第108話(第三章第24話) 条件3

「『アナライズ』が『パワーアップ』したことで『検索』が可能になったんです。それで調べてみたら――」


 『パワーアップの秘玉』を使用したことで、ライザの『アナライズ』は『アナライズ+』に。

 対象を「視て」いなくても情報を得られるようになっていました。

 それで調べることが可能になった「タチシェスダイヤ」の真実、それは――


「『タチシェスダイヤ』は『タチシェスパール』の二段階上の品質のアイテムで、



――今、解放されてる第六層までに入手手段がありやがりませんでした」



「……え」


 というものでした。


 ……どういうこと?

 ゲットできないアイテム?

 ライザの言い方からすると存在しないアイテムって感じじゃなさそうだけど……。

 第七層より先のエリアで手に入れられるってこと?

 行けないエリアの情報を、どうしてクロさんは知っているんですか?

 私の頭の中に疑問が次々と湧いてきます。

 私は混乱していました。


 私はおたおたすることしかできなくなっていましたが、その時にマーチちゃんが口を開きます。


「……やっぱり。そんなとこだろうと思ったの」

「……マーチちゃん?」


 マーチちゃんはクロさんの考えが読めているようでした。

 私が説明をしてほしそうな顔を向けていたからでしょう。

 マーチちゃんは答えに導いてくれました。


「お姉さん、あの人が持ってるスキルのこと、憶えてる? お姉さんの装備に特殊効果を付与する時に使ってたスキル」

「えっと、『名匠たる所以』、だっけ? 使う素材がレアであるほどすごい特殊効果を装備に自由につけられるっていう……。そのスキルを有効に使うために使ってたのが確か……あっ!」

「そう、『数だけ強くなる』。四つの同じアイテムを合成して一段階上の品質のアイテムをゲットできるっていうスキル。クロさんは恐らく、



――スキルのおかげで、二段階上の品質のアイテムのことを知ってたの」



 マーチちゃんにヒントをもらったことで謎が解けていきます。

 しかし、ここでまた新たな疑問が生まれました。

 それは、答えを知ることが躊躇われる疑問で――。


「そっか……。だから、まだゲットできないアイテムのことを知って……って、待って!? クロさん、それを持ってきてって言ってたよね!? それって、もしかして、



――絶対に達成できない条件を出されたってことなんじゃ……!?」



 自分で言っていて、理解したくありませんでした。

 だって、それが意味していることは……。


「……一人称わーたちの、正確に言えばセツとわーの仲間にはなりたくないっつー意思表示でしょうね。まったく……。どんだけわーたちのこと、嫌ってやがるってんですか……」

「……っ」


 ライザに言われてしまいました。

 そのことにはマーチちゃんも気づいていたようで、渋い表情になっていて。

 ライザに言葉にされて、マーチちゃんの様子を見て、私は認めることを余儀なくされます。

 クロさんが私たちの仲間になりたくないと思っているという事実、を。


「……嫌って言ってるのに、無理やり仲間になってもらうのは間違ってる、よね……」


 私は、みんなが楽しめないのなら意味がない、って思って、クロさんを勧誘するのはもうやめた方がいいのではないか? と考え始めていました。

 重たい空気が辺りに漂います。

 この話を早く終わらせたくて、私は決断しようとしました。

 もうクロさんを誘わない、と。

 ですがその前に、異を唱えた人がいて――


「……いいえ。何がなんでも認めさせてやります。嫌だろうがなんだろうが関係ねぇってんですよ」


 それは、ライザ。

 彼女の言葉はむちゃくちゃで。

 私は慌てて彼女を制しました。


「ダメだよ、ライザさん! 変なことしちゃ……! クロさんが仲間になりたくないって言ってるなら仕方ないでしょ!?」


 それでも、彼女は止まりませんでした。


「……むしゃくしゃしやがるんですよ。少し前までのわーを見てるみてぇで。何も知らねぇで勝手なことばっか言って……。気に入らねぇ……! わからせてやる、あいつに!



――セツはすげぇんだってことを!」



「ライザ、さん……」


 もしかして……。

 ライザ、私のために怒ってくれていたりします……?

 あんなに冷たく接していたから、彼女が私のことを庇うなんてことはないって思っていたのですけど……。


 ライザの心情を推し測れなくて戸惑っていた私に、マーチちゃんも言ってきました。


「ボクもライザに賛成なの」

「マーチちゃん?」

「あの人のボクを見る目は歪な気がする。きっと『ボクをくれ』ってまた言ってくるの、あれ。だから、証明しなきゃなの。ボクたちは入手不可能なはずのアイテムも手に入れられるすごいパーティなんだ、って! そうすれば、『ボクをくれ』なんてもう言ってこないと思うの」


 マーチちゃんも諦めていませんでした。

 それは、クロさんを仲間にすることを、ではなく、私たちのパーティが舐められたままでは終われないという部分で。


 確かに私にも、クロさんの言い方には思うところがありました。

 クロさんのあの様子からして、「タチシェスダイヤ」を彼女の元に持っていけなかったら、マーチちゃんをくれ、って言ってきそうだというのは私も同感です。

 自分といた方がマーチちゃんは楽しい、と決めつけていたクロさん。

 楽しいかどうか、それを決めるのはマーチちゃん自身のはずなのに。

 あの人にはマーチちゃんを任せられない、と私は強く思いました。


「……そうだね。『タチシェスダイヤ』を持っていってクロさんに証明しよう!」


 ライザとマーチちゃんが言ってくれたから。

 私の、私たちパーティの意思は固まりました。



 ですが……。


「……することは決まったけど、どうやってゲットすればいいんだろう……?」


 大きな問題は残っていました。

 現状では入手不可能なアイテムをゲットする方法を見つけなければいけないのです。

 その方法が私には見当もつきませんでした。

 頭を悩ませる私にライザが提案しました。

 その前にマーチちゃんも何か言おうとしていたようですが……。


「それなら――」

「わーに任せてください! 普通の方法じゃ無理ですが、スキルでなら入手可能です! 実際にあいつもスキルで得ていたわけですから! わーがゲットできそうなスキルを持ってる奴を見つけ出してやりますよ!」


 マーチちゃんが、それでもいい、と言ったため、私たちはライザの案で「タチシェスダイヤ」をゲットできそうなスキルを持っている人を探すことにしました。



……………………



「なんでいやがらねぇんですか!?」


 三、四時間後(ゲーム内)。

 マーチちゃんがゲームをやめなければいけない時間に迫ったころ。

 ライザの悲痛な叫びがこだましました。


 あれから、すれ違うプレイヤー、すれ違うプレイヤーに『アナライズ』を使用していたライザ。

(調べるスキルのことがわかっていないと『検索』はできないため)

 ですが、私たちが求める効果のスキルを持ったプレイヤーさんとは会うことができず……。

 キリさん、ススキさん、パインくん(ライザが迷惑をかけたパーティの方たち)のものも見せてもらったのですが、該当せず……。

 ライザが項垂れます。

 私も少し落ち込んでいました。

 いい方法だと思っていたのに、結果が芳しくなかったので……。


 肩を落としていた私たち。

 その時、マーチちゃんに言われました。


「……ねぇ?



――クロさんに現物を見せてもらって、それをボクが増やすって選択肢はなかったの?



ライザがやる気満々だったから任せたのだけど……」


 ……あっ。

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