第120話(第三章第36話) 偽装者が起こした事件4
~~~~ マーチ視点 ~~~~
何か、妙な感じがしたの。
ボクの知らないところで大変なことが起きているような、そんな予感が。
こういうのを虫の知らせって言うんだっけ?
兎に角、ボクはじっとしていられなくなったの。
ご飯を食べたあと、看護師さんに許可をもらって『ギフテッド・オンライン』の世界に行けることになった。
ヘルギアを装着して起動させると、空に浮かぶ島の街が現れた。
第五層「フワフワの街」。
ボクはそこに一人でいた。
確か、お姉さんは第二層のエリアボスを倒すサポートをしに行ってるはず。
ライザが迷惑をかけてしまったパーティのサポートに。
本来ならライザが行かなくちゃいけなかったんだけど、大事な用事があるとかで。
……もしかしてあの妙な感覚は、お姉さんに何かあったって知らせていたってこと?
ボクは急いでお姉さんの元に向かおうとしたの。
けどその時、パーティメンバー専用のグループチャットにメッセージが送られてきていることに気づいた。
見てみると、ライザから「道具屋に来て」とだけ。
……意味不明なの。
もう少し具体的に書けなかったの? なんて思ったけど、これが送られてきたのは今さっきだから普段この時間にゲームをしていないボクに宛てたメッセージではない可能性が高いことに思い至った。
ってことは、お姉さんに伝わればいいって感じだったのかな?
そう考察してライザの居場所を調べると、第三層の街とあった。
ボクは気になったので向かってみることにした。
お姉さんもそこに向かっている、そんな気がしたから。
『踏破者の証』を使って第三層を訪れると、なんか様子がおかしかった。
多くのプレイヤーがいて、そのほとんどが殺気立っていた。
なんなの? この状況?
少しでも現状を把握したくてプレイヤーたちの言葉に耳を傾けてみると、
「マジでいねぇ! どこに行きやがったんだ、あの似非鍛冶師!」
「クソ鍛冶師が……! 許さねぇ! 絶対見つけ出して晒し者にしてやる!」
「ゴミを売りつけるゴミ鍛冶師に聖なる裁きをっ!」
鍛冶師、鍛冶師、鍛冶師、鍛冶師……。
鍛冶師を悪く言う声で溢れていた。
これは……。
なんとなくだけど、この街で何が起きているのかがわかった。
そして、この騒動にライザは関わってしまったのだと思う。
来て、と指定されたのが、この街の、しかも利用者がまったくと言っていいほどいない道具屋だったから。
ボクは目的地へと移動を始めた。
なんの騒ぎ? と思っていそうな外野を装いながら。
道具屋に入るとがらんとしていて。
でも、人がいる気配はあったから店内を確認して回っていると、商品棚の後ろに隠れているお姉さんとライザ、それにクロさんの姿を発見した。
「何をしてるの? お姉さん、ライザ……」
「ま、マーチちゃん!? どうしてここに……!?」
「
お姉さんとライザは、クロさんを隠すように壁をつくっていた。
二人とも、お願い、こっちに来ないで……っ! と祈るように目を瞑って震えていて、壁というには脆弱に感じられたけど。
ボクが声をかけると、二人は目を見開いて瞬きを繰り返してた。
その表情は、ボクがこんな時間にログインしているなんて思ってもみなかった、って語っていた。
「虫の知らせを受けて。お姉さんに何かあったんじゃ――って気になっていてもたってもいられなくなったからまた
この説明で、お姉さんとライザはボクがここにいる理由に納得してくれた。
二、三秒の間、驚いている顔を合わせていたけれど。
同じタイミングでボクから視線が外されて、同じタイミングでまたボクの方を見てきたのは、ぎくしゃくしてるけれど本当は仲が良いのでは? なんてちょっと思った。
ボクがそんなことを思っていると、お姉さんが言ってきた。
「そ、そうだ、マーチちゃん! 協力してくれないかな!?」
お姉さんからのお願い。
たぶん、というか絶対、外の騒ぎと関係してると思う。
でも一応、聞いておかなくちゃ。
「ちょっと待ってほしいの。どういう状況なのか説明して?」
ボクはクロさんを視界に収めながら、お姉さんたちに現状の説明を求めた。
……………………
端的に言うと、話はこうだった。
――クロが
……なるほど。
外にいるのは、その偽物の装備を300万で買ってしまった人たちだったの。
だから、鍛冶師を見つけ出せ! って騒ぎになってたんだ。
それにしても、この鍛冶師は大概だと思うの。
ライザによると、お金を持ち逃げされて、連絡も取れなくなって、挙句の果てに責任を全て押しつけられて捨てられたとのことだけど、まだ仲間だった三人のことを信じていた。
ううん、何か理由があったんだ、と思わないとやっていけなかったのかもしれない。
それくらい、ひどい扱いをされていたから。
……ただ。
「……ロリは嘘つかない……だって、ロリは嘘つかないんだから……」
クロがその人たちを信じようとする理由がこれだったのは流石に引いた。
嘘をつくかどうかということと体型は関係ないはずなのに、ひどい理論なの……。
……もう敬称は使えそうにない。
というわけで、お姉さんからのお願いに繋がる。
お姉さんとクロは見た目が似てしまっているから、クロがつらい目に遭うのは見ていられないのかも。
お姉さんに悲しんでほしくないから、ボクは考えた。
偽物の装備を買っちゃった人たちとの問題を解決するには支払われたお金を返すのが最善手。
あとあと拗れなくて済むはずだから。
ただ、クロは今お金を持っていない。
三人組に持ち逃げされているから。
そうすると……。
ボクはクロに確認した。
「クロ」
「……何?」
反応があった。
続ける。
「『全地形ダメージ無効及び全地形による悪影響無視』の特殊効果がついた装備、持ってたでしょ? それをボクに売って
――1,228,800,000Gで」
「……え? ……は!?」
タダでお金を渡せるほど、ボクはお人好しじゃない。
前にライザが「視た」時、その特殊効果が本当に付与された防具をクロは持ってるって言っていた。
それには価値があると思う。
現段階ではクロにしかつくれない代物のはずなの。
だから、それを譲ってもらう。
ボクの言った意見に、クロは口を開けたまま硬直してしまっていたけれど、ライザはボクの考えていることをお見通しだったみたい。
「……そいつはいい案ですね。クロにはそのお金で賠償をさせましょう。お金を返すって大々的に宣伝すれば釣れるかもしれません。
――金をほしがってるであろう偽装者どもを」
そう言って悪い顔をするライザ。
ボクはそこまで考えてはいなかったのだけど……。
ほんと、ライザって悪知恵が働くと思う。
お姉さんにジト目で見られていたけど、ライザは気づいてなかったの。
とはいえ、ライザの言う通りになるかもしれない。
ボクはクロから装備を買ったり、閃いた案をお姉さんに説明したりして。
ボクたち四人は道具屋を出たの。
このあと、ボクは知ることになる。
――この騒動は、ボクにも無関係ではなかったということを。
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