第123話(第三章第39話) 嫌われ者の後始末2
「あの人たちを放っておいていいの!? 早く追わないと……!」
私がそう言うとライザは言いました。
悪い笑顔で。
「大丈夫ですよ、
というわけで、クロさんの被害者たちへの対応を優先することに。
……あと、ライザ?
その笑い方、私は女の子としてどうかと思いますよ?
クロさんが売ってしまった装備は百個らしいのですが、この日、この時間にこの場所にいて、賠償を行うことができたのは57人。
残りの方たちはこの場にいなかったため、後日改めて対応させていただくことになりました。
私がゲームを続けられる時間はあと三十分ほど。
それが過ぎると強制的にログアウトになります。
今日、あの人たちを見つけるのはもう無理なのでは? と私は諦めかけていたのですが、ライザはそうでもなく。
「さて、それじゃあ、あいつらをしばき倒しに行きますか!」
自信満々にそう言ってきたのです。
そのため、私たちはクロさんも含めて四人であの人たちを追い駆けることになりました。
……ライザの『アナライズ+』ですが、マップ機能と併せることで対象を追跡できる機能も備わっていたのです。
一つなん役なんですか、このスキル……!?
~~~~ クロ視点 ~~~~
「リスセフ遺跡」七階南側。
さっき騒ぎを起こした人たちがいるから、とか。
聞いたマーチちゃんと
私は彼女たちの気持ちが読めた。
……同感、パーティでもない相手の位置を把握できるスキルなんてストーカーもいいところ。
ふっ、変態にはお似合いのスキル。
「何してんですか? なーも行くんですよ?」
「……は? 嫌……え?」
どういうわけか、私もついてこい、って言われた。
渋っていたら変態に腕を掴まれた。
そして走り出された。
――猛スピードで。
「いやああああああああっ!?」
こいつ、ネタって言われてる鑑定士でしょ!?
なんでこんなに速く走れるの!?
私は
十数秒か或いは数十秒経って差し掛かったのは突き当り。
変態が止まったことで私は強風に煽られる鯉幟から卒業できた。
はぁー……、ひどい目に遭った。
乱れた息を整える間もなく、オバケがマーチちゃんを背負いながら追いついてくる。
あんなにスピードを出されてたのに……。
こいつも薬師とは思えないスピードを出していた。
……なんなの、このアブノーマルパーティ?
めちゃくちゃ。
なんて思っていたら、どこかからか声が聞こえてきた。
壁の向こうから、みたい。
「ふふふ、まさか奴らも俺たちがモンスターハウスに隠れているとは思うまい!」
「大量のモンスターに囲まれるのは単純にめんどくさいからな! ランスが相手してくれなきゃ、俺たちも死んでるだろうしな!」
「貴様ら! 少しは手伝え!」
「……そうだ! 万が一見つかってもいいように『ディープフェイク』を使っておくか!」
「お前、天才だな!」
「聞け、貴様ら!」
さっき、騒ぎを起こしていた人たちの声だ。
本当に場所を突き止められるなんて……。
……変態、やばい。
モンスターハウス、とか言ってたっけ……。
確かあれって、ボス部屋と同じく入ったら出入口を塞がれる仕組みだったはず。
曖昧な知識だったけど、当たっていた。
考えている間に目の前の壁は通路に変わった。
その先にあったのは広い空間。
そして、そこにいた子たちに私は思わず声を漏らした。
「……マナ……メグ……サチ……っ」
そこには三人がいた。
連絡が取れなくなっていた、私のパーティだった三人の女の子が。
どうしてこの子たちがここに?
変態はさっきの騒ぎを起こした人たちを追っていたんじゃなかったの……?
「げっ!? あいつら……っ! お、落ち着け……。や、やあ、クロさん! 元気だった?」
「ば、バカ! そうじゃないだろ!? 連絡取れないようにしてたんだから! なんとかして連絡が取れなかったんだって思わせないと……! え、えっと……、そう! 私たち、誘拐されてて!」
「く、クロさん、助けて……!」
私の声に反応して振り返り、私のことを視認した三人はそんなことを言ってきた。
信じたかった。
騙されてたなんて思いたくなかった。
でも。
彼女たちの周りには誘拐犯なんていなくて。
私が動揺している間に、変態がすごい速さで三人に近づいていって、
「『鑑定』」
と唱えた。
スキルを使ったんだ。
鑑定士のジョブスキルを。
それで三人は、姿を変えた。
……いや、元に戻った。
そこにいたのはハゲとチビとヒョロい男。
姿が変わる瞬間を目の当たりにして、否が応でも理解する。
――ああ、私は騙されていたんだ、って……。
もう何も考えられなくなって、私はその場に座り込んだ。
彼女たちの、いや、あいつらの化けた容姿に目がくらんでいた。
私のタイプどストライクだったから。
それからはなんかいろいろあったと思う。
私を騙していた三人が今度はマーチちゃんたちに変装して。
本物のオバケが本物の変態を投げ飛ばしてた。
変態は一瞬で壁まで飛んでいって激突し、轟音を響かせた。
明らかにただじゃ済まない感じだった。
間違いなく、死んだ、って思えるくらいの。
それなのに、吹っ飛ばされた変態は、きひゃひゃ、って不気味に笑ってゆらりと立ち上がった。
その様子は異常だった。
仲間を躊躇なく殴ったオバケも。
間違いなく死ぬようなそいつの一撃を食らっても平然と立ち上がった変態も。
二人の異常性を前に、私を騙していた三人は戦意を喪失した。
私は腑抜けてたから、衝撃は思いの外受けていなかったけど……。
変態が、「ブクブクの街」まで三人を連れて行く、って言って、マーチちゃんが二人、変態が一人を引き摺りながら第三層まで帰っていった。
私は呆然としていることしかできなかったけど、オバケに引っ張られて一緒に帰ることになった。
……………………
そしてこれは、第三層の広場で待っていた人たちに騒動を起こした三人を引き渡したあとのこと。
私は衝撃の事実を知ることになった。
外の騒動の所為ですっかり客がいなくなっていた宿屋で。
変態がオバケにこのゲームの仕様について話してた。
その内容は、ゲームと現実でまったくの別人になれる(しっかりとイメージしないといけないので難しいが)ということ。
それを確認したオバケが言ってきた。
耳元で。
「クロさんって、イチ姉なんでしょ?」
って。
私は頭の中を真っ白にさせられた。
だって、私のことをそう呼ぶのはあの子しかいないから。
「……刹那ちゃん?」
彼女の名前を呼ぶと、目の前の子は微笑んでいる気がして。
「やっぱり。雰囲気がそうなんじゃないかな? って。驚いたよ。だって、現実の私がゲームの世界にいるんだもん」
続けて、
「イチ姉……こっちではクロ姉の方がいいかな? ヘルギア、ありがとう。クロ姉のおかげで私、今すっごく楽しいよ。マーチちゃんとライザ、それにクロ姉とも会えたから」
って。
間違いない。
この子は刹那ちゃんだ……!
どうして気づけなかったんだ、私のバカ!
自分のことが恨めしい。
私は他人の顔を憶えられなくて。
刹那ちゃんだって気づけなくてひどいことをしてしまってる。
でも。
この子と一緒に旅をしたくて。
「お願い、一緒にいさせて」
わがままなのはわかってたけど。
彼女はこの手を、取ってくれた。
―――― 第三章・おわり ――――
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