第122話(第三章第38話) 嫌われ者の後始末1(セツ視点)
「な、何!? どうなってるの……!?」
マーチちゃんがライザに尋ねます。
ライザはしれっととんでもないことを言ってきました。
「何? って……。こいつら、自分たちを『偽装』してやがったんですよ。で、その『偽装』してる状態のステータスを覗いた時の文字の色と『謎の』アイテムの説明をスキルで視た時の文字の色が同じだったんで、『鑑定』が使えるんじゃねぇか? って思ってやってみたら通用したってだけの話です。マジで効果があるとは思いませんでしたけど。いやー、やってみるもんですねー」
このちょっとふくよかで髪の毛がちょっとアレな感じの男の人はスキルによって気障っぽいイケメン風に見えるようにしていた、と。
その時のステータスの文字の色が、『謎の』アイテムの説明の文字の色と同じ色だったから『鑑定』で正しい姿に戻せるのではないか? と思って試してみたのだ、と。
……ライザ、それ、すごいことをやってませんか?
よくない方の意味で……。
一人の男の人がまるっきり別人になっているのを見て、他の二人が妙な動きを取り始めました。
「……くそっ! ネタ職業のネタスキルで解けんのかよ、そのスキル!」
「ま、まずい……っ!」
逃げる素振りを見せたのです。
それをライザは許しませんでした。
「おおっと。逃しませんよ? あんたらも赤い字なんで。――『鑑定』」
「おわっ!?」「うぉっ!?」
背を向けて走り出そうとした二人の肩をがしっと掴んだライザ。
ジョブスキルを発動させて、先ほどと同じように彼女の手が光を放ち始めます。
気障っぽい人がそうなったように全身が白く光りだし、白いシルエットになってその形を変えていきました。
チャラそうなウルフカットの人は、長い前髪で目を隠したニキビだらけの顔の小柄な男の人へ。
ツーブロックの厳つそうな人は、背は高いけれど痩せこけていて面長で眼鏡で上顎前突の男の人へ。
二人もまるっきりの別人になってしまったのです。
それを目の当たりにして、マーチちゃんが呟きました。
「……じゃあ、この人はキサラギやジュン、オーガストじゃない……?」
……そっか。
これは、違う人が化けていた、ということになるのでしょうか?
私、すごく怒ってしまったんですけど……っ。
私が人違いだったら大変だ……! と、テンパり始めた時、小柄な男の人が、あっ! と声を漏らしました。
「あ……っ! や、やばいぞ、あっちの女の子、商人だ、バッグ背負ってる……! 商人って言ったら……!」
「あ……っ! ま、まさか、あれなのか……!?」
「そ、そんなことが……っ!?」
……何? この反応?
マーチちゃんのことを知っている?
でも、さっきまでの姿は偽っていたものなんですよね?
これはどういうことなのでしょうか……。
もしかして、あの時から既に偽っていたってこと――?
私は目の前の三人に問い質そうとしました。
ですが、私は聞きたいことを聞けなくなりました。
ライザが突然叫び出したから。
「さてと、証人を増やさねぇといけねぇですね。すーっ
――皆さん、こいつらです! このダブル、トール、ランスが今回の事件の首謀者です!」
それは驚きの内容で、クロさんからの賠償を求めて集まってきていた方たちの視線を一気に集めました。
ただ、あまりにも突拍子がなさすぎたため、誰もが、何を言っているんだ? という感じで固まっていました。
首謀者と言われた三人の男の人たちも。
ライザが説明を始めます。
「
彼女は言いきりました。
彼女には見たものの情報を読み取れるチートスキル『アナライズ』があります。
「視て」いるからでしょう。
彼女の発言には一切の迷いがありませんでした。
「なっ!? お前、なんで……!? ち、違う! でたらめだ!」
「っていうか、なんで俺たちの名前知ってんだよ……!」
「この小娘、やばいぞ……! あ、いや! 頭がおかしいという意味だ! 我々を貶めようとしているのだ!」
ライザの言葉を受けて周りにいた方たちの目が三人に向かいました。
それによって狼狽え始める三人の男の人たち。
ライザを
「『鑑定』! ……変わりました! 『狩人の
――こいつらが装備の情報を偽装できるほかならぬ証拠です!」
ライザがそれらを『鑑定』で本来の姿に戻すと、ざわつき始める周りの方たち。
クロさんも近くにやってきていて、それを見て目を見開いていました。
私はというと、ここにきてようやくライザがやっていることの意味を理解していました。
釣れるかもしれない――と言った、あの言葉の意味も。
この男の人たちは自分たちや装備の姿かたち、そして情報を偽装できるスキルを持っていたのです。
このゲームでは他のプレイヤーが持っているスキルを持つことはできない……。
それはつまるところ
――この人たちがクロさんの装備に細工をした可能性が極めて高いということになります。
先ほどのライザの行為は、その情報を広めるためのものだったのです。
一人のプレイヤーさんが大声を出しました。
「そうか! このゲームは同じスキルを持てない! こいつらが装備の情報を偽装しなきゃ、あんな偽物の装備なんてできなかったんだ! 少なくてもこいつらがあの鍛冶師の協力者なのは間違いない!」
「あ、ぐ……っ!」
そのプレイヤーさんの一声で三人の男の人たちは、この場にいるクロさんの被害者たち全員から睨まれることに。
三人は顔中に汗を滲ませて、首や目を慌ただしく動かし始めます。
そうして、眼鏡をかけた男の人がハッとした表情を浮かべ、ライザを指差しながら何かを言おうとして。
「そ、そうだ! こいつだ! こいつが――」
「こいつが首謀者だ、とか言わねぇでくださいよ? 自分たちを嵌めようとしている、とか。そんなわけねぇじゃねぇですか。よく考えてみてください。あの鍛冶師に罪を上手く
「ぐぬぬ……っ!」
けれど、その先をライザに読まれて止められました。
疑いの目をライザに向けようと画策していたらしい眼鏡の人でしたが、ライザに正論を返されてぐうの音も出なくなります。
この様子に、ライザのことをよく知らない方たちからも、彼女の方が正しいことを言っているというのは一目瞭然だったことでしょう。
三人の男の人を、怒りや憎悪といった表情で捉えていました。
不利だ、と判断したのでしょうか?
「く、くそぉっ!」
三人の男の人たちは、
――姿をくらましました。
その場から一瞬にして消えてしまったのです。
恐らくスキルです。
「逃げられた!? お、追わないと……!」
私はすぐさまあの三人の行方を突き止めようとしたのですが、ライザに止められました。
「セツ、賠償するのが先です」
と。
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