第114話(第三章第30話) 連絡

 エリアボスが黒くなって霧のように消えていくのを確認していると、がばっと横から抱きつかれました。

 マーチちゃんです。

 少しふらついてしまいましたが、倒れないようにしっかりと支えます。


「お姉さん、ごめんなさい……、助けに行けなくてごめんなさいなの……!」


 悔やんでいるマーチちゃん。

 私やライザが幻惑状態にさせられた時に動けなくて、ずっと隠れていたことに後ろめたさを感じているようです。

 彼女の目には涙が溜まっていて……。


 私は感じました。

 ライザも言っていましたが私も、マーチちゃんは、私やライザが幻影に囚われたなら心配していの一番に駆けつけてくるような子だと認識しています。

 でもあの時、彼女はそうしなかった――。

 自分がエリアボスに狙われたら、私たちの置かれている状況がますます悪くなってしまうと判断して。

 それはとても、とても勇気のいる決断だったのだと思えました。

 だって……。


 私は伝えました。

 マーチちゃんの頭に手をやって。


「謝る必要なんてないよ。だって私たちのこと、信じてくれたんだもん。ありがとう、マーチちゃん」


 マーチちゃんがやったことは、私たちを信じていないとできないことだ――そう感じたから。

 私が笑顔を向けると、彼女の目から雫がこぼれ落ちていきました。



 マーチちゃんの頭を撫でながら、私はライザの方に顔を向けました。

 あそこで彼女が庇ってくれなかったらエリアボスを倒せていなかった気がして。

 感謝の言葉を伝えたかったのです。

 ……ですが。

 彼女を前にすると、どうしてもその言葉を出すのが難しくて。

 たったの五文字の言葉が……。


「……」


 見ていると、彼女が何かを察して言ってきました。


「……ああ。さっきぶつかったあれですか? あのボス、『攻撃バフキャンセル』をやろうとしてやがったんですよ。効果は



――対象が上げてる攻撃バフの完全解除。



セツの攻撃力がなくなったら長期戦は必至でした。準備も不十分だったんで最悪、負けていたかもしれません。そう思ったら一人称わー、身体が勝手に動いて……」

「っ! そう、なんだ……」


 ライザがしてくれたことの意味を知ってなおのこと、私は言葉にしなければいけない! と感じました。

 私の攻撃力が元に戻されていたら、倒せなかったかもしれない……。

 それどころか決着をつけるのに時間をかけすぎてしまって、マーチちゃんのMPを枯渇させるなんてことになってしまっていたら……!

 ライザはその最悪の事態を防いでくれていたのです。

 ですから、言わないと!

 ……そう、思っているのに。


「……行こっか。第五層」


 そんな言葉しか、私の口からは出てきませんでした。



……………………



 第五層は天空エリア。

 空に浮かぶ島にレンガ造りの家が並んでいました。

 街の名前は「フワフワの街」。

 第一層の「スクオスの森」で宝箱をゲットしようとした時のことをちょっと思い出しました。


 少し街を見て回ってみましたが、印象深かったのはやはり物価の高騰です。


 武器屋の装備は一つ2,508,800G。

 第四層にはなかったのに、第五層には必要となる装備がありました。

 それが「フローターシューズ」――156,800G。

 付いている特殊効果が「雲に乗れるようになる」。

 それは『ダメージ無効』や『悪影響無視』という種類の特殊効果でもなく……。

 ……私も買わないと街の外に出してはもらえないみたいです。


 宿代一泊(ゲーム内)7,800G。


 そして道具屋さん。

 道具屋さんは第四層の時点で第一層に売られていた全てのアイテムのレア品質のものが売られるようになっていました。

 価格はどれもコモン品質のものの四倍になっていましたが。

(ちなみに、第三層で新しく買えるようになっていたレア品質の商品は、素早さバフポーション、素早さデバフポーション、悪心薬の三つのみです)

 ですので、ようやくエピック品質の商品が買えるようになるのでは? と思って確認してみたところ……。

 確かにエピック品質のアイテムはありました。

(HP回復ポーション、攻撃バフポーション、攻撃デバフポーション、猛毒薬の四種類)

(値段はコモン品質のものの16倍)

 ですがそれよりも私の視線が持っていかれたのは、新商品が売り出されていたことに、です!


========


・状態回復薬(C)―――――――――600G

・復活薬(C)―――――――――――1,500G

・攻撃デバフ耐性ポーション(C)――700G

・防御デバフ耐性ポーション(C)――700G

・素早さデバフ耐性ポーション(C)―700G

・器用さデバフ耐性ポーション(C)―700G

・猛毒耐性ポーション(C)―――――400G

・麻痺耐性ポーション(C)―――――400G

・幻惑耐性ポーション(C)―――――400G

・悪心耐性ポーション(C)―――――400G


========


 初めて見るアイテムもありました!


 まず状態回復薬。

 これは猛毒、麻痺、幻惑、悪心の状態異常を一つ治せるアイテムです。


 次に復活薬。

 これはHPが「0」になってしまった時に自動で発動してHPを最大値の4%回復するアイテム。

 「使用期限が買ってから四日」というデメリットはありますが、重宝するアイテムだと思います。

(なのになぜ、ここにお客さんがいないのでしょう?)


 そしてデバフ系の耐性ポーション。

 使用すると四分間、使用した種類に応じてそのデバフが掛けられにくくなるというアイテム。

 コモン品質ではどれも4%でレジストできる、と書いてありました。

(使用期限は買ってから四日)


 最後に状態異常系の耐性ポーション。

 これもデバフ系耐性ポーションと同じで四分間、使用した種類に応じてその状態異常になりにくくなるというアイテムでした。

 レジストできる確率もデバフ系のものと同じく4%です。

(使用期限は買ってから四日)


 エピック品質の商品や復活薬は使えそうなのにそれらが求められていないのは、装備を揃えるのにお金がかかるから節約をするために、なのでしょうか?

 それともコモン品質のものの性能があまりにもひどかったから薬品系のアイテムは期待されなくなって、何が売られているのかを調べてすらもらえなくなった、とか?

 ……あるかもしれません。



 私たちはとりあえず、復活薬を人数分だけ買ってお店を出ました(マーチちゃんが買ってくれました)。

 私は遠慮しましたが、もしもの時に役に立つかもしれない、と言われて……。

(私がつくれればよかったのですが、復活薬はつくれるようにはなっていないため)


 それから、第五層のダンジョンに行くかどうかという話になりました。

 そうなると私分の「フローターシューズ」も必要になるわけですが、またしても私の高すぎる攻撃力がネックになり……。

 私がクロさんのことを思い浮かべてしまっていると、ライザが、電話が掛かってきた、と伝えてきました。

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