第101話(第三章第17話) マーチに武器を1
「……えっ? お姉さん、これは……?」
「プレゼント。マーチちゃん、戦ってみたいなぁ、って感じだったから」
翌日。
私はクロさんから買ったものをマーチちゃんに渡しました。
クロさんがつくったあのスリングショットです。
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商人のスリングショット……ゴム紐が張ってあるY字型の
弾と一緒にゴム紐を引っ張り手を離すと弾が飛んでいく。
ダメージを与えられる弾は魔石。
鍛冶師・クロ作成の装備(アクセサリー枠)。
・特殊効果1:『商人専用武器』
職業「商人」しか装備することができない。
相性が悪い武器や素手で攻撃した時に発生する
攻撃力の低下が発生しない。
・特殊効果2:『耐久値∞』
壊れない。
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何度見てもすごい性能ですね。
マーチちゃんもこれを見て目をしばたかせていました。
まず、特殊効果1の『商人専用武器』。
これがあるおかげで盗難防止になります。
今のところ、商人はマーチちゃんしか見たことがないので。
クロさんの計らいに感謝ですね。
次に特殊効果2『耐久値∞』。
これは言わずもがな最強の特殊効果だと思います!
壊れる心配がないので心置きなく戦えます!
鍛冶師に頼んで耐久値を回復させるのにもお金がかかりますから、お財布に優しいというのはありがたい限りではないでしょうか!
まあ、その分、お値段は法外だったのですが……。
ちなみにクロさん曰く、装備は完成した時に空きスロットの数がランダムで決まるらしく、大抵の場合は一つになるのだとか。
空きスロットがなくて特殊効果をつけられない装備になることも間々あるそうで、空きスロットが二つも付くのは本当に珍しいとのことです。
(このことも金額に影響したのかもしれません)
(クロさんは、おまけしてやる、と言っていましたが)
「う、嬉しいけど、こんなのいただけないの……! これ、絶対高いヤツなの!」
うっ。
即刻ばれました……。
マーチちゃんはかかったお金を気にするかも、って思っていましたが、その通りでした……。
「そんなことないよ! マーチちゃんのことを思えば大した金額じゃ……!」
「で、いくらだったの?」
「え、えーっと……っ」
「お姉さん? 目が泳いでるの」
「……っ」
マーチちゃんと楽しむため――それが私にとってかけがえのないものであることは確かなので躊躇うことなく買ったのですが……。
マーチちゃんに問い詰められて私は言い淀みました。
金額を言ってしまったら受け取ってもらえないような気がして……。
……こうなったら気持ちで押し通すしかありません!
「だって、だって……! 私、マーチちゃんの役に立ちたかったんだもん……! マーチちゃんの喜ぶ顔が見たかったんだもん……っ!」
「お姉さん……。はぁ、仕方ないの。もらってあげるの、これ」
「ほんとっ!? ありがとう、マーチちゃんっ!」
……ちょっと駄々っ子みたいな感じになってしまいましたが、気持ちは伝わってくれたようです。
マーチちゃんは呆れながらも私に柔らかな笑顔を向け、贈り物を受け取ってくれました。
ちゃんと渡すことができてよかったです。
なんて、安堵していたらライザにこそっと言われました。
「……確かに友情は金じゃ買えねぇかもしれねぇですが、
――321,126,400Gだったじゃねぇですか……」
「……」
……ライザ、それはマーチちゃんには言わないように。
(ちなみに、そんな大金をどうやって支払ったかというと『ポーション昇華』による錬金術で、です)
(第四層の道具屋にて一個3,800Gで売っている「器用さバフポーションR」に九回『ポーション昇華』を使ってレジェンドレベル8まで上げたら498,073,600Gで売れてしまいました……)
私の所持金177,697,420G――。
何はともあれ!
マーチちゃんに武器ができました!
これで、つまらない、と感じることも減るはず……!
「マーチちゃん、どうしよっか? 武器、使ってみる?」
「……そ、そっか。これからは戦えるんだ……! 試してみたいの!」
私が、武器の調子を確かめてみる? と提案すると、マーチちゃんは大きく頷きました。
自分でも戦えるということが嬉しいようで、満面の笑顔のマーチちゃん。
そんな彼女のことを見ているとこっちまで嬉しい気持ちになってきます。
ああ、プレゼントしてよかったぁ……!
武器の性能を確かめるだけなら修練場でもできたのですが、マーチちゃんの武器には一つだけ難点がありました。
それは、一回攻撃するごとに魔石を一個消費することです。
マーチちゃんが、スキルで増やせるから弾数制限はないようなものだけどできれば無駄撃ちはしたくない、と言ったため、私たちはダンジョンに向かうことになりました。
そうして私たちが訪れたのは『タチシェスの自然保護区』。
私は第一層に戻って試した方がいいのではないか? と思ったのですが、マーチちゃんが、心配はいらない、と言ってきました。
「タチシェスは比較的素早さが遅いモンスターなの。あと、ここの個体は他の層のものと比べて大きいから外しにくいはずだし……。まあ、できればあまり行ってないとこに行きたいっていうのもあるのだけど。それに……」
いくつかの理由を述べるマーチちゃん。
ですが、一気には言い切らずそこで溜めて……。
「ボクには心強い仲間がいるから」
「……っ!」
そう言ってきたのです。
私を見ながら。
マーチちゃんからの信頼――それが伝わってきて、私は決めました。
今日は全力でマーチちゃんのサポートをしよう! と。
私たちは世界遺産にあるような環状列石のような場所だったり、木々が生い茂っている場所だったりを進んでいきました。
マーチちゃんは、早く試したい! ってうきうきしていたのですが、何故かタチシェスは現れず……。
反対に、位置はまったく覚えていなかったというのに階段はすぐ見つかって……。
あれよあれよという間に十二階まで来てしまいました。
(所要時間・ゲーム内で二時間)
ここまで来たら青プディンの巣で試した方が早いのでは? とマーチちゃんと話した矢先、タチシェスがやっと出てきてくれました。
三十を超える大群で。
その数を相手にするにはマーチちゃんの武器では相性が悪いとのことで逃げました。
逃げながら階段を探して上へ。
十三階、十四階、十五階でも遭遇したのは大きな群で、マーチちゃんが戦うことはできず……。
到頭青プディンの巣の前まで来てしまいました。
青プディンの巣で試したら? とは言いましたが、よく考えたらそれ、ボス戦なんですよね……。
初めて試すのがボス戦ってどうなんでしょう?
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