第116話(第三章第32話) 応援要請2

「……マジヤバくない?」

「……ええ、明らかに楽です。サクラがいないというのに……」

「う、後ろから、敵、が、攻めてこない、から、かな?」


 四メートル以上離れた前方にいるススキさんたちがひそひそと会話をしていました。

 ここ、「リスセフ遺跡」って、洞窟みたいに壁と天井があるので声がよく響きます。

 ススキさんたちが振り返ってちらっと私のことを見てきたので笑顔で返すと、彼女たちは急いで正面に向き直りました。


「あ、あと少しで、安全地帯セーフティエリア、だよね? 入ってから、二時間もかかってない、のに……」

「……最短記録更新ですね。サクラがいても二時間三十四分が限界でしたから。平均にすると三時間は超えています」

「ってゆーかさ? セッちゃん、たまに消える時あるよね? 一瞬で戻ってくるけど……。その時に物音とモンスターの悲鳴が聞こえてくるんだけど、まさかセッちゃんが倒してるってことないよね? セッちゃん、薬師だし……」

「薬師は弱い、と情報サイトに載っていましたからね。モンスターを倒せるとは思えませんが……。ただ、『寒熱対策のローブ』を着ていなくて、このエリアの街の外に出られたことを考えると、否定しづらい部分があります……」

「セツさんは特別、って、こと? ……あっ、安全地帯に着いた……」


 ……なんででしょう?

 すごく戸惑われているんですけど……。


 彼女たちの経験値を分けてもらうのは申し訳なかったので、私は彼女たちの四メートル以上後ろを歩いて行っていたんです。

 私が一番後ろにいるわけですから、背後から攻めてくるリスセフの対処は私がするべきだと思って倒していました。

 そうしたら、彼女たちだけで攻略していた時よりも早くプディンの巣の前の安全地帯についてしまったそうです。

 そのことが彼女たちは納得できなかった、とか?



 兎も角、緑プディン戦です。

 私はここでススキさんたちの戦い方を見せてもらうことになりました。

 今までは狭い空間で、しかもリスセフは一体ずつしか現れていませんでしたから、彼女たちの連携を見ることがなかったので。

 それに、緑プディンたちとの戦いを見て、サポートの仕方をどのようにするのかを決めてほしい、とのことです。


 ススキさんたちと一緒にプディンの巣へ。

 彼女たちの戦法ですが、ちょっと、あれ? という感じでした。

 全員前衛なのです。

 回復職であるはずのパインくんでさえ。

 私はマーチちゃんに、パーティには役割があって前衛で敵を直接攻撃する役と盾で相手の攻撃を防ぐ役、後衛で援護射撃をする役と味方を回復する役に分けるとバランスがいい、って教えてもらっていましたから、これにはとても驚かされました。


 ただ、パインくんが前に出ているのには理由がありました。

 彼、彼の持っているスキルのおかげで盾職でもあったのです。

 そのスキルが『堅牢優美の障壁』。

 ススキさんが緑プディンに囲まれてしまった時に、透明な正六角形を隙間なく並べたハニカム構造の壁を展開させて守っていました。


 緑プディンが攻撃できずに戸惑っている間に、天井で待機していたキリさんが静かに、けれど勢いよく降りてきて、緑プディンの虚を突きます。

(キリさんが天井にとどまっていられたのはスキルを使っていたからだと思われます)

 そして、何が起こったのかわからない! といった感じで取り乱したプディンたちをススキさんが槍で攻撃していく、というスタイルでした。


 それを繰り返して、ススキさんたちは緑プディン戦に勝利を収めました。

 これが連携なのですね……!

 私は連携の「れ」の字も取れないので、思わず感嘆の声を漏らしていました。


「おお……!」

「どうでしたか、セツさん? 何か気づいたことがあればアドバイスをいただきたいのですが……」

「すごいですね! 息がぴったりって感じで!」


 ススキさんが私に、自分たちの戦い方はどうだったか、と聞いてきました。

 私は彼女たちのチームワークはとてもいいように見えたので率直な感想を述べました。

 しかし、ススキさんたちの表情は曇ってしまいます。


「はい。連携には自信があるんです。ですが……」

「エリアボスに勝てないんだよねー。どーやってもさー」

「は、はい……。ボクたち、何回もい、挑んでるんですけど、麻痺に、されて、一方的にやられて……。何度も、『帰還の羽』で逃げ帰ってるんです……」

「ああー……」


 何回も挑戦しているけど彼女たちの連携はエリアボスに崩されている、とのこと。


 ……覚えています。

 麻痺にされて一方的に攻撃された、という経験は私もしていたので。

 第二層のエリアボスは、あの翅の生えたリスセフ。

 素早さを上げてきて、麻痺の状態異常をまき散らす難敵です。

 話を聞く限り、ススキさんたちも私と同じで麻痺に対処する術がないようでした。

 とすると、私の役目は――


「わかりました! みなさんが痺れて動けなくなるのを防げばいいんですね? 任せてください!」


 私は自分の役割を理解して、ススキさんたちに笑顔で、お任せあれ! と宣言しました。

 ですが、


「「「……」」」


 三人にものすごく不安そうな顔をされてしまいます。

 ……あれ?

 信用されてない……?



……………………



 数分後。


「あ、あり得ないって、マジで……っ」

「まさか、こんなに簡単に倒せてしまうなんて……!」

「麻痺、封じてたよ……!?」


 ススキさんたちはエリアボスの翅の生えたリスセフに勝利しました。

 私、ここに来る前にちゃんと準備をしてきていたので。


 私は、ライザが連絡を受けてからススキさんたちと合流するまでに四十分ほど時間をもらっていたのです。

 その間に、第一層「リスセフ平原」と第三層「タチシェス海浜公園」に行ってプディンの粘質水と状態回復草を採取していました。

 それで、聖水、状態回復草二つ、プディンの粘質水、緑・赤・青・黄色各魔石二個ずつ使って状態回復薬をいくつか製薬し、『ポーション昇華』を使って状態回復薬L(Lv:4)にしていました。


========


状態回復薬L(Lv:4)……状態異常を一つ治す。

           その後256秒間、治した状態異常にはならない状態にする。


========


 これで相手の麻痺攻撃を封印。

 ススキさんが、相手のバフを無力化できるスキルを持っていたので、翅の生えたリスセフはメインウエポンである麻痺とバフの二つを取り上げられた状態に。

 私が戦った時には使ってこなかったのですが、相手は器用さにデバフを掛けることもできたみたいです。

 ですが、それもススキさんによって無力化されていて。

 翅の生えたリスセフはどうすることもできなくなり、ススキさんとキリさんによって倒されました。


「あ、ありがとうございました! あなたのおかげで第二層のエリアボスを倒すことができました!」

「麻痺にさせられないんなら余裕だったんだねー……。ほんと、あれだけの所為で何十回も敗走させられてたのか、ウチらー。ありがとー、セッちゃん。ほんと、助かったよー」

「あ、ありがとうございます……! 疑っててごめんなさい!」

「いえいえ。私はちょっとサポートしただけなので」


 第二層のエリアボスを倒せたことで、ススキさんたちの私を見る目がいい方に変わったように思います。

 謙遜しましたが、私は嬉しくて頬が緩んでしまっていました。



 これで終われば、この日は気持ちよく終われたのですが……。

 ススキさんたちと光のゲートをくぐって第三層の街に着いた時。

 そこでは、



――事件が起きていました。

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