第115話(第三章第31話) 応援要請1
ライザにかかってきた電話の相手ですが、結論から言いますとクロさんではありませんでした。
ゲーム内で彼女と連絡を取ることができるもう一組が発信者です。
ライザが、恐らく「call」と書かれている画面に触れようとする前に、私たちに相手が誰なのかを教えてくれました。
(「call」の画面は電話をしている本人じゃないと見れないみたいです)
クロさんから掛かってきたのではないか!? とちょっと期待してした部分があった私は、この時どんな顔をしていたのでしょうか?
自分ではわかりません。
「もしもし? ……え? あ、はい。……ええ。そうですが……」
電話に出たライザは相槌を繰り返します。
そして私の方に視線を向けたあと、何かを決意したような表情になって発しました。
「すみません。これからはちょっと都合が悪くて……。大事な用事があるんです。ですから、
――代わりにセツに行ってもらいます」
「……ええ!? ちょっと、ライザさん!?」
ライザが勝手に決めてきたのです。
何も事情を知らされず、何かをしなければいけなくなったことに私は戸惑わされるばかりでした。
また悪いことをしようと企んでいるのか!? と私は彼女のことを訝しみました。
断ろうとしたのですが、ライザに頼み込まれてしまって……。
「お願いします、セツ! 本来ならわーが行くべきでそれは重々承知してるんですが、これからちょっと私情でやらなきゃならねぇことがあって、どうしても行けねぇんです……! あと一時間もしねぇうちに六時になっちまうんで、マーチに行かせるわけにもいかねぇですし……。それに、やることは第二層のエリアボス討伐のサポートなんで、わーよりもセツの方が上手くやれると思います!」
これがもし本当で私が行かなかったなら、彼女たちを困らせることになると考えた私は、ライザのお願いを聞き入れることにしました。
「……はぁ。わかったよ。向こうがいいって言うなら」
「っ! ありがとうございます! ……っつーことですので――」
そんなわけで、私はあの人たちが待っているという第二層「カラカラの街」に行くことになったのです。
……………………
「こうしてお話しするのは初めてですね」
「そうですね。初めての時はライザがやらかしていて、ほとんどマーチちゃんが話してくれていましたし、二回目はライザが忙しなくて、話す暇を与えてくれませんでしたから」
六月八日②の二十三時五十九分。
私は第二層「カラカラの街」の宿屋の受付に行って、ライザが迷惑をかけてしまったあの人たちと合流しました。
まともに話をするのはこれが初めてだったため、私たちは改めて自己紹介をしました。
(前回会った時に名前だけはライザに教えられていたので知っていましたが)
彼女たちは三人並んでいて、最初に私に話し掛けてきてくれた、真ん中にいる方がススキさん。
黒い縁の眼鏡と腰の辺りまで伸びているサラサラの髪が特徴的な方です。
僅かにつり上がった目に宝石のような瞳。
長い睫毛に整った細い眉毛。
鼻梁の通った高めの鼻と少し薄めの唇。
透き通るような白い肌。
すらっとしていて高めの身長。
美人さんです。
どこか儚げで、なんだかすごく大人な雰囲気を感じます。
職業は「槍使い」とのこと。
(装備は『寒熱対策のローブ』)
「そーいやー、セッちゃんと話したのは初めてだね? よろー」
「よろしくお願いします」
次に話し掛けてきてくれたのは、私から見て、ススキさんの右側にいたキリさん。
明るい感じの方です。
ウェーブかかった金色の髪をその身体の左の上部でサイドテールに纏めていて、小麦色の肌をしている彼女。
ネイルは長く、たくさんのラインストーンでキラキラです。
目尻の方にはハートや星といったフェイスシールが貼られていました。
ギャルさんです。
目や眉はススキさんと似ています。
鼻は小さめで、唇はふっくらとしていて厚め。
身長は今の私と同じくらいでした。
忍者のような衣装を着ています(髪と爪の存在感が強いので忍べていない気がしますが……)。
職業は「斥候」だそうです。
「あ、あの……! あの時は、ありがとう、ございました、セツ、さん……! た、助けてもらったのに、こんなこと、まで、頼んで、しまって……っ」
「いえいえ。気にしないでください。私はあなたたちに迷惑をかけたライザのパーティメンバーなので」
最後に、私から見てススキさんの左側で彼女に隠れるようにしていたパインくんが話し掛けてきてくれました。
この子はとても可愛らしい子です。
この子が男の子だと知った時はとても驚かされました。
くりっとした大きな目に長い睫毛。
眉はなだらかに垂れていて。
小ぶりのお鼻とぷるぷるの唇(ここはキリさんに似てるかな?)。
白くて透明感があってきれいな肌。
髪型はキリさんとは反対に右側で纏められているサイドテール。
身長は今の私よりも少し低くて、とても華奢です。
大事に扱わないと折れてしまいそうな、そんな印象を抱かせます。
職業は「聖女」。
(装備は『寒熱対策のローブ』)
なんでもこのゲーム、最初に職業を選ぶ時に極まれに選んだ職業の上位の職業になることがあるそうです。
それでパインくんは「聖職者」を選んだそうなのですが、その極めて低い確率を引き当てて「聖女」になってしまったんだとか。
性別は「男性」なのに……。
(キリさんによると、パインくんは現実でも女の子に見られることが多く、その見た目の所為でAIにさえも勘違いされたのではないか、とのこと)
パインくん……なんというか、苦労してるんですね……。
この人たちがライザに電話することができるのは、ライザが彼女の罪を清算するために連絡先(ゲーム内)を交換していたからです。
ススキさんたちのパーティにはもう一人、リーダーのサクラさんという方がいるのですが、彼女は顔も見たくないほどにライザのことを恨んでいるそうで……。
ススキさんたちがエリアボスをどうしても攻略できなかったため、ライザに相談する、という話になった時、サクラさんは、私はあんな奴の力は借りない! と言ってログアウトしてしまったんだとか……。
サクラさん、謝りに行った時にライザとパーティの私やマーチちゃんにもいい顔をしていなかったんですよね……。
ほんの少しでもいいからお話しができたらいいのですけど……。
もう会いたくない! っていう気持ちになってしまうのは致し方ないことだとは思いますが……。
……うーん、難しいですね……。
私が、ライザに罪を償える機会をつくれるようにするにはどうしたらいいか? と考えていると、ススキさんが言ってきました。
「それではセツさん。第二層のエリアボスの攻略のサポート、よろしくお願いしますね?」
「あっ、はい!」
いけない、いけない!
今はススキさんたちの力になることを考えないと……!
そういえば、他の人の戦い方を見るのって初めてですね。
どんな戦い方をするのでしょう?
ちょっと楽しみです。
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