第110話(第三章第26話) 来客

「ふぐっ、ぐずっ、ぶええええん! クロの、クロの計画がああああっ!」


 わんわんと泣き喚くクロさん。

 マーチちゃんに抱きついたまま……。

 ……ああ、マーチちゃんが迷惑そうな顔をしています。

 私はマーチちゃんからクロさんを離そうとしたのですが、すごい力でしがみつかれていてできませんでした。

(私、あんなにステータスを上げたのに……っ)

(ただ、万が一にもクロさんを倒してしまってはいけませんから全力を出すわけにもいかず……)


 私が困り果てていると、ライザがクロさんに向かって言いました。


「あー、あー! わかりました! とりあえず、一度一人称わーたちに同行してください! 仲間になるかどうかはそのあと考える、ってことで、まずは同行だけ! そうすりゃあ、セツがつまんねぇ奴じゃねぇってわかるってもんですよ。仲間になりてぇ、ってそっちから言いたくなります」

「ぐずっ。……わかった、同行、する。けど、こっちから言うのは、ない」


 まずは一緒に行動するだけ――それで手を打ったライザ。

 クロさんはそれを了承しました。

 条件を出した時、仲間になるって言ったのはクロさんのはずですが……。

 本来なら達成できるはずのない条件だったため、自分が私たちの仲間になることを想定していなかったのかもしれません。


 それにしても……。

 ライザって、案外しっかりしているんですね……。

 ここぞって時には頼りになる感じがします。

 信用は……ならないんですけど。


 反対に、クロさんは意外と子どもっぽかったです。

 見た目は現実の私とそっくりなのですが、性格があの人と似ていたためになんとなく年上なのではないか? って気がしていたのですが……。

 どれだけその……ハーレムというものをつくりたかったのでしょうか?

 泣いて抵抗するほどって……。

 あと、やっぱり私には小さくておっきい子の意味がわかりませんでした。



「じゃあ、今からとかどうですか? 早いに越したことはねぇと思うんですけど……」

「……え? 今から? 無理。もうちょっと、マーチちゃん、抱いてたい。あと百分くらい」

「お、お姉さーん!」

「ああっ!?」


 ライザが早速一緒に行動しようとクロさんを誘いましたが、クロさんはマーチちゃんに抱きついたまま動こうとしませんでした。

 それを嫌がったマーチちゃんが隙をついてクロさんの腕の中から脱け出して、私の元に逃げてきます。

 私がマーチちゃんを背後に庇うと、クロさんは不満そうな顔になりました。


「クロさん、マーチちゃんが嫌がってますから」

「……キミ、やっぱり嫌い」

「ええー……?」


 私、クロさんのことがわかりません……。

 小さい子が好きなのかと思いましたが、大きい子も好きみたいなことも言っていましたし……。

 私とライザに対する当たりがきつい理由も正確にはわかっていません。

 私の装備に特殊効果をつけてもらう際に無理を強いてしまっていましたから、それが原因なのではないか? とは考えていますが……。


 そして今の、嫌い、はたぶん、マーチちゃんを私に奪われた? ことに対するもの、ですよね?

 いえ、マーチちゃんに避けられることをしているのはクロさんだと思うのですが……。


 うーん……。

 どうすればクロさんともう少し普通にお話ができるようになるかな? って考えていると、ライザが決めました。


「予定はねぇみてぇなんで今からやるってことで。二人称なーもセツとわーに付き纏われたくねぇってんならさっさと済ませちまった方がよくねぇですか?」

「うぐ……。一理ある……」


 ライザの言葉で、クロさんは説得されたようでした。

 ものすごく渋々といった様子ではありましたが。

 もしかして、何かにつけて一緒に探索しようとするのを先延ばしにしようとしていた……?

 そんなこと、ありませんよね?



 何はともあれ。

 これから四人で冒険をするためにお店を出ようとした時でした。

 この鍛冶屋さんにお客さんが入ってきたのです。


「こんにちはー」

「武器のことでちょっといいですか?」

「……」


 クロさんにお仕事の予定が入りそうだったため、ライザがクロさんと『フレンド』になって、私たちは一旦お店から出ることにしました。

 『フレンド』になると、ゲーム内で連絡が取れるようになるそうなので、お仕事が終わったら連絡するということで。


 お店を出ようとした時、私の視線は先ほど入ってきた方たちの方へと引っ張られました。

 入ってきていたのは女の子三人。


 一人は、自信に満ち溢れているといった感じの黒髪ロングでストレートの女の子。

 一人は、元気ハツラツといった感じでウェーブかかった金色のミディアムヘアの女の子。

 一人は、大人しくて口数が少なそうな感じの赤いおさげの髪型をした女の子。


 マーチちゃんと同じか少し低いくらいの背だったので小学生、なのでしょうか?

 現実でも友だち同士なのではないかという印象を受けるほどに、親しそうに話していました。

 三人とも、誰が見ても美少女だって思うのではないかというような、きれいな容姿をしていて。

 私は地味な感じですので、彼女たちの方を見てしまったのはちょっと羨ましかったからなのかもしれません。


 というか、このゲームをやってる人、きれいな人多くないですか?

 ライザもそうですし、マーチちゃんだって……。

(マーチちゃんはカワイイ寄りですが)

 ……ちょっと凹みそうになります。


 私がそんな感覚になっていたところ、もっと凹んでる人が近くにいました。


「なんで……、なんで……っ! なんであんなにデケェんですか!? あいつら、小学生でしょう!? 見た目からして! なのに! 小学生らしからぬものをお持ちでいやがります! 最近の小学生はみんな、ああだって言いやがるんですか!? 発育、よすぎじゃねぇですか!? わーだって……、わーにだって、少しくらいくれってんですよ! 不公平でいやがります! こんちくしょうがぁっ!」


 歯を軋ませて、叫びそうになるのを必死に抑えていたライザ。

 彼女の言葉を受けて見てみると、彼女がこうなってしまっていた理由が判明しました。


「……おおう」


 大きかったんです、あの女の子たちの胸が……。

 三人が三人とも。


「おかしいですよね!? ふざけてやがりますよね!? ね、セツ!?」

「ひゃえ!? あ、あの、えっと……」

「一番ふざけてやがるのはクロですが! あいつが一番デケェんで!」

「……」


 ライザに、私があの子たちの胸を見ていたことに気づかれて同意を求められました。

 私は返答に困ってしどろもどろになってしまいました。

 だって――



――彼女の言う、その一番ふざけてる人が現実の私の容姿そのものなのですから。



 なんで私に振るんですか?

 『私』の姿はクロさんと似てるって前に言ったのに……っ。


 私はライザを刺激しないよう努めながら、お店から出るように促しました。


 扉を閉めようとして振り返った瞬間でした。

 視界に捉えた光景に僅かな胸騒ぎを覚えたのは。



――興奮を宿した目で少女たちを見つめるクロさん、という光景に。

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