第81話(第二章第39話) 厄介者3(セツ視点)
「――ハッ! そうだ、ステータス――ってMPがマイナス!? ど、どうなってやがるんですか、これ!?」
しばらくの間呆然と立ち尽くしていたライザが我に返って自分のステータスを確認して、また放心状態に。
それもそのはずだと思います。
だって、マーチちゃんがライザに使ったのは、
――私特製の悪心薬なんですから。
私は素早さバフポーションがつくれるようになった時に、同時に状態回復薬、素早さデバフポーション、悪心薬もつくれるようになっていたのです。
その悪心薬のレシピは、聖水、悪心草四つ、赤プディンの粘質水、赤い魔石六つ。
悪心草は第三層『アホクビ海底谷』にあって、E魔石を集めるために赤プディンの巣に行く道中で一つだけ採取していたのをマーチちゃんに増やしてもらっていました。
悪心薬L(Lv:4)は一秒間にMPを最大値の1,024%ずつ削ります。
しかも私特製のものですから、有効時間が切れることはありません。
MPを回復したとしても減り続けます。
状態異常を治さない限り。
状態異常を治すには、状態異常を治すスキル(ジョブスキル含む)を持っている人に治してもらうか、状態回復薬を使うしかないとのこと(マーチちゃん曰く)。
ライザは状態異常を治すスキルを持っていませんし、仲間もいません。
それに第一層、第二層のお店には状態回復薬は置いていません。
即ち、ライザは状態異常を治せません。
困惑するライザを余所に、狙われていたパーティの人たちにマーチちゃんが『帰還の羽』を渡しに行きます。
それはここへ来る前にマーチちゃんが購入したものです。
女の子四人のケアはマーチちゃんに任せて、私はライザの元へ行きました。
「本当に大変だった。モンスターを掻い潜ってダンジョンを降りてくるのは。マーチちゃんの『石像化』がなかったら、私たちは今ここにいなかったかもしれない。マーチちゃんにすっごい負担を掛けちゃったし、危険にさらした。だから私は、どんな理由があったとしてもあなたを許さない」
私がまっすぐライザを捉えながら私の意思を示すと、彼女はその場に崩れ落ちてぽつりぽつりと呟き始めます。
「……ああ、終わりやがったんですね、何もかも。MPがこんなんじゃ、『トリックスター』も『光の記憶』も使えねぇです。これじゃあ、このゲームへの復讐なんて続けられねぇですね……」
私に、もう笑うしかないという感じの笑みを向けながらそう言ってきたライザ。
その顔は観念しているように見受けられますが、私は警戒を解きませんでした。
一度、騙されているので。
「復讐? 何があったらそんなこと考えるの?」
私がライザのことを監視するように見ていると、マーチちゃんがやってきてライザに問いました。
四人の女の子たちは無事、街に戻っていったようです。
マーチちゃんに質問されて、自分語りをライザは始めました。
「……
……いや、いた、っつー方が正しいですね。
そいつは高校に入ってしばらくして虐められるようになりました。
おどおどしてるのが気に食わねぇっつー、理解に苦しむ理由で。
いじめに気づいたわーは、そいつを助けました。
親友だったから。
でも……。
そいつを虐めてた奴らに今度はわーが虐められるようになって……。
それは日に日にエスカレートしていって……。
わーはそいつに助けを求めました。
未来ちゃんが困ってたら、私、絶対に助けるから!――って言ってくれてたから。
なのに、そいつは――
――私、あなたとはなんでもない! 私を虐めないで! 虐めるならこの子だけにしてっ!――なんて言い出しやがったんです……。
その日は解放されましたがショックで彷徨うように学校をうろついてたら、わーを虐めてる主犯の奴らの声が聞こえてきて。
あいつら、わーに男とそ、そういうことをさせて金を稼がせよう、とか話してて……!
その中にあいつもいて……!
……わーは怖くなって、学校に行けなくなりました。
引きこもりになったわーは、ネットで夢を見るように遊べるゲームがあることを知って、現実から逃げるためにそれを買いました。
ベータテストをする人を募ってるゲームがあるのを知って、それに応募したら当たって……。
それがこのゲーム。
楽しかったんです。
『物体操作』っつースキルで敵をなぎ倒すのは爽快でした。
わーの居場所はここだったんだ、って思いました。
けど……。
第一層三階の
わーは地獄に突き落とされました。
――データが消し飛びやがったんです。
もちろん、開発元に抗議しましたよ?
それでレベルと装備、持ってたアイテム、お金は戻すって言われました。
でも。
肝心のスキルはそこに含まれなかった……!
――他のプレイヤーが既に取得してしまった――っつー理由で!
おかしいでしょ!?
なんでわーだけがこんな目に!?
わーは裏切られたんです、このゲームに!
だから、だからわーは……っ!
――このゲームを楽しんでる奴らをこのゲームから引退させて、このゲームをサービス終了に追い込んでやる!――って決めたんです!」
「そ、そんな……っ! あそこのバグでデータが飛んだのってライザのことだったの……!?」
ライザの身の上話を聞いて、マーチちゃんは驚いていました。
そういえば、マーチちゃんから聞いたことがありましたね……。
私がやっているボス部屋前のログアウト・アンド・ログインはベータテストでは危険な行為とされていた、と。
どうやらそれでデータが消えることを体験していたのがライザだったみたいです。
……確かに彼女はつらい経験をしているのかもしれません。
それでも、彼女のやったことを私は認められませんでした。
マーチちゃんは少し、同情してしまっているようでしたが。
「自分が楽しめてないから、不幸だからって他の人も不幸にするっていうのは間違ってる」
私が突きつけた言葉にライザは強い反応を示しました。
歯を軋ませて抗議をしてきます。
「……
「わからないし、知りたくもない。他人を傷つけようとする人の気持ちなんて」
「え……っ」
同情してもらえると思っていたのでしょうか?
けれど、私はしません。
切り捨てます。
この反応が予想外だったのか、ライザは勢いを失いました。
私は続けます。
「どんなに自分が傷ついたからって他人を傷つけていいわけじゃない。それをしてしまったあなたは、あなたを傷つけた人と同じになっちゃったんだ。あなたが憎んでるその人と同類に」
「あ、ああ……っ」
「間違ってるんだ。努力をするなら他の人を不幸にする努力じゃなくて、自分を幸せにする努力をするべきだったんだよ。自分だけがつらい思いをしてる? 幸せになれないから他の人も不幸にする? バカ言わないで。幸せになろうとするのを諦めた人に幸せを実感できるわけがないでしょ!?」
「ああああ……っ!」
ライザにぶつけた言葉の数々。
彼女の考えが気に入らなかったんです。
足を動かせなくなったというつらい思いをしても楽しいことを見つけようとしている子がいるのに、幸せになることを諦めたライザがその子の幸せを奪おうとしたことが。
泣き崩れるライザから視線を外し、その子のことを見ながら
――この子の幸せは絶対に守る
と、私は私に誓ったのでした。
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