第105話(第三章第21話) お出かけ後・クロを勧誘しよう

「……あの? お姉さん? どうしたの?」

「その、いろいろありまして……」


 翌日。

 ゲームができる時間になってログインすると、マーチちゃんは既にこっちに来ていました。

 私は、もしかしたらヘルギアを返さなければいけなくなっていたかもしれなくて、そうしたらもうマーチちゃんとは会えなくなっていた可能性があったということが頭をよぎると気が気じゃなくなって……。

(ヘルギアはゲームをするためのものであって、ゲームのデータはサーバーにあるそうなので新しくヘルギアを買えばマーチちゃんとはまた会えるとのことですが、この時の私はそうとは知りませんでした)

 気づいたら、私はマーチちゃんに抱きついていました。

 マーチちゃんと会えることが当たり前のように感じていましたが、それは当たり前ではなくて、こうして会えることはもっと特別なことなのかもしれません。

 一緒にいられる時間をもっと大事にしよう、そう思えてきます。



 私とマーチちゃんが今いるのは「タチシェスの自然保護区」ダンジョンの16階。

 マーチちゃんは私がログインしてきたのを確認した時に何かを言いかけていましたが、私が突拍子もないことをしたために遮ってしまっていました。

 戸惑っていたマーチちゃんですが時間が経つにつれて次第に落ち着いてきて、私に言ってきます。


「そうなの……。あっ、さっき言おうとしたことなのだけれど、考えてきた連携を試してみようと思うの」


 マーチちゃん、私と一緒に戦いたいって思ってくれているんですね……!

 私もマーチちゃんといろんなことを協力して楽しくゲームをしたいです!

 その気持ちはすっごくあります!

 あるのですが……。


 私には連携は向いていないのではないか? と思うんですよね……。


 昨日のことなのですが、私が主体で戦っていた時。

 マーチちゃんがわざわざ私のいない方に向けて弾を発射してくれていたというのに、私はそっちの方に移動してしまったのです。

 私の周りにいた敵を全て片付けてしまったから。

 その所為で敵に当たるはずだった魔石の弾はその前に躍り出てしまった私に命中。

 マーチちゃんが敵を倒すのを、私は邪魔をしてしまっていました。

 私は防御力も上げていますから、ダメージは「1」だったのですが……。

 マーチちゃんは、お姉さんを攻撃してしまった! とひどく取り乱してしまって……。

 それがもう、申し訳なくて……。

 マーチちゃんをそんな状態にさせてしまうくらいなら私は一人で戦った方がいいのではないか? そんなふうに思えてなりませんでした。


 それでも。

 マーチちゃんが折角考えてきてくれた戦い方なのです。

 マーチちゃんの思いを、私は無駄になんてできません。


「わかった。どうするの?」


 尋ねると、マーチちゃんは詳しいことを話してくれました。


「そもそも、なの。ボクたちは三人パーティなのだからライザも含めた戦術を組み立てるべきだと思うの。ライザは素早さの数値が高いから、戦闘ではライザにボクを背負ってもらう。安全な場所に運んでもらって攻撃するの」

「なるほど……。確かに危険性は低いかも……」

「もうライザと連絡を取って、こっちに呼んでいるの」


 ライザにマーチちゃんの素早さをカバーしてもらう……。

 それなら確かにマーチちゃんが危険にさらされるリスクは減りそうです。

 ですが、それでは肝心の私に攻撃が当たってしまうかもしれないという問題が解決されていない気がします。

 それに万が一、ライザの反応が遅れたりして敵に囲まれてしまったとしたら、ライザのステータスではマーチちゃんを守れません。

 もう考えていないとは思いますが、また裏切られたらと思うと、ライザのステータスを上げるのは躊躇われて……。


 どうすればいいのでしょうか……?

 考えていると、ふと思い出したことがありました。


「……そうだ! ねえ、マーチちゃん! 考えてきてもらったのに悪いんだけど、連携の話、ちょっと待ってもらってもいいかな!?」

「えっ? ど、どうして……?」

「確か、パーティは四人まで大丈夫なんだよね!?」

「? そうだけど……――えっ、それって……!?」

「一人、誘おうと思ってるの!



――クロさんを!」



 クロさんに仲間になってもらおうと考えていたことを。

 鍛冶師なら戦う術を持っているそうなのでマーチちゃんを守ってもらえますし、マーチちゃんの攻撃が私に当たってしまうこともどうにかできるのではないかと思います!

 確証なんてなくて、ただの勘ですけど……。

 それでも、マーチちゃんの武器をつくったのは彼女なので、ひょっとしたらひょっとするかもしれません!


 私はマーチちゃんに、クロさんの元へ向かおう! と言って『帰還の笛』を使いました。

 一応ライザに連絡を入れると、彼女は既に「タチシェスの自然保護区」ダンジョン12階まで上ってきていたとのこと。

 ……ライザを振り回してしまいました。

 いくら因縁のある相手とはいえ、流石に罪悪感を覚えました……。


 「デカデカの街」でライザが帰還してくるのを待って、無事に合流を果たします。

 その際にライザに指摘されました。


「第四層のエリアボス、倒してから『旗』使って戻ってきた方が効率的だったんじゃねぇですか?」


 と。

 ……あっ。

 考えていませんでした。

 また16階まで行かなければいけないというのは正直手間です。

 ライザの言い分は正しいでしょう。


「……うっかりしてました。第五層に行けるようにしておいた方がよかったかもしれません……」


 自分が仕出かしてしまったミスを反省していると、マーチちゃんがある可能性を提示しました。


「でも、これから新たにもう一人、クロさんをパーティに誘う予定なの。あの人が第四層をクリアしていないことも考えられるから、倒さずに戻ってきたのはそこまで間違った判断じゃないと思う。戦う術を持っているとはいえ、生産職には変わりないもの。もし、あの人が第四層をクリアしていたら、その時はその時なの」


 マーチちゃんが私を励ましてくれています……!

 マーチちゃんの意見を聞いたライザは、「パーティに誘う」という部分に食いつきました。


「そ、そうですか! 増やすんですか、仲間を……ん? クロ? って、まさか! あのロリコン鍛冶師を仲間に誘うつもりなんですか!?」


 その相手が鍛冶師のクロさんであるということに考えが及ぶと、ものすごく嫌な顔をしていましたが。

 苦虫を噛みつぶしたような、そんな顔を。

 ただ、クロさんのすごさはライザも認めていたようで、クロさんに仲間になってほしい、という私の考えを否定することはありませんでした。



 そうして。

 第三層「ブクブクの街」鍛冶屋。


「……お引き取り」


 いきなり関門に突入します。

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