第92話(第三章第8話) 鍛冶師3

「……名前、当てた。……スキル」


 ライザは『アナライズ』で見たものの情報を読み取れます。

 ですから、この子がクロという名前なのは確かでしょう。

 クロさんはそのことを知らないはずなので、名乗ってもいないのにライザに名前を知られているこの状況に、ライザに対する不信感が高まったようです。

(何故か「さん付け」になってしまいます……)

(……そうした方がいいような気がして)

 彼女ライザのことを睨みつけていました。


 鋭い視線を向けられているライザはというとけろっとしていました。


「……やっぱばれちまいますか。まあ、名前当てちまった時点で、こうなるだろうなっつー気はしてやがりましたが。ですが、ここは自分の情報を出してでもやってやりますよ。メリットは計り知れねぇんでね」

「ら、ライザさん?」

「ど、どういうことなの……!?」

「……」


 戸惑う私とマーチちゃん。

 置いてけぼりです。

 クロさんはというと、ライザのことをじっと見て観察を続けていました。


 ライザが話を続けます。

 次に彼女が口にした言葉で、彼女がマーチちゃんを制した理由が見えてきました。


「どうってことはねぇです。鍛冶師はジョブスキルの『鍛錬』でできることの中に、『武器・防具に特殊効果を付与する』っつーモンがあります。一般的な鍛冶師はこれがランダム付与になりやがるんですが、この人の場合、んです。そういうスキルを持ってるんですよ。



――『名匠たる所以』っつースキルを」



「そ、そっか! 初期装備だけは耐久値が『∞』なの! それに『水中自在のウエットスーツ』や『空気のシュノーケル』に付与されてる『地形(水中)ダメージ無効』や『地形(水中)による悪影響無視』をつけられれば……!」

「っ! ダンジョンも進められるし、装備が壊れることもなくなる……!?」


 それはこれ以上ない解決策でした。

 それができたなら、耐久値を心配する必要もなくなるし、何回も耐久値を上げにくる必要もなくなるのでコストさえも抑えられる、まさにウルトラCな解決策……!

 ライザは、このクロさんならそれが可能なことを把握できていたからマーチちゃんを止めていたのです。

 これは『アナライズ』を持っているライザにしかできないことでしょう。


 ただ、相手からしてみれば土足で踏み込まれたようなものなので……。


「……不快……っ!」


 いい気がしないのは当然だと思います。

 これでもかというほどにクロさんの顔はしかめられていました。



 クロさんはライザに随分と長い間ガンを飛ばしていたように思います。

(実際にはそれほど長い時間ではなかったのかもしれませんが)

 ですがライザはその間ずっと、まったく意に介さずといった様子だったため、やがてクロさんは観念したように溜息をつきました。


「……はぁ。……降参。……スキル、暴かれた。……最低、変態。……推測、スキル、奪われる。……『決闘』、拒否。……不承不承、言うこと、聞く」

「変態って……。別に嫌なら嫌って言ってもらっても構やしねぇですよ? 一人称わーはただ頼んでるだけで二人称なーのスキルをどうこうしようってわけじゃねぇんで」

「……懐疑。……信用できない」

「……そうですか」


 ライザの要望に応える、とクロさんは言ってきました。

 すごく嫌々ではありましたが。

 なのでライザも悪いと思ったのでしょう。

 無理して引き受けなくてもいいことを伝えます。

 その言葉をクロさんは信じず、話は私の初期装備に特殊効果を付与するための話へ。


「……疑問。……特殊効果の付与、スロットに空き、必須。……初期装備、スロット、ない」

「えっ? スロットって……あっ! それ――」

「おおっと! その辺のことはこっちでどうにかするんでなーは心配しねぇでいいですよ?」

「? ……そう。……スキル」


 クロさん曰く、装備に特殊効果を付与するには「スロット」が必要とのこと。

 その言葉を私はどこかで見た気がして思い返してみると、宝箱から出てきたアイテムの中に『武器・防具スロット解放の鍵』というものがあったことを思い出しました。

 それを口にしようとした瞬間、ライザに口を塞がれました。

 彼女に小声で言われます。



――レアアイテムのことをペラペラしゃべるんじゃねぇですよ!――と。



 マーチちゃんの方を見ると何回も頷いていたため、私はライザの方が正しかったのだと知りました。


 そんな私たちのことをクロさんは不思議そうに眺めていましたが、気にしないことにしてくれたようです。


「……把握。……付与、やってあげる。……でも、条件」


 私の初期装備に特殊効果を付与するにあたって、クロさんは条件を提示してきました。

 それが以下の二つでした。


 一つ、特殊効果を付与するのに必要となる素材は全て私たちで用意すること。

 二つ、クロさんへの依頼ということにし、相応の代金を支払うこと。


 素材となるアイテムはモンスターからのドロップで得られる「リスセフの尻尾」「アホクビの鰐皮」「タチシェスパール」「スクオスの金糸」――各16,192個。

(持ち切れないので一度に渡さなくてもいいとのこと)

 代金は――49,152,000G。


 ……すごい数値が出てきました。

 必要となる素材が合計約65,000個……。

 支払うお金が約5,000万G……。

 こんなの集められないよ……! と最初は思ったのですが、私の所為で探索がストップしているのが現状です。

 これ以上マーチちゃんに、それと一応ライザにも、迷惑はかけたくありません。

 素材集めは気が遠くなりそうですし、金額は法外のように感じましたが、これで耐久値に関する憂いが一切なくなることを考えれば必要なこと……!

 なんとかしよう! と私は決意しました。


 これだけの素材とお金を必要とするということはそれだけ難しいことをするということだと思います。

 そんな無茶なお願いを聞いてくれるクロさんに私は感謝しようと思いました。

 ですが――


「あ、ありがとうございます、クロさん!」

「……いらない、キミのお礼。……そっちの子のがいい」

「えっ、ボク……!? えっと、ありがとう、なの……?」

「……いい!」


 あれ……?


 私ではなく何故かマーチちゃんからのお礼を求めたクロさん。

 マーチちゃんが戸惑いながら感謝の言葉を言うと、クロさんは満足だったのかいい笑顔になりました。


 なんで?



 ちなみに、迷惑をかけないようになんとかしよう、と意気込んでいた私ですが、このあと、マーチちゃんの手を思いっきり借りることになります。

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