第94話(第三章第10話) 有能マーチも止まらない

 「アホクビの鰐皮」――四体目でドロップ。

 「タチシェスパール」――七体目でドロップ。

 「スクオスの金糸」――二体目でドロップ。

 

 「リスセフの尻尾」をゲットしてからは昨日のことが嘘のようにスムーズにドロップアイテムを集めることができました。

 ゲーム内の時間で一時間とかかっていません。

 ……全てマーチちゃんが猛毒薬を使って倒してゲットしたものです。

 私とライザは何もできていません。

 戦力外です。

 ……あれ?

 第三層にいる同名のモンスターたちでも同じものを落とすそうですし、それにマーチちゃんが戦かってて私が攻撃していないのなら……



――これって第一層に来た意味はあったのでしょうか?



 ……考えるのはやめましょう、そうしましょう!

 兎に角今はアイテムの数を揃えることに専念です!


 私の今のMPは「344」。

 既にMP回復ポーションをレジェンドレベル4まで上げていますので、そこからレベル6までは上げられます。

(レベル5にするのに「64」、レベル6にするのに「128」、レベル7にするには「256」MPが必要になるので)


========


MP回復ポーションL(Lv:6)……MPを最大値の262,144%回復する。


========


 ……うん。

 とんでもない回復量のポーションが出来上がりました。


 マーチちゃんのMPは「185」とのことで、レベル6のアイテムは増やせないそうなのですがこれを飲めばMPは「485,151」に。

 マーチちゃんが持っていたものを昇華させたのであと十四目盛分あるのですが、もう65,000個分増やすのに必要となるMPは確保できたことにないます。

(増やすアイテムはどれもコモン品質なのでMP1で増やせます)


 ライザが『アナライズ』で「視て」、「スクオスの森」ダンジョン内の人のいないところでこれを行った私たちは、『帰還の笛』と『踏破者の証』を使って第三層に戻りました。




「二人とも。持ち物を全部預けるの」

「「えっ?」」


 第三層の宿屋の受付にて、マーチちゃんの指示で私とライザは荷物を全て倉庫に預けさせられました。

 ここからが壮絶でした。


 宿のお部屋を取って私たちを連れて行くマーチちゃん。

 お部屋に入るなり、マーチちゃんは「リスセフの尻尾」を増やし始めました。

 『ポケットの中のビスケット』が強化されていることで一気に九個も増やせます。

 一個ずつ増やしていた時と比べたら時間も大幅に短縮できていて。

 それで私たちの手持ちをいっぱいにしたらお部屋を出てクロさんの元へ。

 一度に439個も素材を持ってくる私たちに、彼女は目を丸くさせていました。


 クロさんに素材を渡したら宿屋に戻ってさっきと同じように「リスセフの尻尾」で手持ちを満たします。

 そしてそれらをまたクロさんに届けに行きます。

 宿屋から鍛冶屋さんまでは一分もかからないくらいの距離で、マーチちゃんがアイテムを持ち切れなくなるまで増やすのも一分以内でやってのけてしまいます。

 ですから、泊まる手続きをする時間を合わせても五分くらいでクロさんと再会できることになります。

 439個を届けたその五分後にまた439個を持ってくる私たちに、クロさんはとても驚いていました。


 繰り返すこと合計38回。

 それで「リスセフの尻尾」は必要数に達しました。

 150分くらいでようやく一種類達成です。

 時刻は③の二十三時四十四分。

 あと四時間(ゲーム内)ほどで私はゲームができない時間に入ってしまいます。

 ペースを上げないと……!


 今度は「アホクビの鰐皮」。

 移動に掛かる時間を少なくして140分くらいで目標数に到達することができました。


 その次は「タチシェスパール」。

 もっと急いだので110分くらいでできました。

 最速記録です。


 ですが、流石に時間がないためこの日はここで一旦終了ということに。



……………………



 五月三十一日(午後五時前)。


 最後の素材、「スクオスの金糸」を増やす作業に入りました。

 始めた時、マーチちゃんが泣いていたことにはすごく戸惑わされましたが。

(夕食の時間になってもゲームを続けてしまっていたため、看護師さんにひどく怒られてしまったようです……)


 そんなわけでマーチちゃんを慰めながら作業すること180分。

 ついにマーチちゃんの笑顔を取り戻すことに成功します!

 あっ、あと、約65,000個という数の素材を集め終わりました。



 ちなみにですが、こんなにも素材が必要となる理由はクロさんのスキルにあるそうです。

 彼女は『数だけ強くなれる』というスキルを持っていました(ライザが盗み見ました)。

 それは、同一アイテムを四つ合成することで一つ上の品質のものに替えられるというものでした。

 合成する際にMPを必要とするみたいで、私が求めている特殊効果を装備に付与できるまでの素材のレアリティに上げるには、その量は膨大なものになってしまうとのこと。


――「素材、収集、迅速。……でも、クロ、MP、足りない。……効果の付与、時間、かかる」――


 なんてものすごく残念そうに言っていたため、私は彼女にMPを飲んでもらっていました。

 依頼をしているのはこちらなので、足りないMPをどうにかするのも依頼する側の務めなのでは!? そう思ったので。

 お役に立とうと思ってポーションを使ってもらったのですが、飲んだあとの彼女の顔はどういうわけか引き攣っていました。



 それはさておき。

 納めるのはこれで最後、という素材をクロさんに渡しに行きます。

 鍛冶屋さんを訪れた際、私はクロさんに恨みがましい目で睨みつけられてしまいました。

 親の仇とでも言わんばかりの顔で。

 目元にできていたクマが凄みを増させていて。

 ……私、クロさんに何か嫌われるようなことしましたっけ!?


 私が自分の行動を思い出そうとしていると、マーチちゃんがクロさんに切り出しました。


「これでお姉さんの装備に『全地形ダメージ無効』か『全地形による悪影響無視』をつけてもらえるの?」


 マーチちゃんからの問いにクロさんは慌てて笑顔をつくって答えます。

(苦笑でしたけど)


「……待って。代金。依頼だから、無視、できない……」

「あ……っ」


 ……そうでした。

 必要な素材を集めることができたという達成感でいっぱいになって、お金のことをすっかり忘れてしまっていました。

 その金額約5,000万G。

 どうやって集めよう……! と私が困り果てていると……



「はい、49,152,000G」



「「え――」」


 マーチちゃんがお金が入ったものすごく大きな袋をバッグから取り出してクロさんに渡しました。

 私とクロさんの声が重なります。


「ま、待って!? そ、そんな大金払ってもらうなんて……! っていうか、そんなに持ってたっけ!?」


 マーチちゃんに申し訳なくてたまらなくなる私。

 あと、いろいろと支払ってくれていたはずなのでそこまでの金額は持っていなかったはずです……!

 私の頭の中はひっちゃかめっちゃかになっていました。


 聞いても答えあぐねるマーチちゃん。


「……あの、えーっと……」


 目を逸らされます。

 彼女がこんなにお金を持っているわけですが、その答えは別のところから返ってきました。



二人称なーがいねぇ間、『旗』増やしまくって売りまくってたんですよ、この子……」



「……えっ?」


 ライザからの告げ口によって。


 このあと私は、売れるアイテムに制限が設けられることになった原因がマーチちゃんであったことを知らされます。

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