第86話(第三章第2話) 現実2(セツの場合)
私たち生徒にとってはまさに黄金の一週間と感じられる、ずっと続いてほしい一週間が終わり、学校が始まります。
このゴールデンウィークは私にとって本当に濃密な一週間でした。
だから、これからのことを思うとちょっと億劫になってしまいます。
「刹那ー。今日からテスト週間だってー……。あーあ、連休が終わっただけでも嫌なのにー!」
「そうだね」
友だちの女の子が言ってきました。
そうです。
私たちの学校は二週間後に中間テストがあるのです。
だから今日からはテスト週間ということになり、部活はお休みに。
早く帰れ、と先生たちに促されることになります。
私もこの期間はつらいな、と感じていました。
勉強が嫌い、というわけではないのですが……。
……その、ゲームが禁止になることがつらいんです。
禁止になって、マーチちゃんと会えなくなることが。
お母さんと話し合って、テスト週間中はゲームをしないって決めちゃってたんですよね……。
その時は、あゆみちゃんに付き合わされただけだしそんなに嵌らないだろう、って思ってたから。
でもまさか、こんな日が来るなんて思いも寄りませんでした。
私の中でマーチちゃんが占める割合が大きいことを認識させられます。
会えないって考えただけで挫けてしまいそう……。
で、でも、学生の本分は勉強ですから、が、頑張ります……!
担任の先生が入ってきて、ホームルームを始める、と言いました。
私が友だちと別れて自分の席に戻ろうとした時、教室のドアが勢いよく開けられます。
やってきたのは肩で息をしているあゆみちゃん。
あゆみちゃんは風邪を引いたままゴールデンウィークに入っていましたから随分久しぶりに学校で会った気がします。
遅刻ギリギリでしたけど。
彼の目の下にはクマがありました。
夜更かしをしていたのかな?
全校集会が一時間目にあって、そのあとは通常授業でした。
「はーい、ここ、テストに出まーす」
「……」
先生が板書したことをタブレットの中にあるノートに書き写していく私たち生徒。
タタタタッという、タブレットに付属されているペンを走らせる音が教室内に響きます。
休み明け最初の授業ということもあって、いつもよりも時間が長く感じられました。
そうして二時間目、三時間目、四時間目と過ぎていき、お昼のあとの授業に。
その授業で勉強する音に混じって、ぐぅ……、がぁ……、という音が聞こえ始めました。
……あゆみちゃんです。
お昼を食べてお腹が満たされて耐えられなくなったんでしょう。
すごく眠そうでしたから。
……っていうか、テスト、大丈夫なんでしょうか?
「ぐぅ……、ぐふっ」
……不安です。
……………………
「ん~、終わったぁ!」
なんとか一日を乗り切りました。
休みの感覚が抜け切れていない所為で時間が経つのが本当に遅かった……。
あゆみちゃんはというと、五時間目と六時間目で寝てしまっていたため、それぞれの担当の先生に呼び出されてお説教です。
ホームルームも終わり、伸びをして。
スマホを見てもよくなったので確認してみると一通のメッセージが届いていました。
「あっ、ナオさんからだ」
ナオさんとは、
ナオさんは私にとてもよくしてくれています!
一緒にショッピングに行ったり、カフェでお茶したり、カラオケに行ったり。
友だちのお母さんというより、友だちに近い感覚だったりします。
最近はお仕事が忙しいみたいで会えていませんが……。
そんなナオさんからのメッセージ。
私はすぐに確認しました。
『やっほー、刹那ちゃん! 元気ー? 私はねー……
元気じゃないんだよー! お仕事大変……!
刹那ちゃんとショッピングしたりお茶したりしたいよー……っ!
そーそー、ラ・カージュが新作のケーキを出したんだって!
行きたい! 今度の休み、食べに行こ!?』
……ナオさん、相当溜まっているようです。
ちなみに、ラ・カージュとは最近人気の洋菓子屋さんです。
ケーキ……食べたいです。
ナオさんの溜まっているものを発散する協力もしたいです。
ですが、テストを控えてるんですよね……。
私は返信しました。
「えーっと……、『ごめんなさい。行きたいんですけど、これからテスト週間に入るので……』っと――って、早っ!?」
そう送った直後、すぐに「既読」がついてメッセージが返ってきます。
あれ? お仕事は……?
で、ナオさんからの文章がこれ。
『テスト週間!? もうそんな時期!?
あいつ、何も知らせてくれなかったんだけど!?』
あー……。
あゆみちゃん、ナオさんにテストのこと黙ってたんだ……。
……隠してたってことは、ちょっとまずいかもしれません。
あゆみちゃんの成績……。
私は提案しました。
お世話になっているナオさんが悲しむ姿は見たくなかったので。
「『もしよければ、私が見ましょうか? あゆみちゃんの勉強』」
『えっ!? いいの!? 頼っちゃって!?
たぶん、ゲームばかりしてて勉強なんてしてないから
ヒドイことになってると思うけど……
お願い、できる?
あんなのだけど、私の子どもだから……ね?
心配は心配なわけですよ……』
「『大丈夫です! 教えるのも勉強になりますから!』」
というわけで、私はあゆみちゃんに勉強を教えることに――
「……くそ。寝たのは不味ったな……。盛大に怒られた……。このもやもやした気分はもう、ゲームで晴らすしかないな!」
「あゆみちゃん……」
お説教が終わって教室に帰ってきたあゆみちゃん。
その第一声がこれ……。
もしかしてとんでもない提案をしてしまったのでは? という感じがしてきました。
それでも、ナオさんと約束したから……。
「あゆみちゃん、勉強するよ? テスト週間なんだから」
私はあゆみちゃんの元に寄っていって話し掛けます。
「なっ!? お前、オレからゲームを奪うつもりか!? なんの権限があって……!」
拒むあゆみちゃん。
私はスマホでのナオさんとのやり取りを見せながら言いました。
「ナオさんにお願いされたから」
「うぐ……! か、母ちゃん……っ!」
ナオさんには弱いようで、こうすると大人しくなるあゆみちゃんです。
というわけで私の家でお勉強会をすることになりました。
私の家にはお母さんがいますから。
あゆみちゃんの家だとあゆみちゃんがゲームを始めてしまいますし、誰もいないので。
リビングで勉強をしていると、あゆみちゃんが思い出したように言ってきました。
「刹那、そういやお前、『ギフテッド・オンライン』は? ヒーラーいなくて困ってるって、オレ言ったよな?
……あれ?
確か私、メッセージ送りましたよね?
なんで伝わってないんですか?
スマホを確認してみるとちゃんと送った記録がありました。
未読で。
なんでメッセージを読んでない人に呆れられてるんですか、私?
もう一度、今度は口頭で伝えようとしたのですが……
「いや、私、死んでないし……。私は薬師で――」
「まあ、『決闘』システムで仲間が回復スキル取ってくれたから今更ヒーラーなんて必要ねぇけどな! あーあ、さっさと死んでたら仲間に入れてやったっていうのに」
「……」
聞いてくれませんでした。
あと、なんか釈然としない言い方をされた気がします。
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