第137話(第四章第12話) イベントダンジョン踏破(セツ視点)

『イベントダンジョンを制覇しました』



 100階にいた王冠と赤いマントを着けた骨のモンスターを倒すとそんなアナウンスが流れて、パーンッと紙吹雪が舞い上がりました。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ」


 私が乱れてしまった息を整えていると、目の前にスマホの画面のようなものが表示されます。


========


 イベントダンジョン制覇、おめでとうございます。

 セツ様の記録は5時間37分30秒です。

 イベントダンジョンから出ますか?


 →はい    ・いいえ


========


 これは、どうなのでしょうか?

 上位を狙えるタイムなのでしょうか?

 わかりません。


 ……ただ。

 あそこで「あんなこと」にならなければ、もっとタイムを縮められていたのは確かです。

 私は悔しい思いを抱えながら、モニターの「はい」の部分をタップしてイベントダンジョンをあとにしました。



……………………



「やっと帰ってきましたね。随分遅かったじゃねぇですか?」

「……おかえり、セツちゃん」


 イベントダンジョンから転移するとそこは宿屋で、既にライザとクロ姉は戻ってきていて、私のことを待ってくれているようでした。

 クロ姉に抱きつかれて、私はただいまと言ってから辺りを見渡しました。


「ただいま。二人とも早いね……。あれ? マーチちゃんは? まだ帰ってきてないのかな?」


 マーチちゃんの姿が見当たらず、私はそんなふうに予想したことを口にしていました。

 ですが、それは見当違いで、ライザに訂正されます。


「マーチもとっくにクリアして帰ってきてますよ? もう現実で六時を過ぎちまってますから、今はログアウトしてます」

「あっ、ほんとだ……。もう戻っちゃってるんだ……。ってことは、私が最後だったんだね……」


 メニュー画面を開いて時刻を確認してみると、③の二時三十一分、現実では午後六時半を過ぎていました。

 マーチちゃんは六時にはゲームをやめないといけないので、この時間にいることは稀です。

 マーチちゃんに挨拶ができなかったことに、切ない気持ちにさせられました。

 それもこれも、私がイベントダンジョンの攻略に時間をかけすぎてしまったから……。



 あのイベントダンジョン、71階から登場した「バラバラの暗証番号」に私は悩まされました。

 特に78階……。

 ヒントはあちこちにちりばめられているというのに、桁数はなんと「32」だったのです。

 一目見ただけで憶えるなんてできなかったため、ヒントがある場所も憶えなければならず、私は時間をかけさせられていました。

 ですが……。



――これは序の口ですらなかったのです。



 私は地獄というものを知ることになりました。

 81階から登場した「転移の魔法陣」によって。


 魔法陣はどこがどこに繋がっているのか私にはわかりませんでした。

 迷いながらもなんとか88階まで上った私。

 しかし、88階の魔法陣は私に牙を剥いてきたのです。


 設置されている魔法陣の数が多くて、頭の中の地図はめちゃくちゃになっていて。

 同じ場所を行ったり来たりして彷徨った結果、私はとんでもない魔法陣を踏み抜いてしまいました。

 転移させられたあと、階段を探していた私の目に飛び込んできたのは一つの鍵が掛けられているドアでした。

 前の階であったギミックが登場することもあるかもしれない、と解釈した私はそんなに深く考えずに鍵を探しに行ったのですが……。


 敵が小さくなっていたこと

 フロア全体が狭く感じたこと

 次の階が安全階になるはずなのにそうはならなかったこと


 違和感が私の中で少しずつ膨らんでいきました。


 それから七つの階段を上ったところで私はようやく理解しました。

 目の前に現れた「暗証番号」付きのドアによって。



――私はイベントダンジョンの88階から24階まで戻されていたのだ、と。



 ……気づくべきだったんです。

 あれだけ違和感があったわけなのですから。

 中ボスがいるはずの空間(30階)に中ボスがいなくてそのフロアを通過することができたため、そういう仕組みなのかな? なんて捉えてしまったのが軽率でした。



――中ボスがいる空間に入ると前の階には戻れなくなる――



 そのルールがあったことで、64階も下に転移させられていたことに、31階で気づいた私は、転移の魔法陣を使って88階に帰るという手段を失ってしまいました。

(フロアはほぼ全体を巡っていたのでもしかしたら一方通行の可能性もありますが)

 また88階まで階段を上って行かなければならなくなったということに、衝撃を受けた私の時はしばらくの間止まりました。

 ……理不尽です。


 挫けてしまいそうになりましたが、マーチちゃんたちとの約束を思い出して、私はなんとか再起しました。

 みんなで上位に入る――その約束を果たすために私は進みました。


 「暗証番号」を記憶して入力し、

 「落とし穴」に嵌りながらも止まることなく、

 「切り替えのスイッチ」を操作し、

 「四種の鍵」に惑わされながらも何度も挑戦して正解を引き、

 「バラバラの暗証番号」で頭を痛めつつも攻略しました。


 それはもうがむしゃら、しゃにむに、めったやたらに。

 一度倒した中ボスとの再戦はありませんでしたが、それならギミックも解けた状態にしておいてほしかった、と切に思いました。


 それから「転移の魔法陣」に再挑戦。

 記憶を頼りに88階まで上って行きました。

 私を24階に戻した他のものより大きな魔法陣は絶対に踏まないように注意しながら辛うじて突破。

 安全階を抜けて90階へ。

 中ボスは一撃で仕留められました。

 ああ、ずっとボス戦がいい……! そんなふうに思ってしまったのは仕方のないことだと思います。


 その結果、私のタイムは5時間37分30秒という記録に。


 ちなみに、ギミックがなかった91~94階、大量のモンスターと戦うことになった95~98階、安全階である99階は難なく通り過ぎることができていて。

 そのままの勢いで100階を制覇しています。

 64階も下に戻されていた分、最後のボスに挑む時のレベルは「246」。

 攻撃力は「430,027」、素早さは「993,904」になっていたので、苦戦はしませんでした。

(それでも二回攻撃する必要がありましたが)

(流石ボスです)



 ライザによると、マーチちゃんは私よりも二、三時間ほど早くクリアしており、クロ姉はさらに一時間三十分ほど早く、ライザに至ってはそのさらに五十分ほど早くクリアしているとのこと。

 話を聞く限り、私がこのイベントで上位を取るのは難しい気がしてきました……。


 ……っていうか、ライザ?

 あなた、いったいどれだけの時間でダンジョン制覇したんですか?

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