第121話(第三章第37話) 偽装者が起こした事件5
~~~~ マーチ視点 ~~~~
それはクロを「ブクブクの街」の広場に連れていってしばらくしてからのことだった。
クロを見た途端、多くのプレイヤーたちがクロに罵声を浴びせ始めたのだけれど、ライザが、
――「クロが売ってしまった装備は特殊効果が正常に発動されない状態になってしまっていました! それはクロの不手際ですので、これから賠償をさせていただきたいと思います! クロから買った装備を持ってきてください! それを12,288,000Gで買い取るという形を取らせていただきます!」――
と告げたことで一時的に静まらせた。
……まあ、金額が金額だったから、クロの被害者たちだけじゃなくてこの騒動を野次馬しにきてた周りの人たちにまで興奮が伝染していたけれど。
それから、真っ先に動いたプレイヤーの一人がクロに装備を渡して1,200万Gを受け取ったのを確認して他の人たちに知らせたことで、クロの周りに人が殺到。
クロがもみくちゃにされるのをボクとお姉さんで回避していた。
クロの被害者たちに列をつくるようにお願いして回って。
(ライザにはクロの近くで「判定する」という重役があったから、ずっとクロの近くにいた)
二、三十人ほどに賠償が行われた、そんな時だった。
ボクの目の前にそいつらは現れたんだ。
長髪垂れ目の狩人。
シルバーアクセサリーをじゃらじゃら着けたウルフカットのチャラ男盾使い。
ツーブロック眼鏡のいかつい聖職者。
「……キサラギ……ジュン……オーガスト……っ!」
――あの時、第一層のボス戦でボクを『生贄』にした弥生と一緒にいた三人……ッ!
ど、どうしてここに……!?
わからない。
ボス部屋に放り込まれて、閉じていくゲートを見させられて、これから死ぬんだって感じさせられた時の恐怖が蘇ってくる。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
浅い呼吸を短い間隔で繰り返し始めたボクにお姉さんが気づいて駆け寄ってきた。
「どうしたの、マーチちゃん!?」
ボクは胸を押さえながら。
反対の手の指で差すことしかできなくて。
それでも。
お姉さんはわかってくれた。
「っ、あれって……っ!」
ボクたちの横を通り過ぎようとするあいつら。
その前にお姉さんは移動して進行を止めた。
「……なんでここにいるんですか?」
お姉さんが抱いた嫌悪感を隠すことなく奴らを問い詰めた。
奴らから返ってきた言葉は……
「なんで、って……。偽物をつかまされた賠償をしてもらうために決まっているだろう? おかしなことを言う子だね」
「そうそう! それで、時間ねぇから先に対応してもらえねぇかなぁ、って!」
「我々は忙しいのだ。考慮してもらえないと困るのだがね?」
だった。
……嘘でしょ?
ボクには目もくれてなかった。
あり得るの? そんなこと……っ。
あんなことをしておいて……。
こいつらは、
――ボクのことを憶えていなかった。
どうやら記憶として残るのはやられた側だけで、やった側はそうでもないらしい。
これは、罪悪感がなかったことの表れだ。
ボクの口から乾いた笑い声が漏れる。
こいつらが憶えていないのならもうどうでもいいと思った。
二度と関わり合いたくもなかったから。
けれど。
そう思ってない人がいて……。
「……謝って」
それはひどく底冷えするような声だった。
一瞬、誰の声かわからなくなった。
でも、それは、よく知っている人の声。
お姉さんの声だった。
お姉さんは怒っていた。
これほどまでに怒っているお姉さんを、ボクは見たことがなかった。
……ううん、一度だけあった。
前に、ライザに騙されて「リスセフ遺跡」の最上階に置き去りにされて、そこから死に物狂いでダンジョンを抜け出したあとのこと。
ライザを見つけ出して、ライザを問い詰めていた時のお姉さんがこんな感じだった。
お姉さんは普段怒らない。
だから、なのかな?
……怒ると怖い。
大の大人の男が三人、揃いも揃って怯えていた。
「この子に謝って」
「な、何をわけのわからないことを……! 因縁をつけてるのか!? ふ、不愉快だ! き、君はクロの関係者なのだろう!? ひ、被害者にそんな態度を取って許されるのか!?」
「そ、そうそう! 俺たちはそんなガキのことなんて知らねぇ! そ、それなのに俺たちを悪者みたいに……! せ、誠意を見せろ!」
「そ、そうだ! わ、我々の順番を繰り上げろ! そ、それが誠意というものだ!」
「謝って」
「「「ひぃっ!?」」」
……お姉さん。
ボクのために怒ってくれるのはちょっと、ううん、すっごく嬉しいけど、これはちょっとまずい気がする。
今はクロの問題を解決している最中なの。
大勢がいるこの場で新たな事件を発生させるのは得策とは言えない。
お姉さんとクロは似てるから、変な噂を立てられて、クロの起こした問題までお姉さんが起こしたとすり替えられ兼ねない。
ボクはお姉さんが不利益をこうむるのは看過できない。
お姉さんが恨まれてPKされる、なんてことは間違っても起こしちゃいけない。
お姉さんはそうそうやられはしないだろうけど、『
だからボクは、お姉さんを止めようとした。
ただ、ボクよりも先にお姉さんを止めた人物がいて。
「この子は――」
「セツ、仕事してください。列、乱れてますよ?」
「っ!? ライザ、さん……っ」
それはライザだった。
クロの隣にいるはずの。
ボクは慌てた。
「ライザ!? どうしてこっちに来てるの!? ライザには大事な仕事が――」
「うるせぇんで来ちまいましたよ」
「う、うるさいから、って……っ」
ライザの役割は重要なの。
彼女は、クロに騙された! という人たちが持ってきた装備が本当にクロの元で買ったものかどうかを確かめるという役目を負っていたのだから。
早く戻ってもらわないと! と思ったのだけれど、例の三人が嫌な行動に出てくる。
「なあ、あんた。あっちでクロの手伝いしてた奴だろ? 俺たちのを先に見てくれよ!」
「そうだな! こっちに来ているのならちょうどいい! ここでさっさと換金してくれ!」
「時間がないのだ! 拒むだけ時間の無駄だろう!?」
ライザが引き止められた……。
まずい……! そう思ったけれど、ライザは、
――にまぁっ、と怪しく笑っていた。
それから言ったの。
「じゃあ、とっととやっちまいましょうか。あっ、そうそう……
――クロに詐欺の片棒を担がせた感想はどうですか?」
って。
……え?
何言ってるの、ライザ?
ライザの言っていることがこの時のボクにはわからなかった。
けれど、すぐに判明することになる。
「は、はははは、はあ!? お前、何わけのわからないこと言って――!?」
「そそそそ、そうだ! 意味わかんねぇぞ!」
「あ、ああ……! 要領得んな……っ!」
ライザが何かを言ったあと、三人はあからさまに動揺していた。
ライザの追撃はやまない。
「知ってますか? 『謎の』アイテムの説明も赤い字で書かれるんですよ。まあ、知ってるわけねぇですよね?
ライザが話しながら奴らに近づいてその一人に手で触れた。
その手と触れられたロン毛狩人が輝きだしたと思ったら、みるみる形を変えていって。
――瞬く間に気障な印象の優男は消え、小汚い感じの小太りの男が姿を現したの。
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