第118話(第三章第34話) 偽装者が起こした事件2
~~~~ クロ視点 ~~~~
二、三歩後退りして、空気がある場所まで戻る。
尻もちを搗いて、私は呆然としていた。
どれくらいそうしてたのか……。
一分も経ってなかったかもしれないし、一時間以上そうしていたかもしれない。
時間の感覚がめちゃくちゃになっていた。
そんな私に話し掛けてくる奴がいた。
「どうでした? 装備の効果はちゃんと発揮されましたか?」
「……変態覗き魔」
「……それ、やめてくれねぇですかね?」
後ろから声がして振り向くと、そこにいたのは厄介なパーティの変態覗き魔。
なんでここがわかったのか……。
ここは鍛冶屋の裏口からまっすぐ進んでいったところだ。
正規の出入口じゃない。
だから、滅多なことがない限り人なんて来ないのに……。
だというのに、来たのがよりにもよってこいつだったというのがなおのこと不愉快だった。
「……何しに来た? あんなのを売ったクロを、笑いに来たのか?」
きっとこいつは、私のことをバカにしに来たのだ。
仲間にならなかった腹いせ。
そんなとこだろう。
自嘲する。
どういうわけか、スキルが正常に働かなかった。
たぶん、「運営」の想定することを超えてしまったんだ。
だから、制限が掛けられた。
そうに違いない。
断じて、あの子たちが悪いなんてことはない。
私はそう結論付けたというのに。
目の前のこいつは言うんだ。
「何言ってんですか?
悪いのはあのガキどもなんで」
って……!
「お前……っ!」
こいつ……っ!
どうしてもマナたちを悪者にしたいらしい。
そこまで私が仲間にならなかったことが気に入らないのか!?
最低だ。
こんな奴がいるパーティに入らなくてよかった、ってその部分だけは清々する。
「……負け惜しみ! 負け犬の遠吠え! 小者! あんな天使みたいな子たちを悪く言うなんて最低! よく知りもしないで! 気分悪い!」
でも、マナたちのことを犯人みたいに扱ったのは別。
その怒りはなくならなくて、私は思ってることをぶちまけた。
そうすれば幾分か気分は楽になるはず――そう思ってた。
けど、こいつには効いていなかった。
それどころか――
「いやー。悪ぃんですけど、
――なーの言う変態覗き魔なんで」
「っ!?」
こんなことを言ってきたんだ。
こいつが何を言いたいのかを、私は理解した。
理解、できてしまった。
こいつは私のスキルを覗き見ていた。
そういうスキルを持ってるんだ。
それは、つまり――
「――まさか、あの子たちのスキルも覗き見てた……!?」
その可能性が高いということ。
私は受け容れがたい事実に直面していた。
わなわなと震えていると、変態が言ってくる。
「ええ、覗いてます。スキルはわかりませんでしたが。隠蔽してやがるんでしょう。わーもさっき気づいたんですが、ステータスを見る時って緑の
こいつは言った。
スキルは見てない、って。
それは確証がない、ってこと。
私はこの言葉に縋った。
「それ、決めつけ! まだ、断言できない! 売り上げ、マナ、持ってる、けど……! 今、連絡、取れない、けど……っ! あの天使みたいな子たちが、私を裏切るわけないっ!」
信じたくなかった。
あの天使みたいな子たちが私を嵌めようとしてるなんて。
だから、私の口調は荒くなっていた。
それに、余計なことまで口走ってしまった気がする……。
「隠蔽系のスキル持ってる時点でだいぶ怪しい気がするんですが……。っつーか、この状況で連絡とれねぇとか……。金も持ち逃げされてやがるでしょう、それ……」
「っ! 違う! 違う、違う、違う、違う! あの子たちはそんなことしないっ!」
痛いところを突かれる。
私は頭を振った。
認めたくなくて。
……まるで駄々っ子だ。
「……裏切られたくねぇって気持ちはわかりますが、もう少し声のトーンを抑えねぇと――」
「そんなことない! 絶対に違う!」
「おい、いたぞ! 詐欺師だ!」
「ああっ! もう! 言わんこっちゃねぇじゃねぇですか! ほら、行きますよ!?」
そこの変態が忠告するのも聞かず……。
私は、たぶん私がつくった紛い物の装備を買ったであろうお客の一人に見つかってしまった。
私が騒ぎ立てたから。
お客の一人が他のお客に知らせようとするなか、変態が私に手を差し出してきて。
私が戸惑っていると、変態は私の手を無理やり掴んで走り出した。
そのあと、私は変態と一緒に隠れることになった。
そこに送られてきた。
私を地獄に突き落とすメッセージが。
――「マナ様、メグ様、サチ様より、パーティ解消の要請が送られてきました」――
そんな、そんなことって……っ。
私は言葉を失って、崩れ落ちた。
~~~~ セツ視点 ~~~~
いったい、何があったというのでしょう?
光の門をくぐって目に飛び込んできた光景に、私は戸惑いました。
「門の前に人を配置してるから出られないはずだ! なんとしてでも探し出せ!」
「絶対に見つけ出すぞ! 似非鍛冶師を許すな!」
「俺たちの金を取り戻せ!」
多くのプレイヤーさんたちが険しい顔をして忙しなく動き回っている光景……。
物騒な雰囲気が漂っていました。
この街は、私が見た中で一番神秘的な街だったのですが……。
「……何があったのでしょうか?」
「……さー?」
「……こ、怖い……っ」
ススキさんたちもこの状況に、どうすればいいのかわからない、といった様子になってしまっていて。
私は近くにいた方に聞いてみることにしました。
「あ、あの、どうされたんですか?」
「ああ!? どうされたも、何も……って、薬師の嬢ちゃん!? えっ!? は!? どうやって第三層に……!? あっ、そうか、『キャリー』か!」
私を見て驚いた表情を見せるその方。
私も驚きました。
この方、第一層であゆみちゃんの情報を教えてくれた方だったのです。
「その節はいろいろと教えていただいてありがとうございました。その、またお尋ねしてもいいですか?」
「あ、ああ、もちろん」
「今のこの状況はいったい……?」
「ああ、これね。実は――」
私はまたこの方から貴重な情報をいただきました。
その内容は驚きのものでした。
この街の鍛冶屋でバイトをしているプレイヤーが詐欺を働いた、と聞かされたのですから。
この街の鍛冶屋で働いていると言ったら、そのプレイヤーとはクロさんということに?
俄かには信じられませんでした。
ですが、状況はこの方の言っていることが真実であることを物語っています。
この方もその詐欺の被害に遭われて相当お怒りの様子だったのですが、この広場には他にも鬼のような形相で、鍛冶師はどこだ!? と探し回っている方たちで溢れ返っていましたから。
これが、彼らによるクロさんを貶めるための計画だとは思えません。
私はお礼を言ってその方と別れ、もう少し情報を精査した方がいいかもしれない、と考えていた時、目の前に「message」の文字が!
それを読んだ私は、ススキさんたちに断りを入れてから一人である場所へと向かいました。
――道具屋さんの店内へ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます