第138話(第四章第13話) 中間発表

『イベント中間発表!(6月16日:ゲーム内①0時‐現実0時)



 いつもご利用いただきありがとうございます。

 「ギフテッド・オンライン」運営チームです。


 現在行われている「Eダンジョン踏破イベント」の中間発表をさせていただきます。

 10位から1位の方の名前とパーティ名、タイムを公開いたします。

 上位を狙いたいパーティの皆様は参考になさってください。


10位ジオ(ベータテスターの集い) 3時間25分45秒

9位マーチ(ファーマー)      2時間50分30秒

8位キンジン(プディン帝国)    2時間09分37秒

7位ロード・スペード(MARK4)  2時間08分20秒

6位ハーデス(ギフテッドの旅団)  1時間19分31秒

5位シニガミ           1時間14分04秒

4位クロ(ファーマー)       1時間04分10秒

3位クロノス(ギフテッドの旅団)    37分12秒

2位P(真のギフテッドマスター)    16分40秒

1位ライザ(ファーマー)         9分10秒


 イベント期間中に効果を発揮する課金アイテムはまだまだ販売しております。

 ぜひご利用ください。


 引き続き、「ギフテッド・オンライン」をよろしくお願いいたします。

 「ギフテッド・オンライン」運営チーム一同より』



 金曜日。

 学校から帰ってきてゲームを始めてみると、「運営」からこのようなお知らせが届いていました。

 みんな、速い……。

 私はトップ10入りを逃してしまったようです。

 ライザやクロ姉、マーチちゃんの名前は載っているのに、私の名前だけがそこにはなくて……。

 私は空しい気持ちになってしまいました。

 みんなで上位を独占する、という目標を掲げていたのに、私だけそれができなかったことが申し訳なく感じて。


 しばらくその画面を見て落ち込んでいた私。

 そこへマーチちゃんがログインしてやってきました。

 マーチちゃんは暗い表情をしているであろう私を見て慌てて声を掛けてきました。

 ものすごく心配している様子で。


「ど、どうしたの、お姉さん!?」

「……あ、えっと、イベントの中間発表があって、ね」


 私が、元気がなくなっている理由を説明すると、マーチちゃんは「運営」からのメッセージを確認します。

 そして、そんな……っ、という声を漏らしました。

 その声は、ひどく弱々しいものになってしまっていて……。

 私を見るその目は、私のことで憂えているように見えて……。

 私以上にこの結果を深刻に受け止めているようでした。

 そんな状態のマーチちゃんを見て私はハッとさせられます。

 マーチちゃんはランクインしているのに、そんな彼女にこんな顔をさせちゃダメだ……! と。


 私は自分の両方の頬をはたきました。


「お姉さん!?」

「……ごめんね、マーチちゃん。気を使わせちゃって。マーチちゃんはランクインしてるんだもん。純粋に喜べない空気にしちゃダメだよね。もう大丈夫っ。……ありがとう、マーチちゃん。それに、トップ10にランクイン、おめでとう!」

「お姉さん……」


 気持ちを切り替えます。

 過ぎてしまったことはもうどうすることもできません。

 いつまでもこれに囚われていては、これから行うことによくない影響が出てくる可能性があります。

 どうにもならないことにいつまでもくよくよと悩んでいるより、これからのことを考えた方がよっぽど建設的だと言えるでしょう。

 そのことに私は思い至りました。

 マーチちゃんと、みんなと、楽しい冒険をしたいですから。


 私が謝罪をし、笑顔で賛美を送ると、マーチちゃんの表情も明るいものになっていきました。



 イベントダンジョンにもう一度挑戦することはできないため、私の第二回イベントはこれにて終了です。

 これからどうしようか? とマーチちゃんと話していたら、ライザとクロ姉もログインしてきました。

 「運営」からのお知らせを見た彼女たちにも、イベント中間発表の内容のことで私が思い悩んでしまっているのではないか、という危惧をさせてしまったようで、すごく気を使われてしまいましたが、私がもう気にしていないことを伝えると胸をなでおろしてくれました。


 ライザたちにもマーチちゃんにしていたのと同じ相談をすると、ライザから提案されます。


「第五層の攻略か、第五層の隠し部屋巡りも選択肢の一つですが、レベル上げをするっつーのはどうですか? 実は、そろそろ手に入るんじゃねぇかな、って思ってるモンがあるんですが、今のセツたちのレベルじゃそれが使えねぇみてぇなんですよ」


 第五層の攻略や隠し部屋巡りよりもレベル上げを優先させたい、と。


 情報を得ることに関してはライザの右に出る者はいないと思います。

 そんな彼女が言っているのですから、それは必要なことなのでしょう。

 それに万が一、ライザが求めているものが手に入らなかったとしても、レベルを上げておくことは悪いことではないはずです。

 死ににくくなることに直結するわけですから。


「ライザが言うならそれは必要なことだと思うの。レベルが高ければダンジョン攻略も安定するし、異論はないの」

「そうだね、私も賛成かな。イベントダンジョンの100階にいたボス、一撃で倒せなかったし。想定外なことが起きた時のために対応できるようにしておいた方がいいかも」


 マーチちゃんがライザの意見に賛成したところで私もライザの意見を支持したのですが、その時にみんなから視線を向けられました。

 マーチちゃんとクロ姉は、信じられない……! とでも言いたげな顔をしていました。


「……え? GGZお姉さんが一撃で倒せない敵なんて存在するの?」

「確か、セツちゃんの攻撃力、2,600倍、って聞いたような……」

「そうですね。ちなみに、イベントダンジョンに入ってもセツのバフポーションの効果は維持されてましたよ?」

「……そう。なら、どうして……?」

「……」


 どうやら二人は、私が一撃で倒せない敵がいたことに驚いていたようです。

 ……あの、どうして、私が全ての敵を一撃で仕留められる、と思っていたんですか?

 私の攻撃力は確かに高くなっていますが、一撃で倒せない敵がいたとしても別に不思議ではないですよね?

 あと、マーチちゃん?

 「お姉さん」の言い方がいつもと違っていたような気がするのですけど?


 ジトっとした目を二人に返していると、ライザが言います。


「まあ、あのボス、全てのステータスが『8,840』だったんでレベルによっちゃあ倒せねぇこともあるでしょう。一人称わーも三十三回攻撃する必要がありましたし」


 ライザからの説明を受けてクロ姉も、これからレベル上げをする、という意見に賛同しました。


「……そっか。私、『傾国傾城特殊効果』で弱くして倒した、けど……。これから敵、強くなってく、なら、レベル上げ、必要」


 全員が賛成したことで、私たちはこれからレベルを上げることになりました。

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