くのを邪魔するように配置された三体の金色のプディン。


 相手の数と位置を確認して、私はすぐさま動き出しました。

 投げて、飛ばして、叩きつけて……。

 一瞬にして勝利を収め、戦闘が終了します。

 私が倒すと装備に付いている追加効果によって魔石の数が増えます!

 あと、金プディンの粘質水も!

 マーチちゃんが増やしてくれていた超特大フラスコ(空)をいくつか持ってきていたので、私はそれに金プディンの粘質水と、それと一応神聖水も収めました。

 黄金の魔石も51個手に入れられてほくほくです。

 ちなみに、経験値も装備の特殊効果のおかげで「639」入っています。


「ふん、ふふん♪」

「お姉さん、プディンと戦ってる時が一番生き生きしてるような気がするの」

「えっ」


 私はマーチちゃんに指摘されました。

 それは自分でも気づいていなかったことでした。

 ……そういえば私、さっき鼻歌なんか歌っちゃってましたよね?

 なんかちょっといたたまれない気持ちになってきました……っ。

 マーチちゃんが私に呆れているといった様子ではなかったのがせめてもの救いでしょうか?

 微笑ましいものを見るような視線を向けられていました。

 それはそれで恥ずかしかったのですが。


「セツ、プディンはこのゲームにおける最弱モンスターです。それを倒して喜ぶのはどうかと思いますよ?」

「……セツちゃん、プディンスレイヤー?」


 ライザにニマニマ顔でそう言われ、クロ姉には妙な称号? を与えられた私。


「ち、違うよ! いや、気分が高揚してるのは確かだけど……っ。でもそれは、プディンを倒すことがいいんじゃなくて、このゲームを始めた時よりも成長できてるって実感できるからで! 最初は黄プディンにやられかけてたし……!」


 そう弁明してみましたが、彼女たちから向けられる視線は変わることがなく。


「も、もう! 早くボス部屋まで行くよ!?」


 私は恥ずかしさをごまかそうと、歩き始めました。



 雲の壁に見える部分を抜けて、みんなで階段を上ったあとのこと。

 ライザが、あれ? と疑問の言葉を口にしました。


「どうしたの、ライザさん?」


 聞いてみると、彼女はこう答えました。


「……いえ。先ほどの隠し部屋にいた敵のアイコンが復活してやがるんです。こんなに早く復活するのは今までになかったんで驚いて……」


 ライザの『アナライズ』で作成されたマップには敵の位置がわかる機能も備わっています。

 それで、敵を示すアイコンがいきなりそこに現れた、と言ったライザ。

 どんなモンスターが現れたの? と聞いたところ、また金プディンとのこと。

 それを受けて、私はふと思ったことを口にしました。


「それじゃまた倒しに行く? 金プディンは倒すと経験値が多く手に入るし……」

「それなの! あの経験値は美味しいの! 倒しに行って損はないはずなの!」

「そうですね。今回のメインはレベル上げなんで経験値をくれる奴をみすみす逃す手はねぇでしょう」

「……同意」


 私が言ったことは意見としてマーチちゃんたちに採用され、私たちは今上ってきた階段を再び降り始めました。



 雲の壁に見える部分をくぐって広い空間に出る前に、私はあることを閃きました。

 それは猛毒薬で金プディンと戦うということです。

 そうすればレベルも上げられるし、スキルの使用回数も増やせます!

 危険物を取り扱うため事前にみんなに知らせると了承してもらえました。


 というわけで、猛毒薬L(Lv:3)をつくって金プディンたちを秒で一掃しました。

(ちなみにですが、上質な猛毒薬はモンスターフロアに大量に生えています)


 そうして、今度こそ終わりかな? と判断して上を目指そうとまた階段を上ったわけですが……。


「……ん? あれ? またですか?」


 再びライザが足を止めました。

 どうやらまた隠し部屋の金プディンが復活しているようです。

 これは……。


「あの隠し部屋、階を移動するとモンスターが復活する仕様、ってこと?」

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