第96話(第三章第12話) 第三層のエリアボス(回想)

 三時間半後。

 私たちは第一層の宿屋にいました。

 というのも……



……

…………

……………………



 あれから『第三層水中エリアダンジョン4・アホクビ海底谷』を攻略しに向かった私たち。

 ライザの指示に従って移動すると、最短距離で下り階段に着くことができました。

 ライザには、不機嫌クロさんの機嫌をさらに損ねてしまう可能性を阻止してもらったという借りがありますので今回は信じました。

 マーチちゃんの速度に合わせて移動し、何体かのアホクビと遭遇して戦闘をすることになりましたが(マーチちゃんがいるため万が一があってはいけないので)、三時間でB12階に辿り着くことができました。

 これは前回、私が一人でB11階のボス部屋前の安全地帯セーフティエリアに到着するのにかかったのと同じ時間です。

 あの時は上げた素早さをフルに活用していたので、その素早さを抑えていて同じ時間で降りてこられたというのは早いと言えるでしょう。

(暗い中、階段を探し回っていたから、速度はあってもなかなか次のフロアには行けていなかったんですよね、私……)

 ちなみに、赤プディン八体との戦闘はすぐに終わらせました。

(赤プディンがみんなマーチちゃんに寄っていっていたので)


 「レメディ」に触れてエリアボスの間へ。

 そこもやはり水で満たされていて、完全に水中戦を余儀なくされる構造になっていました。


 エリアボスは双頭になったアホクビでした。

 こちらから見て左側のワニの周りは何やら水が揺らめいているように見えました。

 あの周りの温度だけが高くなっているような感じで……。

 こちらから見て右側のワニの周りには何やら結晶のようなものが浮いているのが確認できました。

 もう片方の周りとは反対に、あの周りだけ温度が低くなっている気がしました。


 そんな二頭(?)のワニが大きな口を開けて何かをしようとしてきていたので私は動きました。

 頭が二つあるから片方だけの攻撃を引き付けられても、もう片方にマーチちゃんを狙われたら危険です。

 ですから私は、出せる最大限の速さでボスに近づいて片方のワニの首をしっかりと持ちました。

 近づくのに出した勢いそのままに、ボスを壁際まで運んで壁に叩きつけました。

 エリアボスのアホクビはそれで黒い粒子に。

 ……一撃。

 素早さと攻撃力でごり押ししてしまいました……。


 私が飛び出す前にライザが何かを伝えようとしていたみたいですが、エリアボスを倒してから聞きに行ってみると、



――「……いや、もう終わったことなんで……」――



 と言われました。

 ライザの話を聞いていたマーチちゃんによると、第三層のエリアボスには攻撃のデバフが掛けられない、とのこと。

 あと、猛毒薬が通用するとのこと。

 ……ライザ、エリアボスの情報を教えてくれてたようです。

 ……切り替えましょう。 



 兎に角、私たちはこれで第四層に行けるようになりました。


 第四層は巨大エリア。

 何もかもが大きいエリアです。

 街も建物も、人(NPC)でさえも。

 初めて見た時は驚きました。


 第四層の街「デカデカの街」は、藁だったり木だったりレンガだったり、様々な造りの家々が建ち並んでいました。

 他の階層の街にあった家の倍の大きさはあるでしょうか?

 建造物も大きくなっていて、街の広場にあった噴水も巨大化していました。

 街の中にあるものが大きくなっているので必然的に街全体も大きくなっていて移動が少し大変でした。


 ……あと、物価も高くなっていました。

 装備一つ627,200G……。

 高い! 高すぎるよ!

 「攻撃が16%、防御・素早さ・器用さが4%ずつ上がる」という感じで四つのステータスを上げられるようになっていたけど……!

 HPやMPを上げる装備ならその両方を「4」ずつ上げられるように性能は進化していたけれど……っ!

 これは暴騰です!

 マーチちゃんが、必要なら買うの、って言っていたけど、私はマーチちゃんの金銭感覚がちょっと怪しく思えてきました。

 1千億持ってますもん、この子……。


 装備の価格の高騰を受けて、この分だと第四層を攻略するのに絶対に手に入れないといけない装備の値段も上がってるのでは!? と私はかなり心配になりましたが、第四層にはその仕組みは採用されていなかったようです。

 ホッとしました。

(第四層のダンジョンを回るのに必須となる装備があったとしても、私には特殊効果の付いた「薬師の白衣」がありますから大丈夫だったわけですが)

(それでもマーチちゃんとライザの分は必要になるわけで……)



 マーチちゃんがゲームをやめなければいけない時間までちょっと時間がありましたから、これからのことについて話し合いました。

 第四層のダンジョンを少し覗いてみるか、或いは、第三層のダンジョンにも隠し部屋があるかもしれないので戻ってその一つを目指してみるか……。

 できるとしたらこの二つのどちらかだろう、と私は思ったのですが、ライザが言ってきました。



――「マーチのスキル、パワーアップできますけどしねぇんですか?」――



 と。


 詳しく聞いてみると、マーチちゃんの『収納上手』がパワーアップの条件(スキルを4,444回使用する)を満たしているとのこと。

 それなら……! とやるべきことはマーチちゃんのスキルをパワーアップすることに決まりました。


 宿屋の受付で「パワーアップの秘玉(スキル)」を引き出して、スキルに関することなので一応お部屋を取ろうとしたところ



――お値段、6,600G



 ここでも金額が上がっていました!


 あれ?

 第一層の宿屋って3,000Gでしたよね?

 ……。

 二回泊まれるじゃないですか!


 マーチちゃんはあまり気にしていないようでしたが、今後何が起きるかはわかりません。

 節約できるところはすべきだと私は思います!

 そう言って私はマーチちゃんを説得して……。



……………………

…………

……



 こうして私たちは『踏破者の証』を使って第一層に戻ってきた、ということになります。


 第一層の宿屋でお部屋を取って、そこでマーチちゃんの『収納上手』に「パワーアップの秘玉(スキル)」を使うことに。

 マーチちゃんがアイテムを使っている際に、ライザが私にこそっと耳打ちしました。


「……実は二人称なーがいねぇ間に『踏破者の証』を増やしまくってた時に、マーチの『収納上手』は既に『パワーアップ』ができる状態だったんです。一人称わーは一応その時に知らせようとしたんですけど、すげぇ集中しててわーの声なんて聞こえなかったみてぇで……」

「……そうなん――」

「やったぁ! スキルが強化されたの!」


 ライザと話している間に、無事にスキルを強化することができたみたいです。

 マーチちゃんが強化できたスキルを見せてくれました。


========


『収納上手×2』……同じアイテムを99個までスタックできる。


========


「おお……!」


 こ、これはすごいパワーアップです!

 マーチちゃんはこれで4,000個近くアイテムを持つことができるようになったということなのですから!

 マーチちゃんがいればアイテムを持ち切れなくて泣く泣く諦めるなんてことはほぼないと見ていいですね!

 ……ん?

 あれ?

 マーチちゃん、素材を増やしてた時にはパワーアップすることができる状態だったんですよね?



――これ、クロさんに素材を納品する前に強化していたら時間もお金も節約できたのでは?

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