第87話(第三章第3話) 三週間ぶり、第三層、三人

「久しぶりの『ギフテッド・オンライン』の世界……!」


 あれから二週間、あゆみちゃんにはみっちりと勉強を叩き込みました。

 ナオさん(あゆみちゃんのお母さん)が危惧していた通り、あゆみちゃんの学力は私が想像していた以上にヤバく、それはもう大変でした。

 そんなあゆみちゃんに勉強を教えたことで私の理解が深まったからでしょうか?

 今までに取ったことのない高順位を取ることができました。

 学年で4位という好成績。

 お母さんが喜んでくれました。

 ナオさんにも、あゆみちゃんの赤点を回避させられたことですごく喜ばれました。

 ラ・カージュのケーキをご馳走してくれるそうです。

 ……楽しみ。


 テストの結果でゲームを続けていいかどうかということが決まることになっていたため、その結果が出たのがテストから一週間後。

 従って、私がゲームをしたのはめて三週間ぶりになります。


「うーん! すごく懐かしい気がする……!」


 現在地はカラカラの街。

 日時は五月二十九日③の十八時三十六分。

 この場所の乾燥具合!

 そして、この時間の表記の仕方!

 なんか少し感動します……!

 この景色を眺めているだけでもいい気さえしてきました。


 のんびりとゲームの世界を味わっていると、目の前にいきなりスマホの画面のようなものが!


「ひゃわっ!?」


 ……こ、この心臓に悪い感じも懐かしいです。

 それには「call」と書かれていて、相手の名前を見てみると……。


「っ! マーチちゃんっ!」


 マーチちゃんからでした!


 私は電話に出ました。


「もしもし、マーチちゃん、久しぶり!」

『お姉さん、お久しぶりなの。テスト、おつかれさまなの。ゲームができてるってことは結果はよかった、ってみていいの?』

「うん! 大丈夫! 今日から再開できるよ! ……あっ、ごめん! 久しぶりにこの世界に来れてちょっと感極まっちゃってて……! すぐに会いに行くから! えっと、宿屋に向かえばいいかな?」

『……えっと、それなんだけど――』


 久しぶりに聞いたマーチちゃんの声。

 会ってないのにそれだけで込み上げてくるものがあります。


 彼女にはしばらくゲームができないこととその理由を伝えていました。

 ですから、メニュー画面を見て、パーティだからログインしているのがわかって連絡してくれたのだと思います。

 マーチちゃんからの労いの言葉は、テスト勉強や約一名の生徒への授業で溜まった私の心の疲れを吹き飛ばしてくれました。

 私の中にあった、マーチちゃんに会いたい気持ちが高まっているのを感じます。

 本当なら私から連絡をするつもりだったのですが、この風景の懐かしさに心が奪われてしまっていて電話をすることができませんでした。

 ゲームを始める前はすぐにでもマーチちゃんに会いにいこうと思ってたのに……!

 なんか、マーチちゃんの優先度を低くしてしまっていたみたいで申し訳なく思えて、私はこれから急いでマーチちゃんの元へ向かおうとしました。


 マーチちゃんが今どこにいるのか尋ねると、彼女は言葉を溜めました。

 そして――



『今、第三層にいるの』



「……え? ……ええええっ!?」


 衝撃の言葉が返ってきました。

 えっ!? 第三層!?

 ……確か、マーチちゃんは行けなかったはずです。

 エリアボスを倒していなかったから……。

 一度直前のところまでは行きましたが、あの時はエリアボスを倒すどころではありませんでしたし……。

 ……この三週間でいったい何があったのでしょう?


「エリアボスを倒したの!? 一人で!?」


 私はテンパりました。

 マーチちゃんってそんなに強かったの!? という疑問と、それと似たような疑問ばかりが頭の中でひしめき合っていました。

 パニックになっている私にマーチちゃんは答えてくれます。


『一人で、ではないの。ライザも一緒だったの』

「っ! ……そ、そう、なんだ……」


 ライザと一緒に攻略した、と。


 ……ライザ。

 自分が運命に見放されたと思い込んでこじらせてしまった人――。


 彼女にも事情があったのは理解できていますが、それでも彼女のやってしまったことはやっていいことの範疇はんちゅうを超えていました。

 私は、私の大事な友だちを危険にさらしたあの人のことを許すべきではないと思っています。

 許してしまったら、私はまた判断を間違えてマーチちゃんを危ない目に遭わせてしまうかもしれないから。


 私としてはマーチちゃんとライザを二人っきりにさせたくはなかったのですけど、マーチちゃんはもうライザのことを危険だとはみなしていないようでした。

 彼女の暴走を止めたあと、確かに彼女は反省しているように見えましたけど……。

 でも、私は一度彼女を信じてマーチちゃんに多大な迷惑をかけてしまっているので、本当に彼女は反省しているのか? と、どうしても疑ってしまいます。

 私は自分の判断に自信が持てなくなっていました。


 兎に角。


「ま、待ってて! すぐ行くからっ!」


 私は第三層へと急ぎました。



……………………



 第三層・ブクブクの街。

 私はその雄大な景色を見る余裕もなく宿屋のお部屋へと駆け込みました。


 ちなみに、『踏破者の証』を使っての移動です。

 なんとか理性は残っていたようで、使う前に、人目につかないところで使うこと、というマーチちゃんの言葉を思い出せてそれに従うことはできました。


 扉を開けるとほぼ同時にマーチちゃんが抱きついてきました。


「お姉さん! 本当にお久しぶりって感じがするの!」

「ま、マーチちゃん……!」


 私もマーチちゃんに会うことができて嬉しい気持ちが湧き上がってきます!

 ……ですが、視界の端にライザが映ったことで、まずは確認しないと! という思いの方が強くなりました。


「マーチちゃん! エリアボスと戦いに行くなんて、なんでそんなことを……っ!?」


 私は心配でたまりませんでした。

 だって、ライザの当初の目的はエリアボス戦で私たちを死なせることだったわけですから。

 そんなことを企んでいた人と一緒にエリアボスに挑みに行くなんて、マーチちゃんは抵抗がなかったのでしょうか?

 一人であれこれと考えて落ち着きをなくしている私にマーチちゃんが言ってきます。


「ごめんなさいなの……。でも。これはお姉さんも悪いと思うの」

「……え?」

「だってお姉さん、



――一人で第三層に行っちゃうんだもの」



「ふぐぅ……!」


 マーチちゃんに指摘されてしまいました。

 ……適確です。

 先に勝手な行動を取っていたのは私の方でした。

 イベントで上位を取るためとはいえ、マーチちゃんを置いて先に進んでしまっていましたから。

 それを言われると私は弱いです……。

 これ、もしかして、私が先に進んでいなかったらこんなことにはなっていなかったということでしょうか?


「ボクは、お姉さんと一緒に進みたかったの。だから、お姉さんが戻ってくるまでに同じ場所まで行きたくて、ライザに協力してもらって。……あのエリアボスに本当に猛毒薬が通用したことには驚いたけど……」

「マーチちゃん……っ」


 続けて言われたマーチちゃんの言葉。

 マーチちゃんの思いを伝えられて、私は考えを改めさせられました。



――これからは一緒に進んでいこう、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る