第99話(第三章第15話) そのやり方はつまらない

「このやり方、全っっ然、つまらない!」


 マーチちゃんが感情を爆発させました。

 ご機嫌斜めです。


 彼女がどうしてそんなにも声を荒げているのか、それは想像したらすぐに答えが見つかりました。

 ずっと背負われているだけで何もさせてもらえなかったマーチちゃん。

 私が彼女の立場だったなら……、と置き換えて考えてみると、すごく嫌な気持ちになりました。


 ここはゲームの世界。

 いろいろなことができる場所。


 ですから、そのいろいろなことをすることが「楽しむ」ということであるはずです。

 ましてや、マーチちゃんは現実では足を動かせなくなってしまっているわけですから、なおのこと……。

 この世界に来ても歩けないというのはよりつまらなく感じさせてしまっていたのではないでしょうか?

 私はそのことに気づかず、張り切るライザに先導させて……。

 ……バカですね、私。


「ご、ごめんね、マーチちゃん……」


 私は謝りました。

 ですが、マーチちゃんの機嫌はなかなか直ってはくれません。


「……本当なの。ボクが敵と戦うことはないし、ダンジョンの謎を解くとこもない。これじゃゲームをしている意味がないの! ボクは見る専じゃないからやってこそなの! RPGは敵と戦ったりステージの謎を解いて進んでいくのが醍醐味でしょ!? 挑戦して失敗して悩んでまた挑んで攻略していく! そうしてできなかったことができるようになった時の達成感がいいの! それなのに背負われてるだけって……! これはもう『キャリー』ですらない! ただの『バッグ』なのっ!」


 不満が溢れ出ていました。


「このゲームは死んじゃダメだから力を上げようとするのは当然なの……! 情報が武器になることもわかる……! でもこれじゃ、失敗して考えることがない! 達成感を味わえない! ボクは冒険をしたいのっ!」


 マーチちゃんの思いを聞いて、私はハッとさせられました。


 第一層のエリアボスと戦った時、猛毒薬が効かなくて焦らされたこと。

 第二層のエリアボスと戦った時、相手の素早さが速くて翻弄されたこと。

 あと、紺碧錫玉こんぺきしゃくぎょくプディンと初めて戦った時とか……。

 一筋縄ではいかなくて大変だったけれど、考えて打開策を見出して攻略した時の感覚は得も言われぬ快感でした。

 考えに考えた策が通用したことへの喜びだったり自分が強くなれたと実感することができたりして、もっと頑張ろうって思えるような――。


 それがマーチちゃんの言う冒険というものなのでしょう。

 ですが、さっきまでのマーチちゃんの状態は……。

 私はその感覚を、マーチちゃんに味わえなくさせていたのです。


「そう、だよね……! ゲームなんだもん、マーチちゃんもいろいろしたいよね!? 戦いとかも……! 私、マーチちゃんの分の攻撃バフポーション――」

「あっ、ゴリラポーションゴリポはいらないの。ボクは商人じぶんの力でどうにかしたいから」

「ええ……? でも、それだと私がほとんど倒しちゃうことにならない? ……あっ、新しく攻撃バフポーションをつくって私の攻撃力を抑えるとか? そうしたらマーチちゃんも戦える――」

「それはもっとしなくていいの。商人は今のところ武器が持てなくて攻撃力を低くさせられてるからお姉さんの攻撃力がなかったら詰む可能性があるの。それに、ボクはそれ、お姉さんの優位性だって思ってるから」

「……ええー……?」


 私はマーチちゃんが、考えて強い敵を倒して自分が強くなっていることを実感したかったのではないか、と予想して提案しました。

 ですが、マーチちゃんに却下されるというまさかの事態に。

 マーチちゃん用の攻撃バフポーションも、私が攻撃力を下げることも、必要ないと言ってきたのです。

 あれ? これってマーチちゃんがモンスターと戦ってみたい、という話だったのでは……?

 ……うーん、わかりません……。


 マーチちゃんと私の会話を聞いていたライザが間髪入れずにマーチちゃんに確認していました。


「セツのが優位性だってんなら、一人称わーの『アナライズ』もわーの優位性ってことですよね!? このスキルはダンジョンの謎を解くのに特化してます! だから、これからもわーが謎を解いていけば早く――」

「それはやめてほしいの。だってそれ、一プレイヤーが持つには明らかに過ぎたスキルなのだもの。攻略本を片手にプレイしてる感じ……。確かに隠し部屋に行くには便利だと思ったのだけど、どうやって攻略するのかを考えることがなくなるのはボクとしては『おもしろさ』が半減しちゃうな、って気づいたの。だからやめて」

「そ、そんな!? わーのスキル、これしか機能してねぇんですが!? これを使わないで、ってなったらわー、完全にお荷物にしかならねぇですよ!?」

「……スキル、変えた方がいいと思うの」

「ヒドい!」


 ステータスを上げられることが私の優位性だというのなら、情報を得られることが自分の優位性だと主張したライザ。

 しかし、それはマーチちゃんに一蹴されていました。


 私はよくて、ライザはダメ……。

 マーチちゃんはライザのしたことを許しているように感じられるので、もう彼女に対して怒ってはいないと思うのですが……。

 この差はいったい……?

 マーチちゃんは戦いたいとは思っていなかった、ということでしょうか?

 ……いえ、戦うこともRPGの醍醐味の一つと言っていたのでそうではないと思います。


 私はマーチちゃんの言葉を頭の中で繰り返しました。

 確か、商人は武器が持てなくて攻撃力を低くさせられているから私の攻撃力は詰まないためにあった方がいい、って言っていましたよね……。

 こればかりはこのゲームの仕様みたいですのでどうしようもないのかもしれません。

 例外的につくれたりしないのでしょうか?

 例えば、鍛冶師に頼むとかして……。

 一般的な鍛冶師では無理だったとしても――



「……クロさんなら?」



 私は今度クロさんに、商人でも扱える武器をつくれないか聞いてみようと思いました。



 ちなみに。


 16階、エリアボス前の空間にて。

 私とマーチちゃんは時間をかけて「レメディ」の裏側の壁が幻になっていることを発見しました。

 マーチちゃんによって教えることを禁止されていたライザはすごくそわそわしていましたが。

 嬉々として壁をすり抜けていったマーチちゃん

 しかし、その声はすぐに悲鳴へと変わりました。

 私が慌てて追い駆けるとすぐそこに落とし穴があって……!

 落とし穴は「第一層リスセフ平原」にあったもののようにトンネル型の滑り台のような構造をしていて滑り終わった先に空間がありました。

(マーチちゃんが滑り落ちている間に私は追いついて彼女を抱えてました)

 その空間に上質な幻惑草がありましたが、とてもハラハラさせられました。


 あと、隠し部屋には転移の魔法陣があったのですが、それが繋がっていたのはダンジョン入口……。

(しかも一方通行)

 ……これは、ライザに事前に知らせてもらっておいた方がよかったのでは?

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