第139話(第四章第14話) 久しぶりの経験値稼ぎ1
レベルを上げることが決まったその日、私たちが向かったのは「第五層天空エリアダンジョン4・スクオスの天空城」でした。
ライザによると、各エリアのダンジョン4にしかプディンの巣のような大量に経験値を得られる場所はなく、しかもエリアボスを倒してしまうとそのエリアのボス部屋には入れなくなってしまうのだとか。
(大量のモンスターが出てくるモンスターハウスも各エリアのダンジョン4にあって、そちらはエリアボスを倒してしまったとしても行けなくなることはないそうです)
(ですが、攻略すると一度ダンジョンを出なければモンスターハウスのモンスターは復活しないため、ボス部屋前のログアウトアンドログインの方が効率よく経験値を取得できる、とのこと)
そのため「スクオスの天空城」が、今の私たちが目的を果たすのに最適な場所ということになります。
ちなみに、昨日、私がイベントダンジョンから帰ってくるまでにマーチちゃんたち三人でやっていたことがあるそうです。
それはクロ姉のスキルのパワーアップ。
『数だけ強くなる』と『素材管理』が条件を満たしていたとのことで、『数だけ強くなる』は『数だけ強くなる+』に、『素材管理』は『素材管理+』になっているということを私は知らされました。
『数だけ強くなる+』
――MPがあって、素材の数が揃っていれば指定した品質まで一気に高めることができる(MPの消費量も減る)
『素材管理+』――所持アイテム一覧内の同じ名前の素材アイテムをスタックして表示する
これらを駆使して、昨日のうちにイベントの戦利品である白い魔石の品質を高めてもらっています。
ライザが調べてみたところ、白い魔石は他の魔石の代替として使うことができ、イベント終了後も回収されないみたいだったので。
(さすらいの商人と交換できるアイテムを確認したら、どれもR品質までの使用期限のないHP回復ポーションやバフ・デバフポーションであり、それなら私がつくった方が有効時間も無制限の薬品をつくれるため交換はしないことにしました)
あと、クロ姉のスキルがパワーアップしたということを受けて思ったことがあります。
――私もスキルのパワーアップをしたいよぅ……!
マーチちゃんもライザもクロ姉もパワーアップしてるのに、私だけ置いて行かれちゃっている状態です……!
ライザに確認してみたら、
『ポーション昇華』はあと3,699回、
『有効期限撤廃(自作ポーション限定)』はあと2,927回
使用する必要がある、と言われて……っ。
(『薬による能力補正・回復上限撤廃』に至ってはそんなに使われていないので4,400回以上足りていないとのこと)
まだ全然パワーアップできそうにありませんでした。
……うう。
私ってそんなにスキルを使ってなかったんですね……。
私のパワーアップはしばらくお預けという結論を私は出しました。
納得できなくても受け容れなくてはいけません。
今はレベルアップのことだけを考えることにしましょう。
ということで、私たちは雲でつくられたお城を上って行きました。
クロ姉が用意してくれた、特殊な地形に乗ることができるようになる『いいとこどり』という特殊効果の付いた靴装備があるおかげで無事雲に乗ることができています。
白一色であるため、壁や天井、床の区別がつきにくいというのが難点でしたが。
それと、出てくる敵は猛毒の状態異常にならず、猛毒の状態異常をばらまいてくるスクオスです。
最大HPの4%分のダメージを受けると自力で回復しますが、何回掛けられても薬ではないので耐性ができず状態異常になってしまうのは地味に痛かったです。
(ライザはその素早さで躱していて、クロ姉は装備の特殊効果で防いでいました)
相手はその状態異常にならないというのに自生しているのは上質な猛毒草というちょっとアレな待遇……。
猛毒草が何をしたって言うんですか、「運営」さん!?
……私、癖で摘んでしまっていました。
この第五層のダンジョンは20階構造らしいです(ライザ情報)。
4階、8階、12階、16階と、四階ごとの下り階段付近に安全地帯が設けられているのは第三層や第四層のものと変わらないそうです。
ですが10階が厄介なことに、イベントでもあった大量のモンスターを倒さなければ次に進むことも前の階に戻ることもできない、そのフロア自体がモンスターハウスと化しているモンスターフロアになっていることも教えられて……。
状態異常を防げない私とマーチちゃんはちょっと、というかだいぶげんなりしていました。
ライザからその説明があったのはダンジョンの1階だったのですが……。
一瞬、クロ姉にお願いして状態異常を予防できるようにしてもらった方がいいのでは? とも考えましたが、外せる追加効果がないことに思い至って断念しました。
私たちは雲のリフトや雷雲のギミック、風を吹いてくる雲などに対処しながら進んでいきました。
スクオスとも十体ほど戦っています。
そうしてやってきた10階、モンスターフロア。
ここまでの敵は私が投げ飛ばしていて、マーチちゃんたちはほとんど戦ってはいません。
ですから、私はマーチちゃんたちがどれだけ戦えるのかを知りませんでした。
私が対処しきれないほどの数の敵が現れたらどうしよう……っ、と不安に駆られていました。
特に私やマーチちゃんよりレベルが低いクロ姉と、そもそもレベルを上げることができないライザが敵に囲まれてしまったら……? そう想像するだけで気が気でなくなってきます。
ですが、そんな私の心配は無用なものであったことを、私はこのあと知ることになります。
まず、敵の数が思ったより多くなかったこと。
(100には全然届いておらず、もしかしたらその半分にも満たなかったかもしれません)
そして、彼女たちの動きが私の想定を軽く上回っていたこと。
――その素早さで相手を翻弄し、手数でダメージを与えていたライザ。
――二つの槌を振り回し、敵を打ち払っていたクロ姉。
――味方には絶対に当たらない弾を射て、敵を撃ち抜いていたマーチちゃん。
みんな、強かったのです。
……考えてみれば当然かもしれません。
だってマーチちゃんは、クロ姉は、ライザは、私よりも早くイベントダンジョンを制覇しているのですから。
私の出番はなく、モンスターは一体残らず消えていきました。
みんなを守らなくちゃ……! と意気込んでいたのに何もできなかった私はこの気持ちをどこにぶつければいいのかわからずに立ち尽くしてしまっていると、ライザが言ってきました。
「……えーっと、言っていいべきかどうかわかんなかったから黙ってたんですけど、あちらに隠し部屋があるんです。行ってみますか?」
と。
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