第127話(第四章第2話) 穏やかなひと時2

「はぁ……。それにしても二人称なー、なんでこんなにいっぱいアイテム持ってやがるんですか? しかも使えねぇものばっか……」

「偶に本当にレアなものが出てくるから、それが余計に質が悪いの。日頃から整理整頓してれば、ここまでゴミ溜めみたいな感じにならなくて済んだと思うのだけど?」

「……ごめん、なさい……っ」


 クロ姉が持っていたアイテムの数は優に4,000を超えていたようで、ライザとマーチちゃんが愚痴をこぼし始めました。

 それはマーチちゃんでも持ち切れないということなので、四つ同じものがあればクロ姉に合成してもらい、足りなければマーチちゃんが増やして補って、そうしてアイテムの数を減らすことに勤めていました。

 ああ、何もできないのがもどかしい……!

 三人が頑張っているのに、私はいったい何をやっているのでしょうか……。


 四十分ほどが経って終わりました……私の宿題が。

 マーチちゃんたちの作業はまだ続いています。

 彼女たちがする会話の内容が、クロ姉のアイテム整理のことが中心になっていっていたので、私がその会話の中に入っていくことははばかられて。

 おかげで宿題は捗りましたが、今度は手持無沙汰です。

 手伝いたい気持ちは有り余るほどあったのですが、戦力外と判定されてしまっているんですよね、私……。

 彼女たちの邪魔をするわけにもいかないので、私にできることは精々見守ることくらいでした。



 それから大体二時間(ゲーム内)くらいして、クロ姉のアイテムの整理が完了したようです。


 どんなふうになったのかを見せてもらえました。

 それがこちら。


========


アホクビの合金翼……1つ

アホクビのドラゴンスケイルLv:3……1つ

アホクビのソニックカッター……2つ

アホクビの大毒針……3つ

タチシェスのジュエルティアラ……1つ

タチシェスの神秘的な大甲羅……3つ

タチシェス黒ダイヤLv:3……2つ

タチシェスのミレニアムアイ……2つ

リスセフのフェアリーテイルLv:3……2つ

リスセフの鋭利な大牙……2つ

リスセフの鋭利な大吻……3つ

リスセフのマイクロスコープ……1つ

スクオスの長大嘴……1つ

スクオスの幸運を呼ぶ完璧な抜け殻……2つ

スクオスのモイスチャーローション……3つ

スクオスの金剛力糸Lv:3……1つ

超特大フラスコ(プディンの超強力粘質水)1/64

紺碧錫玉こんぺきしゃくぎょく魔石Lv:3……1つ

深紅銅玉しんくどうぎょく魔石Lv:2……3つ

純白銀玉じゅんぱくぎんぎょく魔石Lv:2……2つ

漆黒金玉しっこくきんぎょく魔石Lv:2……1つ


========


「こ、これは……っ」


 ……うん、見たことのないアイテムばっかりでした。

 驚きで何も言えません。

 そうしていると、マーチちゃんが解説をしてくれました。


「ボクも初めて見たけど、全部、モンスターからドロップする最高品質レジェンドクラスのアイテムみたいなの。鍛冶師は基本的にドロップアイテムを素材にして『鍛錬』のスキルを使うから、こんなにかき集めてたのだと思う」

「……コモンのドロップ、手持ち圧迫の原因になる。だから、捨ててく人、多い。それ、回収してた」

「ほええ……」


 マーチちゃんからの解説と、クロ姉が行っていた素材集めの方法を聞いて、私は間の抜けた声しか出てきませんでした。

 これが全て、ドロップアイテムの最高品質……。

 その品質まで高めたのはクロ姉のスキルによるものでしょう。

 そして端数が出ていないのはマーチちゃんのスキルによって、だと思います。

 『数だけ強くなる』と『ポケットの中のビスケット』……。

 この上なく相性がいいのでは?

 MPは結構消費したそうですが。

(マーチちゃんは「256」、クロ姉は「4,692」減ったという報告を受けました)

(マーチちゃんのMPもクロ姉のMPも私特製のMP回復ポーションによってとんでもない数値になっているので、それだけ減ったとしてもまだまだ上限を超えているのだとか……)



「あっ。マーチちゃんが同じアイテムを四つに増やしてクロ姉が一つ上の品質に上げれば、どこまでも品質を高められて、クロ姉が素材に困ることはないってことだね」



 私はなんの気なしに思ったことを口にしました。


 それから、もう一度クロ姉の所持しているアイテムの表示に目を向けて、「超特大フラスコ」なる胸躍る表記を発見。

(前に見た時は初めて見るアイテム名がずらりと並んでいたために、衝撃が強くて見落としてしまっていました)

 こんなもの、どこで手に入れたんだろう? 私もほしいなぁ……、なんて考えていると、


「それなの!」「それです!」

「ひゃわ!? な、何……?」


 マーチちゃんとライザが叫び出しました。

 突然の大きな声にビクッとして、マーチちゃんたちの方を見ると、彼女たちは目を輝かせていて……。

 えっ? 何? どういうこと……?


「なーは天才ですか!? やりましょう、それ! マーチ、クロ!」

「クロ! やるの! MPがなくなってもお姉さん特製のMP回復ポーションがある! 無限増殖もわけないの!」

「え? えっ?」


 何かやる気満々なマーチちゃんとライザ。

 私とクロ姉は置いてけぼりを食らっていました。



 というわけで。

 私だけはまたしばらく見ているだけの時間が続きました。

 クロ姉は駆り出されていて、目を回していましたが。


 彼女たちが取り掛かっていたのは、先ほど私がなんの気なしに言ってしまったことで。

 マーチちゃんが数を増やしてクロ姉が質を上げる――それを実践していたのです。

 マーチちゃんたちのMPは高くなっているのでそれを使って、どんどん量産されていくレジェンドレベルの高いアイテムたち。

 クロ姉が保有している全てのドロップアイテムをレジェンドレベル8まで上げて、その数を十個ずつで揃えたのを見せてもらった時は圧巻の一言でした。


 ですが、ここで終わり、というわけではありません。

 むしろ、ここからが肝でした。

 今度は増やした高品質のアイテムを使って装備に特殊効果を付与していくことに。


 それで、


 マーチちゃんが装備していた「耐久の繋」に『耐久値∞』、

 マーチちゃんの「商人のスリングショット」に『フレンドリーファイヤー設定』、

 ライザとクロ姉の初期装備の服に『全地形ダメージ無効及び全地形による悪影響無視』、

 そして、全員の初期装備の靴に『いいとこどり(全地形)』


 の特殊効果が付けられました。

(また、それぞれに盗難防止も施されています)



 『フレンドリーファイヤー設定』

――この武器を用いた投擲の当たり判定を変更できる。

  →味方を擦り抜ける    ・味方にも当たる


 『いいとこどり(全地形)』

――特殊な地形に乗ることができるようになる。



 最後の防具に追加効果を付与し終えたクロ姉は力なくベッドにダイブしていました。

 彼女は最初から最後まで休む暇なく動きっ放しだったわけですから、そうなってしまったのも無理はないかもしれません……。

 クロ姉のおかげで第五層を攻略できるようになったわけですが(クロ姉も第四層は突破しているとのこと)、今日は何もせず、クロ姉を労わることにしました。

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