第107話(第三章第23話) 条件2
――「マーチちゃんをくれ」――
とんでもない言葉がクロさんの口から出されました。
私は当然、そんなこと受け容れられなかったので、クロさんに仲間になってもらうことは諦めようとしたのですが……。
「え、えっと、それはできませ――」
「この二人を離すなんてそんなことできるわけねぇでしょう? 何言ってんですか、あんた。二人の楽しみを奪う気ですか? 何も知らねぇくせにセツを舐めてんじゃねぇですよ。ぶっ潰しますよ?」
どういうわけかライザが怒り始めたのです。
ライザが悪く言われたわけでもないのに……。
睨み合うライザとクロさん。
その視線の間には火花がバチバチと散っているように見えました。
しばらくそうやって威嚇し合っていた二人ですが、やがてクロさんが、「タチシェスダイヤ」を持ってくることができたら仲間になる、と提案してきて。
ライザがそれを受けて。
鍛冶屋さんを出ていくライザのあとを私とマーチちゃんは追い駆けました。
お店を出て街の広場まで来たところで、私はライザを呼び止めました。
今回、クロさんを仲間に迎えるのは諦めなければいけないと思っていましたがライザが交渉(?)をしてくれたことによって、クロさんからチャンスをもらえることになったのは事実ですから。
感謝は伝えるべきだと思って……。
「あの、ライザ――」
声をかけるのに少し勇気を必要としました。
私とライザの関係はぎくしゃくしてしまっていますから。
覚悟を持って発した言葉ですが、それはライザに遮られます。
「その、怒っちまいましたか? 次の行動を
「……」
ありがとう――ただ、そう伝えたかっただけなのに、タイミングを逃してしまったみたいでその言葉は奥の方へと引っ込んでいってしまいました。
思いを伝えるのってこんなにも難しいことでしたっけ……?
それに、ライザ?
私は、あなたは何も決めてはいけない、なんて言った
なんで怒られると思っているんですか?
私って、そんなに怒りっぽく見えるのでしょうか……。
……見えているのかもしれませんね。
冷たく接していましたし……。
私が、ライザとの接し方を少し改めるべきなのでは? と悩んでいると、マーチちゃんが言いました。
「ライザ、卑屈になりすぎなの。ボクはライザの意見に賛成なの。間違ったことは言ってないのだから堂々とするの」
「マーチ……」
ライザの元に寄っていって彼女の背中を叩くマーチちゃん。
ライザを奮い立たせるように言葉を送ったあと、マーチちゃんは私の方を見てきました。
その目が語っています。
お姉さんはどう思っているの? と。
私は答えました。
「……そうだね。今回はライザさんは間違ってないと思う。マーチちゃんと離ればなれになるなんて嫌に決まってるから、取ってくるように言われたものを探そう、ライザさん」
「セツ……っ」
答えは決まっています。
マーチちゃんと冒険ができなくなるなんて考えたくもありませんから。
私も賛成すると、ライザは怯んでいた心を立て直して。
「……わかりました! ついてきてください!」
私たちは「タチシェスダイヤ」を探すということで纏まりました。
……………………
それからは、私たちはタチシェスがいるダンジョンを巡りました。
第三層にいたので、まず訪れたのは「タチシェス海浜公園」。
ライザのスキル『アナライズ』は、ダンジョンに入ってその景色を「視る」だけでそのダンジョンの構造がわかるスキルでもありました。
それだけではなく、自分や仲間、敵、アイテムや宝箱の位置まで把握できるのだそうです。
地図やコンパス、探知機としても使える能力。
(だからライザの指示通りに動くと敵に見つからずに移動することができたんですね……)
それでいて、「視た」相手の情報を読み取れるのですから、ちょっとズルいスキルですよね。
それ一つで四つ以上のことができるわけですから。
以前、マーチちゃんが「一プレイヤーには過ぎたスキル」と言っていたのがわかった気がします。
こういうのをチートって言うんでしたっけ?
味方でいる分には心強くはありますが。
ライザに『アナライズ』を駆使してもらってタチシェスがいる場所まで移動、遠目から見つからないように情報を取得して「タチシェスダイヤ」を落とさないかチェック、落とさないのなら次の個体へ、ということを繰り返しました。
ライザに逐一確認するも、「パール」は落としても「ダイヤ」は落とさない、と残念そうに首を振るのみで……。
通常のタチシェスでダメなら、と「タチシェス海浜公園」ダンジョン12階にいるボス(貝殻の羽が四枚になっているタチシェス)も確認しに行きましたが「ダイヤ」は持っていませんでした。
(ボスはマーチちゃんを狙ってきたので倒しました)
その後、第二層の「タチシェスサボテンパーク」や、第一層の「タチシェスのいる自然公園」に赴いて、ボスも調べましたが結果は芳しくなく……。
(『帰還の笛』を使っているため、
マーチちゃんの夕食の時間までもうそんなにありませんでしたが、次は第四層「タチシェスの自然保護区」を調べてみよう、と私とマーチちゃんが話していた時、ライザが提案してきました。
「……なんか嫌な予感がしやがるんです。だから、二人に許可をもらいてぇんですがいいですか?
――『アナライズ』に『パワーアップの秘玉』を使う許可を」
そう言ってきたのです。
「わかったの。ボクも思うところがあるから」
それをマーチちゃんが許諾して。
マーチちゃんが受け容れているのなら私は否定できません。
ライザのスキルがパワーアップしたら、もし彼女が裏切った時に手に負えなくなる可能性があります。
ただ、二人がこう言っているのだから、その感覚を信じた方がいいような気もしていて。
私も、使っていい、と言いました。
マーチちゃんが増やした『パワーアップの秘玉』を使ってスキルを強化したライザは、
――硬直しました。
一、二分、固まったままになっていたライザ。
問うと、彼女は震える口を動かして言ったのです。
――「そのアイテム、ゲットできねぇです」
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます