第90話(第三章第6話) 鍛冶師1
鍛冶師――
それは「ギフテッド・オンライン」の世界において、武器や防具を生成したり強化したりできる職業。
鍛冶師は生産職に分類される職業ですが、他の三つの生産職ほど不遇職とは見られていないそうです。
買えば9,800Gはする武器や防具を低いコストでつくることができる、というのが評価されているのだそう。
ですが鍛冶師が他の生産職より優れているとみなされている最大の理由は、
――一人で戦う術を持っているから。
生産職は基本的に戦闘に秀でていないので、素材となるアイテムの採取を戦闘職に就いているプレイヤーに依頼する必要があるとのことですが、鍛冶師だけは戦う術を持っているため一人で素材を集めることが可能らしいのです。
ですから、誰かの助けがなければ職業の特性を活かしきれない薬師、商人、鑑定士と比べ、一人でもやっていくことができる鍛冶師はまだマシと考えられていました。
それでも戦闘を生業にしている職業には劣るし、武器や防具をつくったり強化をしたりするならNPCに頼めば事足りるのでは? という意見が多く出たことで鍛冶師を辞めていくプレイヤーが続出。
他の生産職と同様に鍛冶師に就いているプレイヤーもまったくと言っていいほどいなくなってしまったみたいです……。
(ということを前にマーチちゃんから教わっていました)
私が鍛冶師について教えてもらった内容を思い返していると、マーチちゃんが考えついた案を提示してきます。
「耐久値は武器・防具に関する変更点なの。だから、武器や防具を専門に扱ってる鍛冶師もそれに伴って新たな役割を与えられていて、
――耐久値を増やしたり、壊れた装備を直すことができるようになっているの!
鍛冶師に頼めば、お姉さんのその攻撃力のままでエリアボスに挑めるはず……!」
「そ、そうなんだ……!」
マーチちゃんの提案は私の、攻撃力を抑える、という考えより建設的な気がしました。
じゃあ、その方針で進めよう! とマーチちゃんの意見に賛成しようとした時でした。
私の頭の中にふと疑問が浮かんできます。
「それじゃあ早速、鍛冶師に会いに……って、あれ? さっき、鍛冶師の人に会いに行くって言ってたけど、鍛冶師に就いてるプレイヤーさんってどこにいるのかな? マーチちゃんの話だとあんまりいないって感じだったけど、マーチちゃんはその人の居場所を知ってたり……?」
私ははたと思ったのです。
どこに行けば鍛冶師のプレイヤーさんに会えるの?――って。
鍛冶師に就いている人も他の生産職同様少ない、という話でしたから。
マーチちゃんに尋ねると、えっ? そんな人、知らないけど? みたいな顔をされました。
……あれ?
これって、鍛冶師に就いているプレイヤーさんの元を訪ねるという話だったのでは……?
わけがわからずに混乱していると、マーチちゃんが齟齬に気づいて説明してくれます。
「あ、あれ!? 鍛冶師の人に会いに行くって言ってたから、鍛冶師をやってるプレイヤーさんに会いに行くんじゃ……!?」
「……あっ、ボクの言い方が悪かったの。『人』ってそういう意味じゃなくて……。別にプレイヤーを見つける必要はないの。NPCも同じことができるから。運営からのメッセージにそう書いてあったから、向かうのは鍛冶屋なの」
「っ! そ、そっか、ごめん、勘違いしてて……!」
私は思い違いをしていました。
『人』と言っていたものだから、それは『プレイヤー』を指しているものとばかり……。
そうですよね、NPCさんも『人』って言えますよね。
なんでそのことを考えられなかったのでしょう?
反省しました……。
兎にも角にも。
NPCの鍛冶師でも代金を支払えば装備の耐久値を増やせるということなので、この層にある鍛冶屋さんへ向かおうと宿のお部屋を出ようとした時、まだ放心状態から回復できていないライザの姿が目に入ってきました。
「……どうすれば……どうすれば償いに……っ」
流石にそのままにはしておけないので声を掛けます。
「……ライザさん、宿、出ますよ? 鍛冶屋さんに行って装備の耐久値を上げてもらいます」
「……えっ? あっ、はい!」
……マーチちゃんに大変な思いをさせたことを考えると、どうしてもライザを敬遠してしまいます。
呼び方が「ライザさん」に戻ってしまっているのは私が彼女と距離を置きたいと思ってしまっている現れでしょう。
心の中ではライザのままなのですが……。
私が呼び掛けると、ライザは我に戻って慌てて私たちについてきました。
鍛冶屋さんに向かう際のことです。
ブクブクの街にある鍛冶屋さんの建物を見た瞬間、ライザが口を開きました。
「……ん? あの鍛冶屋、プレイヤーがバイトしてるみてぇですよ?」
「「えっ?」」
見ただけでプレイヤーが働いていると断言するライザ。
驚く私とマーチちゃんの声が重なりました。
「見ただけで!? ……あっ、そうか、『天からのお告げ』……!」
「……あっ! そういえば知りたいことを教えてもらえるスキルを持ってるって……」
「……いや、まあ、正しくは『アナライズ』って言って、見たものの情報を読み取れるスキルなんですけど……」
私は忘れていました。
たぶん、反応からするとマーチちゃんもそうだったのだと思います。
……『トリックスター』の印象が強すぎて。
――ライザには、知りたいことを知ることができる有能なスキル『天からのお告げ』があることを。
正確には『天からのお告げ』ではなく、『アナライズ』というスキルだったみたいですが。
『アナライズ』――見たものの情報を読み取れるスキル。
ここでも嘘をついていたライザはばつが悪そうにその身を縮めて小さくなっていました。
ですが、今更です。
彼女に嘘をつかれたところでもう気分を害されることはありません。
というか、彼女の持っているスキルがそのどちらだったとしても差がわかりません。
マーチちゃんもそう思ったのか、嘘をつかれていたことに対してこれっぽっちも気にしていないようでした。
とりあえず、今のライザの様子からはこれでさらに嘘をついているようには見えないので、彼女が持つ全てのスキルを把握できてよかったと捉えることにしましょう。
ちなみにですが、宿屋のお部屋の外でスキルの話をするのは禁物とのことで小声でのやり取りでした。
それから私たちはライザが、バイトしてるプレイヤーがいる、と言ったお店に向かい、扉を開けました。
ここでバイトをしているということは、そのプレイヤーは鍛冶師ということになります。
初めて会う鍛冶師。
いったいどういった人なんだろう? と私はちょっとワクワクしていました。
「え……?」
扉を開けた直後、私は硬直しました。
そこにいたのは、
――『私』だったからです。
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